怪奇紹介系番組『かんあく!』
静谷 清
第一回「浴槽にいるなにかについて」
道崎「どうですか?どうですかと聞かれても…こんなの初めてですし、分かんないですよ」
黒田「そうでしたか、すみません!こういう心霊番組系には出演されたことがお有りで?」
道崎「まあ、はい。ありますよ。何ヶ月か前に『本当に会ったかもしれない奇妙な物語』にゲストとして出演しました」
黒田「そうでしたね、私もその回みました!いや、でもこの番組ではレギュラーとしてですね、出演してもらうということで」
道崎「はい、できるだけ頑張ります。この番組が終わるまでは」
黒田「やめてください!!」
道崎「この番組では、視聴者さんから番組公式SNSアカウントに投稿してもらった"どこにも載ってない"怖い話を紹介するということで」
黒田「私の仕事ですけどね!それ言うの!!はい!そういうことです!」
道崎「でもこれって結局視聴者がどこかで聞いた話を混ぜてそれっぽい話で怖がらすだけの番組ですよね?」
黒田「道崎さん!アウトですよ!その発言」
道崎「こりゃ失敬」
黒田「おっと、前置きが長くなってしまいました。それでは第一回のお話です!どうぞ!」
玉手箱プリン《アカウント名》さんのお話
『浴槽にいるなにかについて』
こんにちは!わたしは怖い話や心霊番組が大好きです!今回は、わたしが叔父さんから聞いた話を教えます。
わたしの叔父さんは小さい頃はすごくビビりだったそうです(笑)毎日夜にお風呂に入る時はシャワー中に後ろを振り向くのが怖くて、鏡をシャワーで洗い流して後ろを確認していたそうです!
それで冬のある日、お風呂が沸いてたので叔父さんが風呂に入ろうとしたんですね。そしたら、なんか急に浴槽の蓋を見つめるうちに、怖くなっちゃったんですって(笑)
だからお風呂に入らずに出ようと思ったんですけど、その日は寒かったから手とか冷え切っちゃってそのまま出ると風邪ひきそうだから、入ろうと蓋を開けたんです。
何もなかったですよ!そりゃ(笑)
でも、ついさっきまで何かいたみたいに、お風呂の中に波紋がいっぱい泳いでて、叔父さん怖くて入れなかったらしいです。
おかしいですよね。何もいないんですよ!でも何かいそうな気がしたんですって。だから蓋を全部開けて、壁にかけてからじっと眺めたんですって。
そうすると、だんだんと、本当に何かいるんじゃないかって。見えていないだけで、ほんとうは何かが叔父さんを待ってるんじゃないかって!
叔父さんは入るのが怖くて、でもそれが本当か確かめたくて、シャワーを湯船に掛けたんです。
そしたら、ブブブーン、ブブブーンって音が浴槽内に響いたんですって。おかしいですよね?虫の羽音みたいな、振動音が本当に聞こえたんですって!
嘘じゃないですよ。わたしも嘘だと思ったんですけど、叔父さん、本当に怖かったらしくて、急いで風呂場から飛び出して、リビングにいるお祖父ちゃんとお父さんのもとに泣きながら走っていったらしいですよ(笑)!
お父さんがすごい笑って、「こいつ、めっちゃ廊下水浸しで走ったもんだから、親父にめっちゃ怒られてさぁ。後にも先にも、こいつが親父にあんな怒られてたのは初めてだったな」って。
叔父さんも笑ってたんですけど、私が結局浴槽にいたのは何だったんだろうねって聞いたら、叔父さん、急にピタって黙って、「わからない…けどあれは本当にやばい"なにか"だと思う。もしあの時、浴槽の中に入っていたらどうなってたんだろう」って真顔で言ったんです。
お父さんは「どうせ嘘だろ。ビビらせようとしてるだけだって」って言ってたんですけど、わたし、叔父さんがあんなに真面目に話すの初めてみたんです。絶対本当に、あの時浴槽に"なにか"がいたんだと思います。
叔父さんはあれからもお風呂に入る前に、湯船にシャワーをかけるんだそうです。
黒田「うわぁ〜いや…怖いですね!」
道崎「そうですか?派手なオチがない分、現実感出そうとしてる感がありません?」
黒田「すごい不満そうですね!なんでそう卑屈になれるんですか!?」
道崎「この文章、なんか嘘くさいんですよね。オジさんが女子高生らしさを出そうとしてるっていうか…こういう創作感あふれる話をテレビで紹介してるだけで売れるんですか?」
黒田「よくそんな感じで霊能力者やれますね」
道崎「別に霊能力者ってわけじゃないですよ。ただ少し霊感があるってだけです」
黒田「そうですか!このお話はどうでしたか?」
道崎「どうって…何が」
黒田「霊的な力は感じますか?」
道崎「ないです」
黒田「即答ですか!」
道崎「霊的な力って、幽霊がこの話に出てるかどうかってことですか?」
黒田「まあはい!」
道崎「それだったら無いですね。幽霊が関わってるかどうかって、これは主観ですけど、自分がどれだけその話を理解出来るかどうか、なんですよ」
