わたしだったものが、徐々にほどけていき、海へと還っていくことをじかくした。これがおわりなのだと、どうしようもなく知らされる。

 この期におよんでも、わたしの頭の中は「もしも」が支配していた。もしも、わたしが人間だったら。もしも、彼にこいしていた人がいなければ。もしも、わたしがありのままでもかれに好かれるようだったら。もしも、かれに恋なんてしなければ。

 私たちのあいのかたちが、人間のそれとことなるものであることは理解していた。それが、彼らにとってはきひされるべきものであることも。初めから、かなうはずのない恋だったのだ。何よりもそのかんじょうが、間違いだったんじゃないか。

 違う、とわたしはじぶんの中に浮かんだうすぎたない「もしも」を否定する。ほかのどんな可能性をかんがえてもいい。しかし、わたしは私の感情をひていしてはいけない。それは、自分自身をもっとも侮辱していることなのだから。

 みのたけに合わない、叶わないこいに溺れたことは、けっかだけ見れば不幸なのかもしれない。はたから見れば、恋やあいなんていうふたしかな熱病のようなもののために命をうしなうなんて、馬鹿のすることだと言われるかもしれない。

 けれど、わたしは幸せだったのだ。すきな人と共に時間をすごすことが。それがかりそめの感情に過ぎないのだとしても、好きなひとから愛されたということが。たったそれだけで、生きていたいみがあったんだと思えるほどに。

 わたしのこいは失われて終わった。それでも、それいじょうの結果なんてなかったのだと、わたしは胸をはって言うことができる。だから、後悔はない。わたしの夏は、すばらしいものだったのだ。

 ただ、かれがわたしのことを受け入れてくれればというさみしさは、未だに残りつづけていた。それはそうだ。割りきることなんて、出来るはずがない。しかたがなかったのだと言っていさぎくしんでいくことが出来るくらいなら、わたしははじめから恋なんてしていなかった。

 かれが、いっしょう後悔し続けてくれればいいとおもう。なつが訪れる度にわたしのかげを視界のはじにみて、すきなひとが出来る度にわたしのくちびるの感触を思いだす。そうなってくれれば、どれほどいいのだろうか。しんだとしても、わたしは彼のなかでいき続けるのだ。

 こんな歪んだおもいは、こいやあいと呼んだままでもいいのかな、とおもう。でも、たぶん恋愛ってこういうものなんだ。彼のへやの中で読んだものがたりの恋愛はどれもうつくしいものばかりだったけれど、ほんとうの恋やあいはもっと汚くて、どろどろとした、ぞうおに近いものなのだろう。いま、わたしが抱いているこれは、まちがいなくこいか愛なのだから。

 いしきがせかいからゆっくりと剥がれていくことをじかくする。からだはもうほとんど泡になっていて、かすかにのこっていたしこうも、もう消えていくようだった。

 わたしはあなたのことをあいしていたんです。いまでも、あいしているんです。

 さようなら。だいすきなあなた。

 なつがおわっていきますね。

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