第41話
ぼぉーっとしてる頭の中にチャイムが流れてくる。
もう終業式終わったかな。サボっちゃった。
空いていた家庭科室で、調理実習台に顔をペタッと付けて少しでも目の腫れが引かないかと冷やしていた。
てか普通に寒くてコート脱げない。
…そろそろ行こうかな。
朝からずっとスマホが鳴ってた。
たぶん咲希から、教室にいない私を心配して送って来たんだと思う。
教室…、行こうかな。
「詩乃!来てたの!?連絡しても全然…っ、どうしたの!?顔、めっちゃっ」
「ひどいでしょ、ひどいよね、うんうんわかってる」
時間は経ってもあまり変わらなかった。
まぶたが重くなって、むしろ悪化したかもしれない。
もう帰宅時間だった。
ホームルームも終わってぞろぞろとみんなが出ていく頃、今更教室に来る奴もいないね。
「…どうしたの?」
私の顔を見た咲希が近付いてきた。
また俯いちゃった。もう泣きたくはないんだけど。
「私…さ」
「うん…」
「なりふり構わず突っ込んじゃうし、勢いでどうにかしようとしちゃうし、突っ走っちゃうこともあるけど…」
きゅっとスカートの裾を握る。
すごく力が入っちゃって、少しだけ震えちゃった。
「拒否られたら辛いじゃん、それなりに傷付くじゃん」
「詩乃…」
「小鳩、私のこと嫌いになったかなって…っ」
ドンッと叩いたテーブルの音、耳の奥にまだ残ってる。
小鳩に拒絶されたみたいだった。
忘れたくても忘れられない、ずっとこびりついて離れないの。
「……。」
「…なんてね、またらしくないこと言っちゃった!」
顔を上げた、笑顔を作って前を向いた時だった。
がばっと咲希が私の胸に飛び込んできた。
「咲希!?ここ教室っ」
ほとんどの生徒が帰っちゃったとはいえ、まだ何人かいるし、てゆーかそれが逆に目立つっていうか、突然のできごとにみんなが私たちを見てる。
私なんてひどい顔してるし、咲希まで泣きそうな顔してるし。
「ごめんね、私何にもできないけど…っ」
「…そんなことないよ」
「私はずっとずーっと詩乃のこと大好きだから!」
でもその気持ちは嬉しくて、それだけで心があったかくなる気がした。友達がいるって心強いね。
「…うん、私もっ」
同じように咲希の背中に手をまわしぎゅっとしようと思った…
だけど。
「お取込み中すみません」
「!?」
「手が離せないようでしたらまた改めますが」
「小鳩!?なんで!?」
目の前にスッと現れた姿にこれでもかってぐらい目が見開いちゃった。
「え、小鳩くん??」
咲希も私から離れて小鳩の方に振り返った。
「え、…どうしたの?」
「柳澤さんに用があったんですけど」
「私に!?何!?」
「お取込み中のようなのでまた…」
サッと右手を上げて、本当に帰ろうとする小鳩を引き留めた。咲希が。
「全然!全然そんなことないよ!どうぞどうぞ!!」
「えっ」
強引に背中を押されぐいぐいと小鳩の方に押し付けられ、廊下まで追い出された。
そこまでしなくてもいいのに、私の答えも聞かずぐいぐいと。
案外咲希は力持ちなこと今知った。
咲希に押し出されるまま教室から出て、とりあえず歩いて屋上に続く階段までやって来た。
小鳩がその場で話そうとするから無理に連れてここまで、ここなら誰も来ないと思うから。
はぁっと息を吐いて階段に座ったら、そんなとこに座るんですか?って顔されたけど渋々小鳩も座ってた。
「………。」
「……。」
「………。」
…え、てか何話すの?
なんで呼ばれたの?
私顔ぐちゃぐちゃなんだけど!
ビジュアルやば!!!
「先日はすみませんでした」
「え…」
私が1人わらわらしていると小鳩が先に口を開いた。
あ、小鳩が呼んだんだもんね、そうだよね小鳩の話があるんだよね…
「こないだ…、柳澤さんを置いて勝手に帰ってしまって」
「う、ううん…全然…」
まさかあのことを小鳩の方から言ってくるとは思わなくてちょっと動揺しちゃった。
「少し感情的になってしまって申し訳なかったなと思っています。このまま新しい年を迎えるというのも心残りなので、今年中に話しておきたくて」
今日は終業式で、明日から冬休みで、12月も終わる。学校が始まる頃には来年になってる。
「…律儀なんだね」
その前にちゃんと話しておこうっていう発想を持ってた小鳩もある意味さすがだった。
「…そうゆうものではないんですか?友達って」
「えっ」
“だって私小鳩の友達だもん!”
