信長のキャディー
阿弥陀乃トンマージ
信長、タイムスリップ
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「……!」
ある晴れた日の早朝、岐阜県にあるゴルフ場、『天下布武カントリークラブ』のコースに快音が鳴り響く。快音を響かせた主はゴルフクラブを持った中性的な容姿の美少年だ。
「へへっ! ナイスショット!」
少年は自らの鼻の頭をこすりながら自画自賛をする。少年の振るったクラブから放たれたゴルフボールは緑鮮やかなフェアウェイを真っ直ぐに飛んでいく。少年は満足気にそれを見つめる。
「……ん?」
空中を飛んでいたボールの先に一瞬、紫色と黒色が混ざりあった色をした霧のような空間が生じ、ボールはそこに吸い込まれて消えてしまう。
「えっ!?」
少年は我が目を疑った。しかし、わずかその数秒後に、地上――本来のボールの落下点――に近い位置でまた同じような霧のような空間が生じ、そこでゴルフボールと一緒に立派な真っ黒い甲冑と真っ赤なマントに身を包んだちょんまげの男性が落下してきた。
「ぎゃん!」
「え、ええっ!?」
少年は再度、驚きの声を上げる。
「……む、むう……」
「……はっ! だ、大丈夫ですか!?」
少年は男性のもとに駆け寄り、声をかける。
「……だ、誰じゃ! この儂をこの白い球で撃ったのは!?」
仰向けに倒れていた男性がカッと目を見開き、ゴルフボールをギュッと握ってガバッと起き上がる。
「う、うわっ!?」
少年が驚いて尻餅をつく。
「杉谷某の亡霊か!? おのれ! ひっとらえて八つ裂きにせい!」
男性が勢いよく立ち上がり、甲高い声で叫ぶ。
「ええ……?」
「うん……?」
男性と少年の目が合う。
「え、えっと……」
「……どうしたお蘭、その珍妙な恰好は?」
「お、お蘭?」
「髪も切ったのか? いつの間に……」
男性が首を傾げる。
「えっと……お蘭とは誰のことですか?」
「何を寝ぼけたことを……お主のことであろうが、森蘭丸よ」
「も、森蘭丸? 僕は
「……」
「………」
「……お主、誰じゃ!?」
「い、いや、それを聞きたいのはこっちの方です! だ、大体、駄目ですよ! コース内に勝手に入ってしまっては!」
「……ここはどこじゃ?」
男性が周囲を見渡して尋ねる。美蘭と名乗った少年が呆れ気味に答える。
「どこって……ゴルフ場ですよ」
「ごるふ城? どこの城じゃ?」
「はい? 城?」
「……岐阜城ではないのか?」
「岐阜城はもっと南の方ですよ? ああ、ひょっとして……『岐阜城を沸かせ隊』の方ですか?」
「……なんだ、その隊は……信忠が作らせたのか?」
「え? 岐阜城とかで観光客の方と交流しながら地元の活性化と歴史文化を伝えていく隊ですよ」
美蘭の説明を聞いて、男性が目を細める。
「歴史文化じゃと……?」
「は、はい……」
男性が顎をさすって、少し考えてから口を開く。
「……偽者のお蘭よ」
「偽者って! 本物の美蘭です!」
「今は天正何年じゃ?」
「は? て、天正? 今は令和六年ですが……」
「令和? 天正十年ではないのか?」
「天正十年……せ、西暦1582年!?」
ポケットからスマホを取り出して検索した美蘭が表示結果を見て、素っ頓狂な声を上げてしまう。男性が腕を組んで頷く。
「やはり時を跳んだのか……」
「さ、察しが良いですね……」
「お主の反応を見れば分かる……その妙なからくり板を取り出したことも含めてな……で?」
「え?」
「今はその……西暦何年じゃ?」
「……2024年です」
「……ふむ、ざっと四百年後か……」
男性が再度頷く。
「あ、あの……」
「なんじゃ?」
「あまり驚いていないみたいですね……」
「この程度のことでいちいち動揺していては天下布武などままならんわ」
「て、天下布武? あ、あなたのお名前は……?」
「織田信長である……!」
「え、ええ~!?」
美蘭が驚く。大きな声がゴルフ場にこだまする。それから、約二ヶ月の時間が経過し……。
「……ふん!」
「ナイスショット!」
信長は現代にわりと素早く馴染んだ。
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