アルビオンのファイトスタイル

 アステルは宣言通りに猛攻を仕掛ける。

 ルーデンスはアルビオンの武装の機動を試みる。

 ブラックオックスに見合ったサイズの《ブースト・アックス》の怒涛の連続攻撃に対し、手で触れてアルビオンの武装にすることは困難だった。


『アステル選手、ブラックオックスの怒涛の連続攻撃で攻める!攻める!攻める!ルーデンス選手、アステル選手の隙が見つからない!!』


 ルーデンスが《ブースト・アックス》でブラックオックスの攻撃をガードするのに精一杯なところ、ブラックオックスは更に攻め立てていく。

 ブラックオックスの主な戦法が《ブースト・アックス》を用いたものなのはリーグ昇格戦の試合配信で知っていたが、正直なところ、パワーに偏った印象を持っていた。

しかし、実際のブラックオックスことアステルは技巧にも優れ、一筋縄ではいかない。


「(ブラックオックスは一撃一撃が重たいからか、あの子ルーデンスも防戦一方ね。

ただの見かけ通りの脳筋馬鹿じゃなかったってことか。

ルーデンス。あれくらい、なんてことないって切り抜けられなかったら、アンタにお姉ちゃんヒルダは超えられない)」


 エヴァーレインはブラックオックスとアルビオンの戦いを見守り、冷静な分析を行った。

 ルーデンスは《ベイルナイト》を着装こそすれど、ベイルバトルの歴はほとんど最近の新人も良いところだ。

 そんな素人も良いところのルーデンスがプロリーグ寸前・・までいったブラックオックス、アステル・クレスに勝ち目はほぼない。

 量産品のザトスを自分の戦闘スタイルに合わせたカスタマイズを施し、ベイルバトル歴も長いとあれば、差は歴然である。

 

「クレス家は《ベイルナイト》着装者の家系、そこらの素人とはレベルが違うんだよ。

特にお前のようなのが出張って来るな!」


 防戦一方なアルビオンにブラックオックスが《ブースト・アックス》による猛攻を続ける中、その刃に力が溜まっていくのを示すように白銀色の輝きを放つ。

その輝きは《ブースト・アックス》が万全の効果ちからを発揮する予兆でもあった。

 一方、アルビオンが握っている《ブースト・アックス》はオックスのそれによる攻撃で砕け散る。

アルビオンの手から離れた、それは白銀色から本来の銀色の刃に戻った。

無理もないことだった。

カスタマイズも施されていない、大会で支給された《ブースト・アックス》一本とブラックオックスに合わせた専用装備としたものでは差が生まれてしまうのは明白。

 

『ブラックオックスのチャージが完了したァ!白銀の輝きはこのまま炸裂してしまうのか!!』


 ブラックオックスが《ブースト・アックス》で勢いよく構えを取ると、アルビオンは本能的に白銀色の腕を交差してガードする。

 あの一撃を受けてはまずい、と本能が直感で感じ取る。

しかし、熱心に見てきた白銀アルビオン女王ブリュンヒルドのベイルバトルの配信では、放たれる攻撃を前に・・・・・・・・・女王はあえて・・・攻撃を繰り出すことで対処していた。