あ…、ちゃんと小鳩もそう思ってくれたんだ。
それは嬉しい、かも。
「正直にいいますと…友達というものがあまりわかってなくて。だけどあれ以来、柳澤さんをお見掛けすることがなかったので…元々部活以外ではあまり会うこともなかったですが」
それは私がわざと避けてたから。
小鳩の姿を見ることがあっても、わざと遠回りしちゃったりゆっくり歩いちゃったりしてわざと離れようとしてたから。
「友達の意味を辞書で調べたら親しく交わっている人と出て来まして、でも何をするのが友達で友達に対して何をすべきなのか、親しいの度合もわかりませんし、そもそも一体どの瞬間友達になるのかもよくわからっ」
「ふっ」
「…何で笑ったんですか?」
「小鳩らしいなぁって思って」
「…は?」
あーぁ、変なの。
さっきまで悲しくてしょーがなかったんだけどな。
なんだか急に笑えて来ちゃった。
ふふふって笑ったら、小鳩が不服そうな顔をしたのがそ妙に居心地よくって。
そっか、私まだ大丈夫だ。
「小鳩、私のこと嫌いになったのかと思った」
「どうしてですか?別に嫌う理由はないですけど」
首を傾げながら眉間にしわを寄せて私を見た。
私もゆっくり目を合わせた。
「じゃあもう1個嫌わないで聞いてほしいんだけど…」
リュックからごそごそと取り出した。
まだ入れたまんまだった、小鳩と一緒にクレープを食べたあの日からずっと。
小鳩が琴ちゃん先生に渡そうとしていたチョコレート。
「これ…」
ラッピングは小鳩みたいにうまくできなくて箱だけになっちゃったけど、ひとくちも食べられなくて中身はそのまま。
「…まだ持ってたんですか」
「だって、どうしたらいいかわかんないし」
「捨ててください、もう食べられませんから」
「じゃあ小鳩が捨ててよ、私には捨てられないから」
チョコレートを差し出した。
なかなか受け取ってはもらえなかったけど。
「私のお願い聞いてくれる代わりに小鳩のお願いも聞くって約束だったんだけど、それはー…なんていうか約束破るみたいでごめん。だからこれは無効で!他のこと聞くから!なんでも!あ、このチョコレート返される以外で!」
「……。」
「…ごめん、約束だったのに」
じぃっとチョコレートを見たまま全然手を出してくれない。
チョコレートを持ってる私の手がぷるぷるして来ちゃう。
スッとチョコレートから視線を逸らして前を向いた。
儚げな瞳に、憂いを帯びた横顔。
「本当は…おめでとう、って伝えたかったんでしょ」
でも言えなかった。
邪魔しちゃったんだよね、少しだけ。
琴ちゃん先生のしあわせを願う気持ちと、自分の心の中にしまい込んだ想いが入り混じって。
小鳩は素直だから。
「ちゃんと、琴ちゃん先生に伝えた方がいいよ!」
「…どうして柳澤さんがそんなに必死なんですか?」
私を見た小鳩と目が合った。
「え…?」
「友達ってそうゆうものなんですか?」
「それは…っ」
わかんない。
友達に定義なんかないし、踏み込みすぎかもしれないし、てゆーか私からしたら…っ
「小鳩だから!小鳩だからっ、応援したいなって思うし、悩んでたら力になりたいなって思うし…っ」
友達って言ってくれて嬉しかったけど、私からしたらもう友達じゃないんだよ。
もう友達には思えない。
「悲しんてでるとこ見たくない…っ」
それが琴ちゃん先生のことでも、なんでも、見たくないよ。
「もう今週なんでしょ、結婚式!」
「…もういいですよ」
「よくないよ!」
「話は終わりました、失礼します」
「待ってよ小鳩!」
小鳩が立ち上がろうとした、だから同じように立ち上がった。
右手にはチョコレートを持ったまま。
「小鳩だって捨てられなかったんでしょ!だから私に託したんでしょ!」
グッと押し付けるように差し出した。
「それぐらい一生懸命作ったチョコレートなんでしょ!」
「…そんなの、どうでもいいですっ」
その瞬間ガラガラガラッとチョコレートが宙に舞った。
振り払われた小鳩の手に当たって、バラバラと階段に散らばった。
コロコロと落ちていくチョコレート、目で追うより先に手が動いた。
拾わなきゃ…!!!
箱ごと落としてしまったチョコレートをかき集めるようにして全部取りこぼさないように。
まだあっちにもある、あっちにも…!
グッと手を伸ばしたて…っ
「…っ!」
小鳩の手と重なった。
「……。」
びっくりして咄嗟に手を戻すと、小鳩がチョコレートを拾ってくれて箱に戻してくれた。
「…ありがとう」
「別に、柳澤さんにお礼を言われることではないです」
しゃがみ込んでチョコレートを拾う私の隣に同じようにしゃがみ込んだ。
急に緊張した空気が流れる。
やばい、今顔見られたくない。
「…なんで柳澤さんの方が悲しい顔してるんですか?」
サッと隠したつもりだったのに、小鳩には気付かれていた。
「だって…っ」
「したいのは僕の方です」
「え…」
小鳩が俯いた。
背が高くて大きい小鳩が小っちゃくなって足を抱えるように、か細い声で私に言った。
「忘れられないんです。あの時の琴乃の笑った顔は今でも忘れられません」
初めて聞く小鳩の本音。
ずっと大切にしていた小鳩の気持ち。
隙間風が冷たくて、しーんとしてる廊下。
小鳩の震える声が私に届く。
「僕の力ではなかったですから」
抱きしめたい。
今すぐ小鳩を抱きしめたい。
小学生の頃の、小さな小鳩ごとまるごと抱きしめてあげたい。
大丈夫だよ、泣かないで、俯かないで。
何を言っても薄っぺらくて、私が言える言葉なんてなかったけど。
かすかに震える小鳩の背中を、触りたくて手を伸ばした。
だけどすぐに戻しちゃった。
私の手も震えてたから。
「小鳩…」
「……。」
「やっぱりチョコレート渡そう!」
「…。」
俯いたまま、何も言ってはくれなかった。
「も1回チョコレート作ろうよ!」
散らばったチョコレートを拾って箱に戻した。ちゃんと全部揃ってた。
「それで、気持ち伝えよう!…小鳩まだ言いたいこと言ってないよね?」
「…今更何言えばいいんですか、ないですよね」
小さな声が返って来た、顔は上げてくれなかったけど。
「あると思う!だって小鳩チョコレート作るの好きじゃん!」
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