Magic4.チョコレートバナナ大福

第37話

考えれば考えるほどしっくり来た。


不思議に思ってたことが全部スッキリした。




でもどうして小鳩は琴ちゃん先生のために作ったチョコレートを渡さなかったんだろう。




Congratulations!って書かれたメッセージカードはお祝いしたいっていう、その表れだったと思う…



でも渡せなかったのは…


どうして?



「…ぃの、詩乃っ!」


「え?」


「お餅爆発するよ!」


「え?…あ、えっ、うわっ」


電子レンジにお餅を入れて温めボタンを押したまま別世界へ飛びだってた。危うくお餅も世界の果てへ消えるとこだった。


現在絶賛家庭科の調理実習中、テーマはお餅を使った料理。


「ありがと咲希、咲希が教えてくれなかったら空のお皿提出してあたかもあるように振る舞うとこだったよ…裸の王様ならぬ空っぽのお皿だったよ…」


「何言ってんの、詩乃」


慌てて止めた電子レンジからお皿の上に乗ったでろんでろんのお餅を取り出した。

温め過ぎちゃったけど、まぁいいか別に影響しないよね。


熱過ぎて直では持てなかったお皿をふきんの上に乗せて自分の担当する調理実習台に戻った。

同じようにお餅を温めていた咲希も一緒に。


いつも来ている家庭科室は、使い慣れてるはずなのに授業で来るとどうしてかソワソワしちゃう。


「詩乃、何悩んでるの?」


程よくいい感じに形を崩したお餅を咲希がスプーンの背で押しつぶしながらなじませてる。私のお餅はあっつあつで手が付けられないけど固まってしまう前にとどうにかしないとってスプーンを取った。


「ちょっとあっため過ぎたけどたぶん大丈夫だと思う!悩むほどのことじゃないよ!」 


べっちゃべちゃでお皿にくっ付き度がすごいけど、どうにかなるでしょ。大丈夫、大丈夫。


「そっちじゃなくて」


「え?」


「私が聞いてるのはそっちじゃない」


スプーンを持つ手が止まる。


咲希の方を見ると目が合った。


「…、悩みって」


でもふいに逸らしちゃった。急に恥ずかしくなって。


「チョコレート大福作るの?」


「え、うん…中にバナナ入れたチョコレートバナナ大福だよ!咲希はいちご大福なんだよね!」


「それ…小鳩くんに教えてもらったのかと思った」


「まさか!そんなアドバイス一切ないよ!」


だって小鳩はそんな優しい男じゃないもん、睨んで無視してきた男だよ。それもめんどくさそうに。


「じゃあ、小鳩くんのこと考えながら作ってるんだ」


「そうでもないよ!?だって小鳩ってチョコレートにしか興味ないの!私にはちーーーっとも興味がないそんな奴だよ!」


一気に早口で話す私を咲希はじっと見ていた。


「…でも、たまに、ちょっとだけ、優しいとこもあるんだけど」


はぁ~~~~~~っと長いタメ息が出る。


無造作にスプーンを置いて両手で顔を隠した。


「私、私を見失いそう!」


小鳩は琴ちゃん先生のことが好きで、小鳩と琴ちゃん先生は幼馴染みで、琴ちゃん先生はもうすぐ結婚する。


小鳩が渡そうと思ったチョコレートの意味とか、チョコ研をやめた事とか、いっぱい気になることはあるのに私が知らないことばかりで。


「正直チョコレート大福にしたのだって無意識だったし、私何も考えずチョコレートにしてたのかな、それもわかんないんだけど…っ」


もう何を考えたらいいかもわからない、何をしたらいいのか…



でも苦しいの、ただ苦しくて、自分を責めたくなる。



「恋をするとさ…」


咲希がお餅をこねながら静かな声で問いかけるように話し出した。


「弱くなったり強くなったりするけど好きな気持ちって変えられないじゃん?」


「…うん」


今までも咲希の恋の話はいっぱい聞いてきた。


でも聞くばっかりじゃわからなかったね。

今日はやたらすーっと私の中に染み込んでくるの。


私も恋、してるんだなって。


恥ずかしいけど、そんな風に思えて。


「そしたら、今詩乃ができることって1つしかないと思う」


「できること?何?」


「会えに行けばいいじゃん、小鳩くんに」


「…っ」


ドキッとして顔が赤くなる、胸がきゅっとなって俯いちゃった。


「でも部活やめちゃったし…っ」


「部活じゃないと会えないの?学校に来たら会えるし、いつでも話せるじゃん」


完全に手が止まってしまった。あれだけ熱かったお餅も固まり始めている。


「私は詩乃に言われて、勇気もらったよ」


その言葉に顔を上げた。


隣を見たら、咲希も私の方を見ていた。


「まだ言いたいこと言ってないんでしょ?」


“ちゃんと自分の言いたいこと言ってきなよ”


私が咲希に言ったこと。


少しでも咲希にとっていい方向に向くように背中を押したかったあの日。


「あんなになりふり構わずしてたのに、そこが詩乃のいいところでしょ!」


パンッと私の背中を叩いた。



あ、そっか、私。


まだ言いたいこと言えてない。



1番に言わなきゃいけないこと。



「咲希…」


ねっ、と微笑んで。


それが心強くって。


うん、って頷いた。



見失ってる場合じゃない。


そんなの私らしくない…じゃん。



「で、もうすぐ調理時間終わるけど詩乃終わった?」


「全然だよっ!!!」

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