フィルター
jyuhon
第1話 印象を変えたい
『うーん。みぎ?うえ?ちょっと待って!あ、左!下!えーっと斜め左。』
保健室の香り。
消毒液なんだか2つ並べられてカーテンで仕切りがあるベッドシーツの香りなのか。
出席番号順に並ぶ6年間。
よくもまあ演技をしていたなって思う。嘘ではない。これは演技。
担任から眼科受診の紙をもらう春。4月の恒例。
クラスで勉強ができる子はみんなかけてる。
賢く見えるように憧れていた。
何故か眼科に行けばあっさりと先生には演技がばれ、母親からは毎回同じセリフ。
『視力大丈夫そうで良かったね〜』
って微笑みながら言われる。
そりゃそうだ。良かったんだ。ちょっとガッカリするの繰り返しのわたし。
病院の先生にはすぐ見破られても母は娘を疑いもしなかった。
ある意味天然なんだか。
中学、高校は入学式の第一印象的には憧れは持ちつつも次第に賢く見せたい願望が消え去り、お洒落を楽しむ時代になっていった。
2023年4月。
春から大学1年の私。
入学式前夜、長い勉強漬けの日々が終わったと大きく息をしていた。
明日からの新しい生活を思い浮かべながら天井を見上げ1人浸っていた。
必死に頑張って入った大学。
やっと終わった。そしてやっと始まる。
自分の部屋の香りを久々に感じた。
やっぱり少しは賢くみられたい。
伊達メガネやコンタクトでない変な拘り。
大学に何度か通うようになり電車の乗り換えもスムーズにこなせるようになった。
いつのまにか仲間ができていた。
出会いははじめて学食に行った日だった。
中高時代は学食というものはなかったから憧れがあって。
まだ注文して食べる勇気はなくお弁当を持って1番右奥の大きな観葉植物が置いてある端の席に座って学食の雰囲気を味わっていた。
類友。
席だけ食堂でお弁当を一緒に食べる事から始まった仲間ができ時間は過ぎていく。次第に心打ち解けていく。
昴すばる
湊みなと
桃もも
時寧ときね
梓 あず
そして私 乃亜のあ
仲良くなった5人。
昴はかなり陽キャな感じだけど賢い。勉強は余裕にみえるな。
湊は物静かだけどたまに冗談とか言い出しちゃうやつ。笑いのツボがまだ掴めないが何となく私と同じでギリギリ合格したんだうなって。
ってかなり失礼をいっちゃうけど。
時寧は人懐っこい感じで可愛いらしいキャラ。
顔も可愛い。笑った顔が眉毛が下がる。
梓はかっこいい大人な女なイメージ。ちょっと性格キツそうに見えるけど、そんな事ないかんじ。私が男ならギャップに惹かれるだろうなと思う。
そんなこんなでまだ期間は短いが
みんな同じタイプな訳じゃないけどどこか似てる気がする。私と。
『今日夕飯一緒に食べよーよ!』
昴が毎回みんなを誘ってくれる。
まだ出会って2ヶ月なのに昼は学食で弁当。夜は共にしている。一緒に課題したり、時には課題やるといいながらずっと話してたり。
落ち着くのは間違いない。
そういえば1度だけ女子3人で女子会をしたことがあったな。
アイドルの話をする時間なのだがキャーキャーの会といおうか。
それはもう妄想の域を超えた集まり。
そして私はどんだけ浮気性なんだろうか。イケメンみんなの推し。
女子会、、、いや妄想会だ。楽しくてたまらない。
イケメンには勝てない。イケメンは何してもイケメン!!全てに推し!!!
