わたしの幸せな結婚 in My Love

第四章 古い手紙の発見

　学園祭の騒動が一段落したある日、久堂家の老家政婦であるゆり江が美世を訪ねてきた。ゆり江は美世にとって母親のような存在であり、彼女のことを深く気にかけていた。二人が久堂家の小さな庭でお茶を飲みながら話をしていると、ゆり江は重要そうな表情で美世に話し始めた。

「美世ちゃん、実はこれを君に渡したいと思ってね。」ゆり江はその言葉とともに、一枚の古びた手紙を美世に手渡した。手紙は美世の生い立ちについての重大な事実が書かれていると言われ、彼女の手に渡ると、ゆり江は静かにその場を後にした。

　美世は手紙を開いて読み進めると、そこには予想外の内容が記されていた。手紙には、美世が久堂家の血を引いており、彼女の真の母が久堂家の一員であったことが綴られていた。この衝撃的な事実に美世は深い衝撃を受け、しばらくの間、言葉を失った。

　手紙にはさらに、美世の母が久堂家を離れざるを得なくなった事情と、美世を守るために彼女の出生の秘密を隠し続けた理由が詳細に書かれていた。美世はこれまでの自分の生活が一変する可能性に直面し、自分のアイデンティティと過去を改めて考え直すことを余儀なくされた。

　この手紙の発見は、美世にとって新たな始まりを意味しており、彼女は自分と自分の家族、そして未来について深く考える時間を持つことにした。手紙を胸に抱え、美世は静かな庭を歩きながら、これから自分に何ができるか、どのように行動すべきかを考え始めた。

　古い手紙が明らかにした真実に心を揺さぶられた美世は、自分と久堂清霞との間に意外な血の繋がりがあることを受け入れようと奮闘していた。彼女は清霞との関係をどのように進めるべきか、混乱と不安に満ちた思いでいた。

　清霞と二人きりで会ったとき、美世は手紙の内容を打ち明ける決心をした。「清霞くん、実は大切なことを話さなくちゃいけないの。私たち、血のつながりがあるかもしれないの」と静かに語り始めた。

　清霞は初めて聞く事実に驚いたが、すぐに冷静さを取り戻し、美世に対して変わらぬ態度を示した。「美世、それが事実だとしても、君がどう思うかが一番大事だ。僕たちの関係は、そんなことに左右されない。」

　美世は清霞の言葉に心から安堵し、「ありがとう、清霞くん。君がそう言ってくれると、とても心強いわ」と感謝の気持ちを表した。二人はお互いの存在がどれほど大切かを再認識し、これからも互いを支え合うことを改めて誓った。

　その後、美世は自分の過去をもっと深く理解するために、ゆり江や他の家族のメンバーにも相談を持ちかけることにした。彼女は自分のルーツと家族の歴史について学ぶことで、自己のアイデンティティを確固たるものにしようと決心した。

　この新たな発見は、美世と清霞の間に新しい絆を築くきっかけとなり、二人の関係はこれまで以上に深まり、互いにとってなくてはならない存在となっていった。

　美世の出生の秘密が明らかになった後、彼女は自分の立場とアイデンティティについて深く考え込むようになった。学校での日々は以前と変わらず過ぎていったが、内心では大きな葛藤が渦巻いていた。

　ある日、美世は清霞と一緒に学校の庭を散歩しているとき、ふと立ち止まり、真剣な表情で話し始めた。「清霞くん、私、これからどうすればいいのかな。こんなに大きな秘密を抱えて、正直、怖いよ。」

　清霞は美世の手を握り、力強く言った。「大丈夫だよ、美世。僕たちは一緒にいる。何があっても、君を支えるからね。」

　美世はその言葉に救われるような気持ちになり、少し心が軽くなった。しかし、彼女は自分の家族、特に香耶との関係をどう修復すれば良いのか、依然として悩んでいた。

　一方、美世の継母である香乃子は、美世の真実を知ったことで、自分の過去の行動を反省し始めた。香乃子は美世に対して冷たく接していたことを後悔し、彼女との関係を改善するためにどうすれば良いかを考えていた。

　美世は家族との会話を通じて、自分の出生の真実を受け入れ、これからの人生をどのように生きるかをじっくりと考える時間を持つことにした。このプロセスは彼女にとって苦痛なものであったが、同時に自分自身と向き合い、成長する機会でもあった。

　美世の混乱と反省の時期は、彼女が自己理解を深め、真の自分を見つけるための重要なステップとなった。この過程で、彼女は家族、特に清霞の無条件の支援と愛を改めて感じ、これからの困難に立ち向かう勇気を得ることができた。

　美世は自分の出生の秘密と、久堂家との血のつながりを知ったことで、斎森家に向き合う覚悟を決めていた。これまでの冷たい扱いや誤解を考えると、足がすくむ思いだったが、もう逃げることはできない。美世は父・斎森真一と継母・香乃子に対して、真実を伝えることを決意した。

　ある日、斎森家の広間に美世は一人で立っていた。目の前には父の真一と継母の香乃子。二人の表情は硬く、美世の話を待っているようだった。

「お父様、お母様、私には久堂家の血が流れているそうです。それが書かれた手紙を見ました。」

美世の声は震えていたが、その目には決意の光が宿っていた。

　真一は手紙を見つめ、しばらく黙り込んでいた。しかし、やがて静かに口を開いた。「そうか。まさか、そうだったとはな。」彼の声は驚きと同時に、どこか遠くを見つめるような響きがあった。

　香乃子は少し動揺しながらも、冷たさは影を潜めていた。「だから、あの子（美世の母）は、久堂家に関わっていたのね。あなたが特別だった理由が、ようやくわかったわ。」彼女の言葉には今までになかった柔らかさが感じられた。

　美世はその言葉に驚いた。「私、これからどうすればいいのでしょう？」と、正直な気持ちをぶつけた。真一は初めて美世の目を真っ直ぐに見つめ、答えた。

「美世、お前はこれまで十分すぎるほど耐えてきた。そして今、お前の力が必要とされる時が来たんだろう。お前の道は、お前自身が決めればいい。」

　その言葉は、厳格な父からの初めての理解と支援の証だった。香乃子もまた、小さく頷きながら言った。「私も、今まで間違っていたかもしれないわね。これからは、少しずつでも、あなたを見守るつもりよ。」

　美世は涙が溢れそうになるのを堪え、静かに頭を下げた。「ありがとうございます、お父様、お母様。」

　斎森家との関係は完全に修復したわけではない。しかし、初めてお互いの気持ちに向き合い、一歩を踏み出したことが美世にとって大きな意味を持っていた。美世は自分の居場所が少しずつ広がり、未来へ進むための確かな支えを手に入れたのだ。

　そしてその夜、美世は久堂清霞にこの報告をした。清霞は静かに微笑み、美世の手を優しく握りしめた。「美世、君は強い。そして、君の努力が報われる時が必ず来る。僕も、その時まで一緒にいるよ。」

　美世は清霞の言葉に胸を熱くし、少しずつ自分の人生が新しい形に進んでいくことを感じていた。