黒田「ん?」
道崎「えーっとですね、私が理解できない話だと、ホンモノ率高いってことです」
黒田「え?」
道崎「説明するのがめんどくさいなぁ…つまりですね、私って言うなら、すごい心霊オタクなんですよ」
黒田「はい」
道崎「大体の有名なホラー話なら、頭に入れてるつもりです」
黒田「それはすごいですね!」
道崎「ありがとうございます。で、それ系で似てる話っていくつもあるんですよ。さっきの話も、まったく同じってことはないんでしょうけど、風呂系の怖い話って、まあまあ皆考えることでよくあるんですよ」
黒田「あー!なんか聞いたことあるからあんな態度してたんですね!」
道崎「そうです。あんなもん黒田さんでも書けます。ああいうのって、つまりは少し臆病な人間なら、誰でも思いつける話なんです。その時点で、ある程度話の底が知れるというか」
黒田「さり気なくdisられた気がしますが、という事は、どこかで聞いたことある話だから、ホンモノの実体験ではないと?」
道崎「それもありますが、あの話の場合、嘘っぽすぎました。恐らく"叔父さんに聞いた"という部分以外でまかせでしょう」
黒田「えー!?」
道崎「さっきの玉手箱プリンって人、『怖い話や心霊番組が大好き』って言ってる割には中々カジュアルに話してらっしゃいましたね。(笑)とか若者言葉まで使って」
黒田「もうそんな若者言葉でもない気がしますが…」
道崎「それで心霊オタクの割には話もありがちで、オチも何も起こらないです。話として"面白くない"。そんなのは心霊オタクとしてあるまじき行いです。たかが数多ある心霊番組の一つ。されど怖い話である以上は真摯に、相手を怖がらせるために本気になるべきです!」
黒田「えーーっと…つまり?」
道崎「心霊オタクと名乗る割に、ありがちな話。怖い話と言う割に、ふざけた文体。なんか、作られた話みたいじゃないですか?」
黒田「そりゃ作り話だって道崎さんが言ってたんじゃないですか」
道崎「この"投稿"自体が"作り話"です」
黒田「えっ?」
道崎「恐らく、番組側で元の文章を変えたんでしょう」
黒田「でもそれだとおかしくないですか?わざわざ投稿自体作り変えるんなら、"心霊オタク"とか、"若者言葉"とか、違和感ある要素を入れますかね?」
道崎「そうですよね。おかしい。何なら司会進行である黒田さんに知らされていないのもおかしい」
黒田「じゃあ、何故?」
道崎「これも推測ですが、本来視聴者から怖い話を募って番組で紹介するというのはそのとおりにするつもりだったが、思ったより投稿がされず、もしくはロクな話が送られてこず、その中でマシだった玉手箱プリンさんの話を紹介することは決めたものの、"それが何らかの理由でそのまま放送はできなかったため"、泣く泣く改変することを決めたのではないでしょうか」
黒田「オドロキ、オドラデク!」
道崎「だから"嘘くさい"んです」
黒田「面白いですね。その考察」
道崎「じゃあ今回はこの程度で」
黒田「そうですね、もうお時間です!それでは、また来週!」
――番組放送後、番組公式SNSアカウントにて送られてきたメッセージの全文
●●「あのお話は嘘だらけです。叔父さんから聞いた話はあんな話じゃありません」
●●「叔父さんは浴槽に"入っちゃったんです"。"なにか"に見つかっちゃったんです。その日から叔父さんは、様子がおかしくなっちゃって、親族から変人扱いされたんです」
●●「お祖父ちゃんの葬式の時に、一人離れて座っていた叔父さんから教えてもらったんです『俺はあの時からずっとあいつといる』『あいつからは離れられないんだ』って」
●●「あれから叔父さんとは会ってないんですけど。死んではないですよ?叔父さんとはいつでも会えます。会うつもりはないですけど」
●●「あの話、私の話だけじゃよく分からなかったのなら、直接聞いてきたらどうですか?叔父さん、■■県の■■■刑務所で服役してますから」
●●「罪状?死体遺棄と救護義務違反?でしたっけ。車で女の子撥ねて、川に捨てたらしいですよ」
●●「あんな人とは会いたくもないです。でもあの話だけはあのまま放送してください。絶対変えないでください」
●●「変えたらだめなんです。私が危ないんです」
*上の文における、番組側のメッセージは記録されておりませんでした。
*また、話における「叔父さん」が■■県女児ひき逃げ遺体遺棄事件の容疑者と該当したため、本編での話は内容に多少の修正を加えています。
怪奇紹介系番組『かんあく!』 静谷 清 @Sizutani38
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