大会開始

『それでは、これよりベイルバトル大会を開催いたします。

今回は特別ゲストに世界最強の《ベイルナイト》着装者、第二位の狼漫王マッドルプスの異名で知られるファング氏をお迎えしております!』

「御託は良い。早くベイルバトルを見せてくれ」


 受付が終了し、ベイルバトル大会の開催を司会が音声拡大魔法により宣言し、隣の男に振る。

 開催サイド側に座っている、飛行ベイルナイト部隊ハウンズの猿轡を噛まされた狼のロゴが入ったフライトジャケットを羽織った薄汚れた風体の男。

 手にはベイルナイトの待機状態の一つ、ベイルリングと呼ばれる指輪を着けている。

 


狼漫王マッドルプス!?」

「じゃ、じゃあ、あの待機状態の指輪ベイルリングイかれた組み方・・・・・・・って噂のスケイルルプスってわけか!?」

「噂通りにヤバい目ェしてるじゃないか。ブリュンヒルドと渡り合っただけはある」


 観衆たちに動揺が走る。

 話題に上がったのは、アルビオン・ブリュンヒルドとの対戦だった。

 

「もっとおっかねぇのがブリュンヒルドだ。あの女、スケイルルプスがスケイルで放った光線だろうとアルビオンブレイド一本で真っ二つ・・・・だからな」


 市販の武装を塗装したもの、白銀に塗装しただけの白兵武装の刀剣であるアルビオンブレイド。

 他に装備を持たず、ただ刀剣一本で数多の《ベイルナイト》着装者と渡り合う様は存在を知らしめた。

 史上最強の絶対女王ブリュンヒルド、そんな彼女と渡り合う鱗を持つ狼スケイルルプスとの戦いは観衆を熱狂させた。

 なんせ、ブリュンヒルドは現役時代、苦戦することはあれど、ベイルバトルで一度の敗北がない無敗記録保持者・・・・・・・なのだから。


「……まっどるぷす?」


 周囲の動揺にレイがルーデンスに尋ねた。


「最強の着装者五人の中でもランカー二位だよ。ブリュンヒルドねえちゃんが現れてからずっと・・・、《ベイルナイト》の武装構成に満足したことがないんだってさ」

「先生が話してくれたことあるわね。魔力を貯めたラクリマを使い捨て・・・・にし、一つでも扱いが難しいスケイルを使うと。

あの人はいくつ使うの?」


 ルーデンスは《ベイルバトル》の配信アーカイブを熱心にチェックしているが、レイはランカーの知識が乏しかった。


「……六個だ」

「六個!?」


 ルーデンスはファングに眼差しを向け、苦々しげに頷き、レイの質問に答える。

 レイはルーデンスの答えに目を丸くする。

 通常、《ベイルナイト》の維持に必要な魔力の消費以外にスケイルを展開・維持するのに魔力の消費を必要とする。

 着装ベイルオンして戦いつつ、スケイルの制御を行う。

 それは、二人の人間の体を同時に・・・別の動きをさせる行為と同じだ。


『ファング。ランカー二位。俺が求めるのは、興が乗るベイルバトル。

俺とスケイルルプスがアツくなるバトルを期待する』


 音声拡大魔法により、会場中に静かながらも確かに力の籠っている声が響く。

かくして、ベイルバトル大会は始まった。

対戦カードが発表され、順調にそれぞれの戦いが始まる。

 


