Magic6.こぼれる気持ち

第40話

今日で2学期も終わり、明日からは冬休みだ。


冬休み中は部活がない。


部活があってもなくても小鳩には会えないんだけど。



もう久しく顔も見てない。


あれ以来、ずっと会いづらくて。



「メッリーーーーーーーー!やっぴーーーーーー!!!」


「わ、そらぴょんなんか久しぶりだね。いつになく絶好調で安心しちゃったわ」


「元気はナンボあってもええですからね!」


「なにそれっ」


朝一番、私を見つけると走ってきたそらぴょんと教室まで向かった。


白い息が舞うほど寒いのにそらぴょんは身振り手振りが大きくて全くそれを感じさせない。


「あ、そーいやーさー!琴ちゃん結婚するんだってね、俺知らなかった!」


「あーそうだね、もう明後日…じゃない?」


今日は12月23日、だから琴ちゃん先生の結婚式は明後日の12月25日。


「メリー知ってたんだ!最近琴ちゃん元気なさそうだったから逆に彼氏にでも振られたのかと思っちゃった!」


「え…、そうなの?」


そういえば最近小鳩にも会ってなかったけど琴ちゃん先生にも会ってない。保健室に行かなきゃ会えない琴ちゃん先生に会わないようにするには簡単だったから。


「いや、知らないけど。俺の勝手な憶測で」


そらぴょんがわざとふーっと息を吐いた。何度吐いても舞う白い息をケラケラと眺めながら。


「でも結婚するならそんなことないよね!他になんかあったのかな~」


「……。」


「えっ、メリー!?」


「…っ」


どうしたいってわけじゃない。


どうなっててほしいってわけでもない。


でも、走ってた。


わかんないけど、走ってた。


私にできることなんかないのにって思いながら、このままじゃいられなくて…


一直線に下駄箱に向かい、そのまま保健室までとにかく走った。


「あれ柳澤さん、どうしたの?」


ドアを開けるとコーヒーの香りが漂ってきた。

コーヒーの入ったマグカップを片手に窓に寄り添いながら、琴ちゃん先生は外を見ていた。


「今日で終わりだね~」


「……。」


「冬休み明けたらあるけどね、学校は」


「…。」


クスクスと1人で笑って、でも一瞬だけ私を見た瞳はほんのり赤くなっていた。


「…柳澤さん、今日は終業式だよ。がんばって出てみっ」


「琴ちゃん先生!」


私の声に琴ちゃん先生が振り返る。

たぶん私の方が泣きそうな瞳だったと思う。


「柳澤さんっ、大丈夫?そんなに体調悪いの?」


すぐにコーヒーカップを机に置いた琴ちゃん先生が駆け寄ってきた。


「…琴ちゃん先生、今しあわせ?」


「え?」


「もうすぐ結婚するんでしょ、しあわせだよね!?」


「……。」


「無理やり結婚するわけじゃないんでしょ!?」


眉をハの字にして、困ったように微笑んだ。


その瞬間、瞳がじわっと熱くなった。


「やだっ、せめて琴ちゃん先生が笑っててくれなきゃやだ!そんな顔しないで!」


ポロポロと溢れる涙を必死で拭った。


なんで涙が出てきたのかわかんない。


どうして泣いてるのかわかんない。


だけど琴ちゃん先生が笑っててくれないと、しあわせだって言ってくれないと、小鳩の作ったチョコレートが意味を持たなくなっちゃう。


おめでとうって、言いたかった小鳩の想いが消えてしまうから。


こんなの感情任せだってわかってるけど…っ


「柳澤さん、しあわせよ私」


ぽんっと私の頭を撫で、優しい声で笑った。


「でもね、しあわせでも不安になることはあるし悩みは尽きなくて…嫌になることだってある。それはみんなそうよ、そうやって思う日だって涙する日だってあるよ。でも私ね、今すっごくしあわせだよ」


俯く私の顔をそっと上げて、優しく微笑んだ。


それはいつもと変わらない琴ちゃん先生だった。


「柳澤さんが心配するようなことなんて1つもないから安心して」


小さく呼吸をする。


流れた涙を拭いて、せっかく前を向かせてくれたのにまた下を向いちゃった。


「…好きな人が悲しんでるの。でも私何してあげたらいいかわんなくて、私に何ができるのかな」


きっと私にしてほしいことなんかない。


気の利いた言葉も言えないし、おいしいチョコレートだって作れない。


私は琴ちゃん先生じゃない。


「…そうねぇ、何で悲しんでるのかによるけど柳澤さんが笑って話しかけてあげることじゃない?」


「それなんか…うざくない?」


「どうして?それだけで元気もらえるし、嬉しいと思うよ」


「絶対ないよ!てゆーか絶対嫌われてる!」


ボロボロになった顔を上げた。


だってそんなの絶対ありえないもん!あるわけないもん!


もう浮かんでるもん、すっごい嫌そうな顔が。


「そう?案外小鳩くん気に入ってると思うけどなぁ」


え……?


私の浮かべている顔と、琴ちゃん先生の口から発せられた人がおんなじで。

一瞬頭の中でバグを起こしちゃった。


「なんで知ってるの!?」


そんなこと一言も言ったことなかったのに!


てゆーか好きな人がいるって話はしたけど、その時は小鳩じゃなかったのになんで…っ!?


「見てたらわかるよ」


私ってそんなわかりやく顔に出てた!?

咲希以外話したことなかったし、隠してたつもりだったんだけど、気付かれてた!?


「柳澤さん。小鳩くんのこと、よろしくね」


もうすぐ終業式始まるからと背中を押され保健室を出ることになった。



よろしくなんて言われても、小鳩にとって私は…



あぁー、すごい自己嫌悪。


何してんの私。


超恥ずかしいじゃん、急に泣いたりして…


しかもあんな琴ちゃん先生困らせるようなこと言って。


自分でも何言ってんだって感じだし。



だけど…



だってさ、小鳩は琴ちゃん先生が好きなんだよ。


そしたらあのチョコレートに小鳩がどんな想いを込めたのか…



痛いくらいに伝わって来たから。

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