28:こども
「いやあ、いつもこの瞬間が楽しみなんだよね。私が産み出した
パラドックスの部屋はアーサーには見たことがないような試験管や薬物が棚に並んでおり、何かの解剖図らしいものが壁に掛けられている。
デッドビートはその解剖図がパラドックスが以前いた
アーサーはパラドックスが壁に掛けている解剖図のほかにウィスカーに報告できるよう、部屋の構図を覚えようとしている中、パラドックスは数々のラクリマを置いている台座が載せているテーブルへと向かい、いくつか見繕った。
アリの巣状の赤い雫のアジトだが、その中でもパラドックスの部屋は他のどの部屋よりも広く、ドクターの立場は組織内でも優遇されているのが伺える。
「スライム君はこちらに来てくれるかい?君のデータも色々と取りたくてね」
「お、おい!?何をする!」
パラドックスは台座から外したラクリマをいくつかテーブルに手袋をした上で並べた後、おおざっぱにデッドビートの身体をナイフで切り取った。
超人・アンデッドアーサーの姿であれば、痛みを感じたかもしれないが、スライムの身体は痛覚を持たないのが功を奏したというべきか。
とはいえ、変わらない
「おー、髑髏面みたいな顔をしているのにちゃんと切れるんだねぇ?関心関心。ルティ君、君はなってみたい姿とかあるかい?エレン君やレン君はサメをあげたんだ。
あの子たちみたいな不良少年らしく、優位に立てる
ペラペラと自分の作品について語る一方、パラドックスはデッドビートのことは一切語らなかった。
デッドビートは知っている。
パラドックスは失敗作は廃棄し、すぐに次に切り替えて新たな研究に取り組むことを。
研究者として、パラドックスのスタンスは一流だろう。
過去に囚われず、次の研究へと切り替えられるのは、新たな発見を見つけることに繋がる。
現にパラドックスがラクリマの開発者であるというならば、そのスタンスだったからこそ、柔軟なアイデアによって魔法の才能を持たないものでも扱えるマジックアイテムを産み出せたと言っても過言ではない。
「僕は、別に」
「ふーん、そうかい?つまらないなぁ。とりあえず、気に入ったヤツがあったら、使ってみなよ。私もデータがとりたいからね」
『何かつかめたら、すぐに通信メダルで連絡しろ』
パラドックスがアーサーに握らせたラクリマには、ドラゴン、オーガ、グリフォンなど幻獣や一流の魔法使いであっても、一人で討伐することが困難だと言われるほどの力を持った怪物のロゴが入っていた。
アーサーがウィスカーの言葉を思い出しつつ、ラクリマを見つめているため、思った以上にパラドックスの言葉に食いついてこないことでパラドックスは訝しむような眼差しを向けていた。
「……君さぁ、良い子ちゃんだよね。したっぱくんを組み伏せていたようだけど、あまり慣れてる感じしなかったな。ああいうとき、ここに入ってくる子たちっていうのは、相手の腕を折るくらいの勢いで来るし、そこにブレーキはない」
デッドビートがスライムボディをぷるりん、と動かしながら、アーサーの方へと近づいていくと、パラドックスはまるで見てきたかのようにアーサーに語り掛ける。
「……別に折る必要がなかったからさ」
「そういうところだよ。未知の道具を扱うにも、力を振るうにも。タガが外れていなければ、それを突き止めることができないと私は考えている」
パラドックスはリモコンらしきものを手にすると、ボタンを押した。
一瞬にして先ほどのカインの部屋での出来事が映し出され、アーサーが構成員を地面に組み伏せる様が再生される。
「これは、一体どうやって……」
アーサーはその奇妙な光景に慄く。
デッドビートは科学を
過ぎた科学は魔法にも匹敵する、と言う言葉があるようにアーサーにはパラドックスがまるで時間を操る魔法を行使したように見えた。
その手に持っている小さなマジックアイテムを使って、過去の出来事を映し出して再現したように思えたのだ。
「君たちが魔法と呼ぶ者とはまた異なる技術体系、私たちはこれを科学技術と呼んでいる。……私たちの世界には面白い言葉があってね、“過ぎた科学は魔法にも匹敵する”そうだ。君たち、ファンタジーの住人に私の科学が通用して嬉しい限りだよ」
「……ドクター、ラクリマはマジックアイテムじゃないってことか?」
ケラケラとからかうように笑うパラドックスはアーサーの反応にご機嫌な様子だった。
そんなパラドックスに場の雰囲気を支配されまいと切り出すと、パラドックスは冷めたような視線をデッドビートに向ける。
「……君のようなスライムにドクターと言われる覚えはないんだけどね?私と君は友人か何かだったのかい?」
「デッドビート!!」
パラドックスがしゃがみ込みながら、デッドビートのスライムボディを掴んだとき、アーサーが名前を呼んだのを聞き、「……デッドビート?」とパラドックスは引っかかった。
デッドビートは髑髏面の奥の瞳のようになっている炎を燃やしながら、パラドックスを睨むと、数十秒してからパラドックスは笑い出した。
「ああ、
「……彼は失敗作なんかじゃない。僕のヒーローだ」
アーサーはパラドックスが失敗作と呼んだ、デッドビートの呼び方を否定する。
「小僧、お前」
デッドビートは自らをヒーローではない、と否定するも、アーサーがここで言い返すとは思わなかった。
「おや?君はもしかして、今のそいつのパートナーかい?
立ち上がったパラドックスがアーサーの方へと近づいてくると、その背丈はアーサーよりも高く、学者ながらも相当上背がある。
ずいっと顔を近づけながら、しかめっ面を浮かべるのは、三年前にアーサーが死の淵を彷徨っていた頃、初めてデッドビートと出会った頃を彷彿とさせる。
パラドックスが何と言おうとも、デッドビートの
「ここは私が自由に研究できる、私のラボだ。
気分を悪くしたパラドックスはアーサーにデッドビートを返し、握らせていたラクリマをいくつかひったくった。
その後、アーサーをパラドックスの部屋から追い出した。
「不愉快だよ、ルティ君。私の発明を必要ないと言ったところも含めて」
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