第2話 疫病
彼を奉公人の住む離れ小屋に下男として働かせた。しかし、彼を放り出すことでは無い。
私は、彼ができるだけ自由な時間を持てるよう執事に指示し、剣や学問に打ち込める環境を整えた。
彼がこれからの人生で困らないように。
彼の反骨精神は、その才能を開花させる。
剣の才能はすぐに頭角を現し、道場で一番弟子にまで上り詰めた。
「騎士団入団を考えるらしい」と監視させてる御者から報告があったが、当然、そんなことはさせない。
一方で、学問の才能が開花することは今回もなかった……
今、直近の課題として重大な問題があった。それは、五年後に必ずこの国で流行する疫病だった。
過去七度のタイムループを経ても、毎回避けられなかった出来事だ。
この疫病を封じ込める鍵となる人間はすでにわかっている。他国の王子、大商館の若き後継者、そして天才薬師――。
彼らにどこで会えばよいか、どうすれば協力してもらえるか。それは過去の経験から理解している。
同時に、国王には感染対策の前段階として、衛生管理の重要性を訴えなければならない。だが、この提言を理解させるのは至難の業だ。
過去のループでも、完全に成功したことは一度もない。
しかし、ここで声を上げなければ、後の感染対策に関する発言権を失ってしまう。
兄や姉にも働きかけたが、彼らは私の意見を真面目に受け取らず、嘲笑うばかり。
だが、ループの繰り返しで、話し方、話し相手を学んだ結果、少しずつ被害を減らすことができた。
それでも、今回も多くの王国民、兄二人を失った。
私は、死を見過ごすことがどうしてもできなかった。
これは、ゲームではないのだ。そこにあるのは、ただの死――
今回、兄二人が疫病で亡くなったことで、私の王位継承権は五番目となった。
だが、順位など、どうでもいい。いや、どうにでもなる。
この疫病の対応を通じて、父からの評価は上がっているのだから。
しめやかに行う兄たちの葬儀を、国民からの人気を、私が得る機会に変える。
葬列はまるで凱旋パレードのように。
国民の支持は、未来の厄災に立ち向かうために必要な力だ。
もちろん、眉をひそめる者もいる。
私の道を阻む者たちをあぶり出すための餌。
私は、老獪な政治家のように、手ぐすねを引いて準備を整えていた。
私と彼は、十四歳になっていた。
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