第4話 料理

「料理がしたくなったわ」私は料理長と共に、キッチンに立っていた。


「これは、国王殿下も喜びますな」


「うーん。そうしたいとこだけど、私の腕ではね。そうだ、監獄の彼に食べさせましょう」


「そんな、もったいない。寛大なお心に感謝

するでしょう」


「私は作ってないわ。冷めないうちに運ばせて」


 メイド長に指示をすると、私は部屋に戻り、化粧をした。


 どの服が、どの髪型が、彼は好きだったかしら。鏡に映る自分の姿を見ると、涙がとめどなく頬を流れていった。


「あの子が、レイラ様を裏切るなんて……」


 メイド達の声が背後でささやかれる。


 私は崩れた化粧を直し、心の中で覚悟を固めた。


 彼は失意の中、独房にいた。


「開けて」看守に指示をし、独房の扉を開けさせた。


 食事は残さず食べていた。それが嬉しかった。


「美味しかった?」とは聞けなかった。


「悪いけど、二人にしてくれる?」


 私は、警護兵を下がらせた。


「ねえリドリー、お願いがあるんだけど」


「何だ?」


彼は怒っていた。


「取引をしましょう。もし、あなたがこの国に二度と戻らないと誓うなら、釈放するわ」

「やだね」


「もちろん今まで尽くしてくれたんだもの。手切れ金も渡すわよ」


「……やだね」


 彼は、また私の言うことを聞かない。約束を守る男は、なかなか約束してくれない。


「なんでよ、一生後悔して生きるといいわ!」


 (なんでよ! 私は、あなたを守りたいだけなのに!)


 私が彼に出来ること、ただ一つだとわかっていた。


 目論見は、やはり外れた。彼が災禍に居合わせないように――最果ての地に。

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