 アルビオン・ブリュンヒルドの唯一と言っていい技であり、それはカウンターであった。


 交差していた腕を崩し、両手で手刀を作ってファイティングポーズを取る。

 それが何か、エヴァーレインや会場の一部は気づいていた。


「(やってみるか)」

「そら、もう諦めたか?当然だな、お前にはもう武装がないのだから!」


 顔を覆う仮面の下でアステルがニヤリと笑ったような気がした後、ブラックオックスの白刃が振るわれる。

 その瞬間、腕を交差したアルビオンの目にとまったのは砕け散った《ブースト・アックス》の刃だった。

 アルビオンはブラックオックスの懐に潜り込むように前転して《ブースト・アックス》の攻撃を潜り抜ける。

 前転した際、アルビオンが掴んだのは大会受付で支給された《ブースト・アックス》の銀色の刃だった。


『万事休す!アルビオン、ブラックオックスのチャージ攻撃を避けた!』

『ベイルバトルの勝敗はどちらかが胸部の水晶体、ベイルタルが破壊されるまで続く。

ブラックオックスのいまの一撃は相当なものだった。

ブリュンヒルドの弟が前転で回避することを選ばなければ、ただでは済まなかったろうな』


 実況席でファングは静かに告げた。

 ベイルバトルと《ベイルナイト》でしか口を開くことがないが、それはファングが認めた場合に限る。

 絶対女王ブリュンヒルドに何度も挑み続けた、狼漫王マッドルプスがアルビオンとルーデンスに興味を惹かれたことで会場のボルテージは上がった。


「負けんな!アルビオン!!」

「姉ちゃんも凄かったが、お前もすごいぞ」

「武装がなくっても、勝てるってのを見せてくれよ!」


 そんなガヤが観客席から飛んでくる。

 口下手な姉はファンサービスが上手くできなかったが、ベイルバトルを何度も観戦してきたルーデンスは拳を突き上げて応じた。

 かつて、ヒルダが白銀のブリュンヒルドの唯一の武装・アルビオンブレイドを掲げたように。


「……チャンピオン・ポーズだと?」


 アステルは《ブースト・アックス》の攻撃を前転で回避し、砕けた支給品の《ブースト・アックス》の刃を手に立ち上がる姿に不満を漏らす。


「生憎、俺からのファンサ・・・・はこれしか思いつかなかったからな」


 アルビオンの仮面に覆われているにも関わらず、ルーデンスの不適な笑みがアステルには見えた。

 かつての絶対女王・ヒルダはベイルバトルにおける激戦を繰り広げた数に対し、口数はあまり多くなかった。

 ファンサも珍しく、その少ない一つがブリュンヒルドのチャンピオン・ポーズである。

 アルビオンが応じたことで観客席から歓声が上がる。

 ブラックオックスは忌々しいといった様子でニ、三回と《ブースト・アックス》を振ると、アルビオンに距離を詰め、手にしているそれを叩きつける。


「そんな壊れた刃で何ができる!?アルビオンの紛い物め!」

「紛い物で結構だ!俺と姉ちゃんは違う!」


 アルビオンがブラックオックスの攻撃を受け止めたのは砕けた刃であった。

 当然、ブラックオックスの攻撃で破損はさらに進むことになるのだが、逆の現象が起きていた。

 アルビオンが手にし、ブラックオックスの攻撃を受け止めたソレは白銀の輝き・・・・・を放っていた。

 アルビオンのイメージを具現化するように《ブースト・アックス》だった・・・刃は剣を形成していく。


 一振りの剣がアルビオンの手に現れる。

 壊れた刃からなんの変哲もない、《ベイルナイト》の剣に変わった様に見えるが、アルビオンがその白銀の刀身を持つ剣、アルビオンブレイドを握るのは意味が違う・・・・・

 アルビオンはアルビオンブレイドを握り、ブラックオックスの《ブースト・アックス》を力を込めて弾き飛ばす。

 アルビオンの力ほどであれば、ブラックオックスが対抗することは難しくない。

しかし、目の前に伝説が現れた・・・・・・ことは動揺を誘うのには十分だった。


『あ、アレはなんだ!?ルーデンス選手のアルビオンが砕けた《ブースト・アックス》の刃に触れると、その形は絶対女王のアルビオンブレイドを形成した!?』

『面白いッ!ブリュンヒルドの弟、必ず勝ち上がって来い!そして、高みで俺とやり合おう!』


 ルーデンスがアルビオン・ブリュンヒルドを彷彿とさせるような戦法で会場を熱気で湧かせる。

 会場内でアステル・クレス、ただ一人を除いて。