『それでは、各々の対戦カードを発表します』


 魔力水晶ラクリマによって対戦カードが投影され、公開されていく。


『皆さん、確認はできたでしょうか?それでは、着装者の皆さんはそれぞれの定位置についてください』


 司会者の女が読み上げた最初の対戦カードから順に参加者が該当する番号の舞台に上がり、ベイルバトルが開始していく。

いよいよ、ルーデンスのバトルが近づいてきた時、色眼鏡サングラスをかけた見知った女が背後に立っていた。


 エヴァーレインである。


 レイニーマートのロゴの入ったエプロンをシャツの上につけたまま、淡いブルーの上着を羽織っている。

 長身でかつ美貌と抜群のスタイルの持ち主のため、とてもよく映えるのだが、いかんせん色眼鏡のレンズの色がピンクと趣味が悪かった。

 色眼鏡のテンプルを摘み、目を覗かせるエヴァーレインの顔はルーデンスを威圧する。

 サファイアブルーの瞳は獰猛な猛獣のようだとルーデンスは思った。


「ルーデンス。アンタ、あたしが見ていてあげるんだから、勝ってきなさい。

いえ、勝つのは当たり前だから、優勝してくんのよ?ヒルダと同じアルビオンを名乗るからには。

あたしの最愛のヒルダの名前に泥塗ったら、一週間店前の掃除をさせるからね」


 ブレスレット状の待機状態の《ベイルナイト》を身につけた腕を組みながら、エヴァーレインがルーデンスを威圧する。もちろん、笑顔で。


「エヴァーレイン、掃除したことないじゃないか。レイ、エヴァーレインは昔からこき使うのは一人前なんだ」

「理不尽極まりない女ね」

「は?」


 ルーデンスの言葉にレイは振ってこられたことを迷惑に思いつつ、ため息をついて返す。

 エヴァーレインはヒルダ愛を覗かせつつも、一応・・はルーデンスを心配しようとした。

 一応、幼馴染の弟で面倒を見ていると言えなくもないため、ルーデンスの言葉に青筋を浮かべる。


「とりあえず、行ってきなさい」


 背中を蹴り飛ばされ、ルーデンスは舞台に上がる。


「女連れか?良い身分だな、ブリュンヒルドの弟。お姉ちゃん・・・・・がいないと不満なのか?」


 ルーデンスの対戦相手はアステルだった。

 先ほどまでのエヴァーレインとのやりとりを見ていたらしく、ルーデンスを挑発する。


「とっとと始めよう。そんな挑発、聞き飽きてるんでね」

「チッ、つまんねえヤツだな」


 両者、位置につく。

 ルーデンスは対戦前にアステルが《ベイルナイト》を待機状態にさせている、ベイルバングルに触れる仕草が姉を彷彿とさせることに気づいた。


『両者、同意でよろしいですね?ベイルバトル、GO!』


着装ベイルオン!」


 ルーデンスのベイルブレスが白銀の光を放つと、四肢から順に《ベイルナイト》が展開される。

 全身を包み込むと、最後にアルビオンのカラーに合わせた《ブースト・アックス》が現れ、ルーデンスはそれを手にした。


着装ベイィィィルオォォォン!


 アステルの声を認識すれば、光が放たれ、《ベイルナイト》を展開する。

 その光が雄牛を思わせるフォルムとなり、ブラックオックスの名前と雄牛のロゴが入った《ブースト・アックス》が現れる。

 ブラックオックスの体格はルーデンスのアルビオンより一回り以上大きくあり、周囲に威圧感を与える。


『アステル・クレス選手は着装者の名家クレス家出身!市販品の《ベイルナイト》、ザトスをカスタマイズしたブラックオックス!!手にした《ブースト・アックス》は《ベイルナイト》の装備ではもっともスタンダード!その力を溜めた分だけ、《ブースト・アックス》の威力が上がるもの』


 アステル・クレスのブラックオックスの簡単な詳細を実況が伝えると、観客席から非難の声が上がる。

 最近のアマチュアリーグからプロリーグへの昇格戦で見せた、アステルのラフプレーは記憶に新しいようだ。


『ルーデンス選手はあの・・最強女王、白銀のアルビオンブリュンヒルドの弟であります!配信ラクリマをジャックして・・・・・・配信された、謎のベイルナイトとの戦いは記憶に新しいでしょう!

世界ベイルナイト協会WBAでも注目されております!』

『……ブリュンヒルドの弟、お前の性能ちからを俺に示してみろ』


 実況のルーデンスの紹介に対し、ファングがマイクを手にしたことで会場が湧き立つ。


「良い気になるなよ、ブリュンヒルドの弟!!」


 床に《ブースト・アックス》の刃を叩きつけながら、アステルは叫ぶ。


「ここで、お前をブッ潰す!」

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