動物たちがパニックに!
「マンボウがいかにデリケートか知ってるわ。念のため聞くが、まさか殺してないよな?」
「びっくりしたら死ぬってやつ? 違う違う。マンボウって自分で餌とって食べるのめちゃくちゃ下手なんだよ、水族館でも口の近くに餌運ばないと食べられないって聞いたからさ。大好きなイカとタコのすり身を団子状にしたものを口に放り込んであげたら、嬉しすぎてちょっとパニックになってた」
ほら、と自分で録画した動画を見せてくれた。すり身団子を口に入れた途端、ゆっくり泳いでいたのに突然ヒレを超高速でパタパタしてあちこちを泳ぎ回っている。
「クリスマスにゲーム機買ってもらったアメリカの小学生みたいな反応してやがる、すげえ幸せそう」
まさに転げまわるという表現が正しい。こんなにわかりやすいはしゃぎ方ある? と言いたくなる。
当然だが男は不法侵入および無断で餌をやっている。そっちの罪は一旦置いといて。
「カルガモ親子の道路横断を手伝った? これは別に良い事だろ」
報告書を見ながらそういうと、男はにこにこと笑う。
「いや、そのままグレーチングに誘導した」
「……おい」
「雛が全員落っこちてお母さん大パニック」
映像には、可愛らしいカルガモ親子がヨチヨチ歩き。グレーチングの溝から雛だけ次々と落ちていく。さながらレミングスのごとく。
おろおろと溝を覗き込む母カルガモ。音声入りなのでピヨピヨと鳴き声が大量に響く中、あはは可愛いなあと笑う男の声が入っている。
悪魔かお前は、と言おうとしたが。映像の中では男はそのまま近づき、蓋をガバっと持ち上げると子カルガモが入った袋を取り出した。
「ちゃんとクッションと袋用意しておいたから、全員回収したよ」
「片手でクソデカい側溝の蓋持ち上げてることにはつっこむべきか?」
映像には再会を喜ぶ親子。再び川に向かって歩いて行った。全員川に入って泳いでいく姿まで映っている。
「次、犬。一番人間と近しい存在なんだから大パニックになるネタたくさんあるだろこれ」
次の一ページをめくってそういうと、いろいろ書いてある。注射を嫌がる犬を抱っこして獣医のもとに連れて行く手伝いをしてあげただの、長年鎖でつながれた犬をこっそり連れ出してボール遊びしただの。犬は喜びを全身で表現するのでまさに大パニックの連続だ。
一体誰がチェックしてんだこれ、と思うようなパニック……いや間違っていないが、なんだかホッコリエピソードが並ぶ。
そして資料として提出された映像。そこには、やせ細った老人が必死に犬を呼ぶ姿。犬も痩せていて、恐る恐るといった様子で老人に近づく。匂いを嗅ぎ、キャウンと鳴くと勢いよく飛びついてきた。
きゃんきゃん、と甲高い声で鳴き続けながら尻尾を振る。老人をもみくちゃにしながら、顔を舐めながら必死に抱き着く。老人は涙を流しながら抱きしめて犬の頭や腹を撫でている。
「ごめんなあ、ごめんなあ! よく無事だった、よく生きてた! もう会えないかと思ったよお!」
「きゃんきゃん、きゃん!」
「ありがとうございます、本当にありがとうございます! 感謝してもしきれません……なんてお礼をすればいいか」
「いえいえ、お気になさらず」
映像の中で男はスマホで飼い主と犬の様子を撮影し続ける。犬は狂ったように鳴き続けながら、尻尾を振って老人から離れようとしなかった。老人は声をあげて泣いている。
「以上。震災時に離ればなれになって三年経ち、寂しさからご飯を食べなくなってこのままじゃ死んじゃうと公園で泣いてた新飼い主の話を聞いて本来の飼い主を探して再会させた時の動画」
「やめろ俺こういうの弱いんだよ」
目頭を押さえながら牧師は映像を止めた。ちなみに犬は飼い主同士の話し合いの結果、元の飼い主が飼うことになったらしい。
新飼い主は今も毎月、ジャーキーやトイレの砂などを送っているそうだ。二人の交流は続いてるよ、と言われて牧師はチーンと鼻をかむ。
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