「(ルーデンスとは出会って間もない。でも、このめちゃくちゃな戦法……)」

「(先生と同じ……)」


 レイはルーデンスの戦いがヒルダが駆る、アルビオン・ブリュンヒルドの戦いを彷彿とさせることを思い出す。


『私のベイルバトルは私の弟が好きだからな、私が勝つのを見せてやりたい』


 レイがヒルダに師事していた時、ヒルダの強さについて尋ねると、ヒルダは珍しく笑って答えた。

 ヒルダは笑うことは少なかったが、唯一の肉親である弟の名を口にするときだけは優しく笑みを浮かべていたのが印象に残っている。


「例の配信で見たのより、だいぶ絵になるわねー。アイツの戦い方」


 エヴァーレインは感心したように頷きつつ、レイの肩に手を置く。


「貴女は分かっていたの?彼、ルーデンスが戦えることを」


 レイの言葉にエヴァーレインははあ?と端正な顔を歪めた後、ニヤリと笑って返す。


「決まってんじゃない。

あの馬鹿・・・・、ずっとずっと、だーいすきなお姉ちゃんのベイルバトル見てきてんのよ。アタシの店のザトスをアルビオンカラーにして壊したのは許さないけど、あの子の熱意はアタシが知ってる。

ルーデンスはアタシとヒルダの弟だからね」


 ヒルダを愛するアタシはヒルダに似ているルーデンスも大事にすんのよ。


 と、エヴァーレインはルーデンスを思いやる顔を見せた。

 レイはエヴァーレインの愛情を垣間見るのと同時、ヒルダがエヴァーレインを語らなかったことは伏せた。


 一方、アルビオンがアルビオンブレイドを握り、弾かれた《ブースト・アックス》がなくなり、ブラックオックスは状況が逆転した。

 ブラックオックスはアルビオンの繰り出す凄まじい速度の突きをかわしながらも、時折繰り出されるアルビオンの回し蹴りは装甲で受け止めるしかなかった。

 ブラックオックスの《ブースト・アックス》は市販のそれにカスタマイズを加えたものであり、そのサイズは通常の戦斧型の《ブースト・アックス》の二倍である。

ブラックオックスに合わせたサイズにしただけだが、《ブースト・アックス》を作り替えたアルビオンブレイドを手にしてから、アルビオンのスピードが体感的に上昇したように思えた。

 攻防が続く中、アルビオンブレイドを手にしてから、パワーアップしたように思えるアルビオンの攻撃はついにブラックオックスの弱点ウィークポイント、《ベイルナイト》の胸部に命中する。


 ベイルバトルの勝敗を決定するのは、胸部の水晶・ベイルタルの破壊である。

 これは世界ベイルバトル協会第一条に記載されている。


『き、決まったーっ!?アルビオンブレイドを振るった、ルーデンス選手のアルビオンがアステル・クレス選手のブラックオックスのベイルタルを破壊した!勝者、アルビオン!!

いま、この地にアルビオンが帰ってきた!!』


 興奮に震えた声で実況が伝えると、ボルテージが上がった席から一斉に歓声が上がる。

 ブラックオックスの展開を解き、アステルは膝から崩れ落ちた。


「ま、負けた……。

この間までマトモにベイルバトルもしていない、素人にベイルバトル着装者の名家たるクレス家の俺が、アステル・クレスが……」


 アステルにアルビオンが近づいていき、ルーデンスの姿に戻ると、ルーデンスは手を差し出す。


「お前、あんな戦い方ができるのか?ブリュンヒルドの弟」

「咄嗟に思いついたのがアレだっただけだ、運が良かっただけだ」

「ふん、勝ったやつに言われても嬉しくない」


 アステルはルーデンスの手を叩き、立ち上がって去って行った。


「ルディ、アンタやっぱデキる子じゃない!アタシの最愛のヒルダの弟なだけあるわ!

次も勝ちなさいよ!」

「姉ちゃんのおかげだ。……ありがとう、エヴァーレイン」


 側から見ていた満足げなエヴァーレインの声には笑って返す。

 いくつか、他の試合も終わり始めた頃、司会席から向けられる闘気をルーデンスは感じ取る。


「……狼漫王マッドルプス


 フライトジャケットのポケットに手を突っ込み、獰猛な表情を見せるファングをルーデンスは見た後、エヴァーレインやレイに呼ばれ、ルーデンスはその場を後にする。


 これがのちに華々しく伝説になる、アルビオンとルーデンスの初の公式試合だった。

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