第6話 絶望

明くる日、俺の毛髪の件は嫁に話した。会社にも話したら?というが、それは出来なかった。病院に行ったところで対処もなにも出来ぬと考え、有給を使い様子を見ることにした。

俺の毛髪は昨日の倍に増えていた。厳密には毛根であるが。


何をするにもやる気はでない。仕方ない。何たって訳が分からぬ。ただ、普通に市販されている発毛剤を使ったところ毛根が減って毛髪は一つとなったのだ。そこから、ねずみ算式に増やす方法を見つけようやくここまで生やすことが出来た。解決したかに見えた問題にも更に問題が発生し、このままねずみ算式に毛根が増えていった場合、俺は毛髪に包まれるような人間になってしまう。というか、頭に入りきらぬ毛根は一体どこへ行くのだろう?もし身体中が毛根だらけになったりしたらと思うとゾッとする。

ポストに投函したあの写真はいつ販売元に届くのだろうか。明日には今日の倍に増える毛根の心配と共に、未来永劫これからも増え続けるかもしれぬ毛根を心配し、気が狂いそうだった。


下手なものに手を付けてしまった。まさかこんな事態になろうとは。後悔先に立たずとはよく言ったものだ。


午前も午後も毛根の心配である。日本と言わず、世界で一番毛根の心配をしているのは間違いなく俺だろう。

何の自慢にもならん。そんなことで世界一になろうとは思ってもみなかったし、なろうとも思わない。

考えても仕方ない。とにかく今はポストに投函したあの写真だけが頼りだ。そんなことを一日中考え、翌日を迎えた。


カスタマーセンターの岩尾という男から連絡が入ったのは昼過ぎだった。こちらの異常事態を知ってとにかく連絡第一で電話を掛けてきたのだろう。

岩尾の声はしどろもどろだった。


あの、この度は当社の製品ご利用頂きありがとうございます。というか、すみません。あの、お写真拝見してすぐにお電話掛けさせて頂いたもので、その、原因などはあの、これから調べさせて頂きますが、早くとも1週間位はかかるかと思いますが、あの、そうですね、その後、何か変化はございましたでしょうか?


もう泣きたくなった。

今朝、やはり毛根は倍になっていた。このままねずみ算式に増えていくと、私はあと10日あまりで常人の16倍以上の毛根を持つ世界初の人間となる。しかし、そんなことをこの男に言っても仕方ないので、これまでの経緯を順序立てて話した。

岩尾は電話口で、はい、はい、としか返事を言わなかった。本当に伝わっているのか分からなかったが、伝わったところでこの男には何も出来はしない。しかし、今の状況を話せるのはこの男しかいないのだ。話すしかなかった。

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