Magic4.やっと来たチャンス
第25話
理由は教えてくれなかった。
お願いとして受け取ったチョコレートは結局食べられないまま、ひっそりと私の部屋の引き出しにしまわれることになった。
モヤモヤすることがたくさんあるのに今日は文化祭、みんなで準備してきた本番の日だ。
「詩乃、チョコ研はいいの?」
「うん、私の当番は午後からだから」
午前中はちょっとだけクラスの仕事、映え写真館の手持ち看板を持ってお客さんを呼ぶ係。クラスの模擬店は基本そのクラスでするのが決まりで、廊下に出て呼び込みをする。
「咲希は午前中ずっとクラス係やってるんだよね?」
「うん、私帰宅部だしね」
「午後は?光介くんと回るの?」
「そのつもりだよ、光介も部活の係もあって忙しいみたいだけど」
そんな風に言いながら笑ってる咲希は嬉しそうで、最近はいい感じなのかな。
「私、午後はチョコ研の方にいるから遊びに来てよ!」
「行くよ、魔法のチョコレート買いに♡」
「魔法のチョコレートは午前中で売り切れだろうけどね」
「えー、そうなの?」
今頃多目的ホールのチョコ研の模擬店は長蛇の列かな。なんだかんだみんなあのジンクス信じてるし。
私のクラスから多目的ホールは遠いんだ…近かったらこそっと抜け出して買いに行けたのに。
今頃多目的ホールで小鳩と森中部長は忙しくしてるんだろうなー
森中部長に、…もう話したのかな。
チョコレート止めてどうするんだろ、小鳩からチョコレート取ったら何も残らなくない?
大丈夫、なのかな…?
「すみませーん、映え写真館今入れますかー?」
「あ、どうぞどうぞ!こちらからお願いします!」
考えたいのに考える暇もなく、文化祭は繁盛していた。
ただの客寄せ係の私でさえバタバタで、だからこのあと緊張する出来事のことをちょっとだけ忘れてたの。
部活の係もある私はクラスの係半分の時間で、休憩をもらえる。
この休憩時間だけが私が自由に文化祭を回れる時間…
オージ先輩と一緒に回ることを約束した時間。
****
「あぁー、詩乃ちゃん!こっちこっち!」
「オージ先輩っ、すみません!遅くなっちゃって!」
待ち合わせは3年生の教室へ続く階段の下、外部から人もたくさん来てる今日はどこにいてもオージ先輩といるところを見られるんじゃないかってドキドキした。
見られるのもドキドキするんだもん。
「いいよ、全然!クラスの仕事忙しかった?」
「は、はいっ」
ほんとの理由はそれじゃないけど、そーゆうことにしてオージ先輩の前に立った。
緊張して髪型とか身だしなみとか気になって時間かかっちゃっただけなんだけど。
「じゃあ、行こっか!」
あたりまえのように自然で、だからドキッとするのも忘れちゃったぐらい。
グイっと引っ張られた右手に違和感しかなくて。
「わっ」
びっくりして離してしまった。せっかく繋いでくれたのに。
「あ、ごめん。馴れ馴れしかったよね」
「あ、いえ!すみませんっ、な…慣れてなくてっ」
やばい、顔が熱い。
恥ずかしくってなぜか必死に前髪を直しちゃう。
「すみません…」
「いや、俺の方こそ!」
変な空気になっちゃった、咄嗟に振り払ったみたいになったから…
「そうそう、詩乃ちゃんのためにクッキー用意したから!早く行こ!」
今度はおいでおいでと手招きをされ、すぐに空気を変えてくれる。
オージ先輩はよく相手のことを見てる人だなぁって。
あとをついて階段を上った。
オージ先輩の後姿を追いかけながら、あの姿にずっと近付きたいって…
思ってたんだけど。
今だってそう思ってるのに、なぜだか階段を上る足が重いの。
どうしちゃったのかな、私。
オージ先輩に誘ってもらえて嬉しいのに、2人でいられて夢みたいなのに、どこか笑えてない。
どうして振り払っちゃったのかな。
嬉しかったんじゃないの…?
じっと見つめた右手をきゅっと握りしめた。
オージ先輩と焼きチョコクッキーを食べた。
オージ先輩が私にって用意してくれたクッキーを一緒に。
私が教えたクッキーをオージ先輩たちのクラスでやってるカフェのメニューにしてくれて、お礼にって紅茶も奢ってくれた。
1つのテーブルでオージ先輩と向き合いながら飲む紅茶は緊張して味なんてほとんどわからなくて。
たくさん話しかけてくれるからそれに笑いながら相槌を打って、素直に楽しいって思ってた。
本当にそう思ってた。
やっぱりオージ先輩はカッコいいなって…
だけど、そう思ってる心のどこかで落ち着かない感情に掻き立てられてた。
こうして笑ってる間にもずっと気になっちゃってソワソワして。
ふとした瞬間消える表情に気付かされる。
今日まだ小鳩に会えてない。
小鳩…
今チョコ研の当番中だよね。
チョコレート売ってるんだよね。
売れちゃったかな、魔法のチョコレート。
小鳩はどんな顔して最後のチョコレートを見てる?
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