そう思って生きている。生き甲斐ってやつかな。
特定のただ1人!っていう人がいないのはわたしなんだ。
なんでだろう。
何故か、昴と湊の前では女子3人はイケメン推しの会話はしない。
女子3人の本性は男子は知らないな。
6月の終わり。
家を出た瞬間小学生の時の林間学校に行った日の2日目の朝の香りがした。
懐かしく鼻で大きく息をすう。
横浜の5番街を1人ぷらぷら歩いていた。
不思議と目に止まる店があった。
『あれ?新しい店かな。やけにカラフルだな』
『なんだろ。あれ?眼鏡屋さんかな?お、可愛いかも。』
パステルカラーのカラフルな店頭から店に入るように風に押された感覚。まるでアイス屋さんのよう。
店頭にある眼鏡フレームを手に取り、掛けては鏡を見てまた違った形もかけては鏡に向かってしまっていた。ちょっとキメ顔をしてみたり。
自分に酔っていたのだろうか。いきなり背後から声をかけられ肩があがった。
『2番目にかけたフレームがお似合いでしたよ』元気がいい店員だ。
『あ、、、ちょっとかけてみただけなので』
『全然大丈夫ですよ!、、、今お使いの眼鏡はどんなフレームなんですか?』
『いや、、、』
『いや、、、、、あの、、、』
ちょっと困ったなどうしようって思った。
静まり返った。
店員『あのーーー。新作でおススメがありましてえ、、、
お姉さんイケメン好きでしょー』
『え、、、、、。?』
『掛けるだけでイケメンや美女に見える眼鏡があるんです!最新のAI技術でかけるだけでその人個人の好みの要素がうつしだされるんですよ!』
『あ、いや大丈夫です。すみませんでした』
不思議という言葉を初めて実感した気分だった。怪しくて怖くてすぐさま私は店を出てしまった。
つい何秒か前にいた店がどこにあったか記憶すらなく歩きながら消していたのかも。
そしてただ怖かった。
気持ち悪いって思ってしまった。
店の甘い香りと横浜の人混み、そして心臓の鼓動忘れられない香りが鼻についていた。
早歩きからようやくいつもの歩幅に変わった時、私は冷静になれたのだろう。風も止まっていた。
もしかしたら店員がウケ狙いで私に話したのかもしれないのに失礼な態度しちゃったかなって、、、モヤモヤしてきた。
急に申し訳ない気持ちになり横浜を少し早めな歩幅で歩いた。
そんな時。着信があった。
『何してんー?飯食い行こ!』
『あ、うん。どこ?』
ちょっと正気に戻れた。
甲高い笑い声、私が頷くだけでも昴は
会話を弾かせてくれる。
さっきの話をしようかな。と心の中にあるものの言い出すことはできなかった。
頭の中がその事でいっぱいで他の会話が出てこない。昴ごめん。
布団に入った深夜2時。課題もできず、
頭の中から消される事はなく眠りについたのかさえ分からないまま爆音のアラームが響いた。
言ってみようかな。ちょっと吹っ切れた感。
笑い話にすればいい。
寝不足のクマが目立つコンディションな私は自分に決意表明をした。
カラオケで待ち合わせをしてみた。
歌いたい訳ではなくただ個室だから。
何故か他の人には聞かれたくないと思った。
『何ながすー?あ!とりあえずお腹空かない?ポテトとか頼んでもいいかな?』
『うん!そうしよ』
桃、時寧、梓はリズム良く会話を飛ばす。
私ときたら、、、。
ごめん今すぐ話したい。いくよ言わせて
心がはち切れそうだった。
だから言っちゃった
『ね!聞いて!聞いて!聞いて欲しくて!ホラーみたいな話なんだけど!』
息があがるわたし。もう勢いに乗っかるしかない。
『なになに?!』
なんか3人目がキラキラしてる。
『え?!彼氏できたとか⁈』
『彼氏できたのがホラーな話しなわけないでしょ』
梓、ナイス。
2人は大爆笑している。
『イケメン美女眼鏡ってしってる?』
『、、、、、、』
やっぱりな反応。
2人揃って笑いながら言い出した。
『美男美女眼鏡じゃないんだ!』
爆笑。
あ、なんかおかしいね。
そうです、私が勝手につけた名前だからね。
『なにそれ!欲しい!!!』
変わらず大爆笑。
『なにそれ⁈え?なに?!どーなんの⁈』
『乃亜、持ってるの⁈見せてよ!』
『持ってるわけないじゃん!横浜でメガネ?みたいなの見てたら店員さんにいきなり言われたの。で、AI技術がなんちゃらでかけるだけで自分の好みの顔にだけみえるとか、、、』
詳しく聞いていないけどスラスラ説明していた自分がいた。
『いくらするの⁈気になる!!』
『本当かなー!私も気になるよ!』
『まぢ!そうだよね!わたしもなの!けど、怖くて逃げちゃったの』
なんだろ。本当良かった。
否定とかしてこないんだ。カラオケにいるのに歌ってないな。
しばらくの間、盛り上がった熱は冷め緊張が忘れかけていた自分がいた。
また深夜だったろうか。時間もわからないまま帰宅していた。
しかし なぜだろう。
生ぬるい夜の匂い。
iPhoneのスヌーズが鳴り響くいつもの朝。
いつ寝たかも分からない私。
人には自分でも気が付かないストレスがあるのではないか。
いや。気がついてるけどね。メガネの事が気になってしまってずっとソワソワしている。
よし、今日また行ってみようかな。
『あれ。。。店がない。。。』
なんでた?
幻だったの?
あったよ絶対に。話したもん店員さんと。
人混みが多い土曜日。1人突っ立ってしまったわたし。夢じゃない絶対に。
不思議に続き
生まれて初めて戸惑う
という気持ちを味わったきがした。
みんなに話した事が恥ずかしくなってきた。
いかにも私の作り話みたいになってしまったからだな。
月日が流れて忘れていた。わたしは単純細胞。
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