コスプレって一刻堂。

猫野 尻尾

第1話:商店街のイベントに・・・。

安条町あんじょうまち商店街のはずれに「一刻堂」って小さな時計店がある。

僕はその店の店長の「時掛 一刻ときがけ いっこく」40歳、独身。

週末に開催される商店街のイベントの責任者を任された。


僕はそういう責任のある役は苦手なんだけど、役員は順番に巡ってくるから

僕だけやりませんってわけにはいかない。


商店街のイベントと言っても、イタチの最後っ屁みたいなもん。

って言うのも、もうすぐこの近所にアミューズメントパーク的ショッピングモール

が出てくるって話が持ち上がってる。


それは時代の流れ・・・いくら商店街の連中が反対したところで、地元の政治家も

絡んでいることから、大きいものには巻かれろで、なし崩しに企画は決まっていく。

そんなもの。


僕の店にもショッピンングモールから出店しませんかって打診があった。

だけどこんな小さな時計屋、そんな余力ないし・・・。

細々とやって行くしかない。


その僕の店、一刻堂を毎日ガラス窓越しに覗いて帰る女子高生がいる。

女子高生は欲目じゃなく可愛い・・・上の上って言っていい。

それは僕の女性を見るセンスの問題だけど、にしたって可愛い・・・誰が見たって

ブスだって言う人は、まずいないだろう。


もし僕が彼女と同世代だったら付き合ってよって声をかけてたかもしれない。

お互い生まれてきた時期がかなりズレてたことを恨むね・・・まあね。


彼女がなんで毎日そうやって店の中を覗いていくのか僕には分かってる。

女子高生は壁に掛けてあるディズニー限定の掛け時計を見てるんだ。


その子はこの先の「安条町児童養護施設」に住んでる女子高生。


児童養護施設だから親兄弟親戚がいなくて引き取り手のない子が世話になってる

ところ。

実は僕は店の営業時間が終えると、夜だけ養護施設の用務員をやっている。

用務員と言うか警備員みたいなものかな・・・これも役員の仕事。


こんな町でも夜中に空き巣が横行してたりするので女、子供のいるところは物騒

だからね。


だから養護施設にいると自然と店の中を覗いてた女子高生と顔を合わすこともある。

顔を合わせたら話もする。

その女子高生の名前は「道端 蒲公英みちばた たんぽぽ」18歳・・・来年の春には高校を卒業する。


蒲公英たんぽぽは、学校を卒業したら施設を出て自立したいらしい。

だから地元で就職ってことになるんだろう。


聞くところによると児童養護施設や里親家庭で育つ若者の自立支援は原則18歳

(最長22歳)までとなっているらしい、まあ年齢上限はいずれ撤廃されるみたい

だけど・・・。

だから望めば施設に留まることはできる。

だけど、蒲公英は施設にはいたくないんだろう。


彼女の今の楽しみはコスプレ。

コスプレすることが好きらしく、イベントなんかにも時々参加してるみたいだ。

僕は見たことないけどね。

さしてコスプレってものに興味があるわけでもないし。


だけど、そこで僕はふと閃いた。

今度の商店街のイベントの時、蒲公英たんぽぽちゃんにコスプレでもして

もらって花を添えてもらえないかと・・・めちゃいい考えじゃん。

で、彼女が店を覗いてる時に呼びとめて談判してみた。


「あのさ・・・頼みごとなんだけど、君さえよかったら今度の商店街のイベント

に何かにコスプレして出来てもらえないかな?」


「え〜・・・」


蒲公英たんぽぽちゃん、店の中の壁にかかってるディズニーの限定時計が

欲しくて毎日店の中、覗いてんでしょ?」

「イベントに出てくれたら、あれプレゼントしてあげてもいいけど・・・」


「本当ですか?いいんですか、もらっても?」


「いいよ、タダで出てもらおうなんて思ってないから・・・」


「だけど・・・アニメのキャラの衣装、一着しか持ってないですけど・・・」


「あ、もうそれでいい・・・で?アニメのコスプレって?・・・誰の?」


「クレセントムーン・シンフォニーってゲームに出てくるアリエアってエルフ

ちゃんです」


「あ〜ごめん、知らないわ」


「え?知らないんですか?」


「若い時はゲームも好きでやってたけど・・・RPGとか・・・でも今はね

根を詰めると目が疲れちゃうから・・・」


「それより商店街の・・・」


「いいです・・・お役に立てるならやらせていただきます・・・でも一応施設長さんに出ていいかどうか聞いてみますね」


ってことで、この商店街のイベントが僕、一刻いっこく蒲公英たんぽぽのこれからの行く末を

大きく変えて行くことになる。


つづく。


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