師匠に『キミのそういうところがだいっきらいだった』と言われる話。

@fuji36

師匠に『キミのそういうところがだいっきらいだった』と言われる話。


「ボクはね。キミのそういうところがだいっきらいだった――」


 それが、師匠からの最後の言葉になった。













 元々、俺は普通の高校生という奴だった。

 ごくごく平凡で、人並みに遊び人並みに勉強し、学校面倒だなぁとか考えながら惰性で通う。

 どちらかと言うとインドア派だったので、図書室に籠って貸出禁止のマンガ本を読み漁ったり、学友と学校帰りにマクドへ集まり駄弁りながらソシャゲで遊ぶ。オタクと言うにはラノベや青年漫画にはほとんど手を出していなかったし、アニメも話題作とジャンプアニメくらいしか見ていない、そんなどこにでもいる高校生。

 顔は平均くらいだったと思うけど、そのことを言うと友人(オタク。けど金持ちで聞き上手なので意外とモテる。ちくしょう)からは腹パンをくらってたので、今思えばイケメンに分類されてた可能性があるのか。…自分で言うと痛いな、これ。

 最も、それも去年までの話だった。

終末事象ドゥームズ・フェノメノン』…それ単体で世界を滅ぼしかねないことから名付けられたその怪物たちと、それに抗う超常の力『魔神器アーティファクト』使い達の戦いへと俺は巻き込まれた――否、自分から足を踏み入れたのである。




 それは、ある日の夜であった。たしか、塾の補講で遅くなった帰り道。早く帰ろうとショートカットに普段は通らない裏路地を急いでいたんだったかな。突然、大きな処刑鎌デスサイズを持った怪物に襲われたんだ。


「『ドラゴン』、だな。いや、まだ違うのであったな。だが、だからこそ今ここで貴様を始末すれば…!!」


 そう言いながら襲い来る怪物を前に、腰を抜かして逃げることすらままならない俺を助けてくれたのが師匠だった。


「ケガはないかい? 少年。安心したまえ。このボクが来たからにはもう大丈夫さ」


 颯爽と現れた師匠は月並みな言葉ではあるがとても強かった。

 血を固めて生み出した二本の短剣で怪物の大鎌とほぼ互角に渡り合う。ぶっちゃけた話しこの時点だとヤムチャ視点状態だったのでろくな解説はできないが、ただ目の前の戦いが余人の介する事が出来ない戦場であり、俺はただ見てるだけしかできないのだと思わされた。

 そして、見てるだけだったからこそ、その二人の戦いへとちょっかいを出そうとしていた二体目の怪物に気がつくことができ・・・


「危ない!!」


 気がつくと、俺は身を挺して師匠(この時点ではまだ違ったのだが)をかばっていたのである。

 その後の事は伝聞でしか無いのだが、俺を仕留めたことで油断したはじめの怪物を師匠は切札を持ちいて撃破し、さらには二体目の怪物を返す刀で仕留めたと言っていた。


 師匠の能力――伝承型魔神器アーティファクト吸血鬼ドラキュラ』の力によって一命を取り留めた俺は、その後魔神器アーティファクトドラゴン』の力を手に入れ、終末事象ドゥームズ・フェノメノン達との戦いへ関わるようになる。


 はじめは、ただ巻き込まれただけだった俺を師匠は戦いから遠ざけようとしてくれていた。

 それでも、力を手に入れてしまった俺を遊ばせておくだけの余裕はなかったらしく、俺もまたそれとは関係無しに戦いに関わることを望んだ。

 俺の得た力は、魔神器アーティファクトの中でも最強と言われる概念型だった。古今東西ありとあらゆる『竜』にまつわる伝承を再現し操るその力はすさまじく低ランクの終末事象ドゥームズ・フェノメノン相手であれば戦いの素人だった俺ですら単独で仕留める事も可能なほどであった。


 様々な敵と戦った。


 地震を引き起こす大ナマズ。古くなって捨てられた電化製品の付喪神。元魔神器アーティファクト使いや地球侵略を企む宇宙人や再び天を支配しようと目論む神話の神まで。


 中には搦め手を操る敵もいた。


 男女の仲を拗らせて修羅場をつくりに来たり、ハニートラップを仕掛けてくる者もいれば、過去へ遡って力を手に入れる前の俺を殺そうとした奴までいた。


 たくさんの仲間を得た。


 俺より先に魔神器アーティファクトに選ばれて戦っていた戦士達。俺より後に選ばれた後輩達。そして中には敵として相対していた奴もいた。


 戦って、戦って、戦って。

 そして、史上最強と呼ばれた終末事象ドゥームズ・フェノメノンとの決戦の時が訪れる。

 星を喰らいエネルギー源とするその怪物『星喰』を倒すべく、俺たちは決戦へと臨んだ。

 戦いは、三日三晩に及んだ。

 激しい戦闘の末に、どうにかコアを貫き破壊することに成功したその瞬間の油断を、『星喰』は見逃さなかった。


「死なば諸共よ」


 とに、残されたエネルギー全てをつぎ込んだのであろう高出力の光線が師匠の命を奪おうと放たれる。一瞬の出来事だった。・・・その場に残されたのは、消滅していく『星喰』の残滓と、唖然とした表情でこちらを見つめる五体満足の師匠。そして、師匠を突き飛ばしたかっこうのまま左半身を消し飛ばされた俺の姿だった。









「ボクはね。キミのそういうところがだいっきらいだった。・・・残されたボクがどう思うか考えたことはあるのか!! キミがボクを想ってくれてるのと同じくらいに、キミのことを想っていると想像したことはなかったのか!! もうどこにも行かせない・・・逝かせてなるものか!! ボクをもう一人にしないでくれ!」


 あぁ、誰だろうか。師匠を泣かせる人は。数百年は生きてるくせに、未だに乙女思考の抜けきらないポンコツだけど、俺の大切な人なんだ。

 ぼやけた視界の中、取り乱したように泣き叫ぶ師匠の姿を探す。焼けただれた肌に落ちた水滴で気がついた。――あぁ、師匠を泣かせてるのは俺なんだって。


「大丈夫、です、師匠。泣かないで、下さい。大丈夫です、から」


 あぁ、声を出すのも大変だ。この人、以外と泣き虫だからなぁ・・・ 大丈夫だって、ちゃんと伝わってると良いんだけど。

 残った右腕を動かして、師匠の涙を拭う。それが限界だった。そこで、俺の意識はゆっくりと闇へ消えていった。















 その後、きちん大丈夫だった事を物理的に証明した『竜』の力で再生した俺は、心配をかけた罰として師匠――いや、彼女と付き合うこととなったのは別の話。

終末事象ドゥームズ・フェノメノン』達との戦いはまだまだ続く。俺たちの戦いはこれからだ!
















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