長い長いアリエルの試験の旅路~見習い魔法少女と黒の魔導士~

卯月二一

第1話 黒炎

※全6話となります。


 眼下に広がる黒炎、巨大な街を包み込む異様な色の大火はそこに住む者すべて、悪しき者も善き者も容赦なく灰へと変えていく。小高い丘に立つのは王国から特別にまとうことを許された純白と漆黒のマント姿の男が二人。


「これで奴らの拠点はすべて潰したことになるね。凄いよシヴァレイス! 君の力のお陰で僕達の正義の実現も目前だ」


 興奮気味に話すのは、教会による神の神託により選ばれた、純白のマントを羽織はおる勇者ラインハルト。屈託くったくのない笑顔を浮かべながら俺にそう言った。


「いや……」


 俺は、何かを言おうとして口をつぐむ。明るい金髪の勇者と黒髪の魔導士。誰かが言ってたか、太陽と月、光と影、まったく対照的であると。そう、俺はこいつを支える存在だった。


「どうしたのさ? 残すは最終決戦。ここまでの長く苦しかった戦いもあと少しだよ。そんな顔しないで、あと少しで僕らは人類にとっての英雄になれるんだからさ!」


「それは……、人にとってのな……」


 俺はそう呟くと、漆黒のマントをひるがえし、焦土と化していく魔族最大の都市ヴァルハラに背を向けて歩き出す。


「俺は、この戦いから降りる」


 そしてそうラインハルトに辛うじて聞こえるほどの声で、俺は続けた。


「えっ!? 何を言って……。ねえ、待ってよ! そんなこと女神様が許すはずないじゃないか」

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