時空門(ゲート)

 あれから10日が過ぎた。たくさんの野次馬に混ざって、シェフたちも噂の交差点を見に来ていた。例の奇妙な動物が「異世界(オイタン)食堂」の近所でも目撃されたからである。交差点をひとめみて、アルがつぶやいた。

「むぅ、これは時空門(ゲート)だ。しかも、」

 アルに続いてピットが何かを感じ取ったようで、やじ馬らから少しずつ離れながら言う。

「空中に魔力素(マーナ)が極端に少ない現代世界にこんなにも魔力があふれているなんて……」

「ということは、だ。故郷とつながっているということか?」

 ここだけ、と付け加えるのはパタである。シェフは仲間の言葉を聞きながら難しい顔をしていた。あの場所と似ていたのだ。


 シェフたちは店へと帰り、明日の仕込みのことを考えていた。だが先ほど見た現象が頭から離れてくれない。

「シェフ。ぼーっとしてると手ぇ切るよ?」とピットが訊(き)いた。毎日欠かしたことがない武具の手入れをしながら、シェフはぼんやりと王都の事件を思い出していた。


 一組のカップル冒険者のうち、見つかったのは男性のみとされていた。の情報では。裏に回れば、実は女性も発見されていた。ただし、正気ではなかっただけ。発見された女性は狂ったようにしきりに、こう訴えていたという。

「もうすぐ、次元の向こうから闇が来る」

 その闇が何を指すのかは分からず、その女性は今も王都の地下牢に人々に不安を与えた罪で幽閉されているという。


 ピットが魔術書に秘術草(ひやく)を加工して作ったであろう丸いものを補充しながら、ぼんやりモードのシェフを気にしている。魔術書というのは魔力を閉じ込められている本で、魔法を使う時の魔力を増やす効果があるアイテム。常に魔法を使うことができるが、魔法を使う時の媒体になる秘術草を加工したものと術者の魔力がなくなれば使えなくなるため、定期的にアイテムの補充をしなければならなかった。術者の魔力は少し休めば自然回復する。その補充作業をしながら

「ねー、シェフはどう思う?」

「グリフォンのことか」

 せめて色が分かればなぁ、と相変わらず残念に思っていた。

「アル、あれは本当にゲートなのか?」

「どう見てもゲートですね。しかも、何者かが故意に捻じ曲げた可能性がある」

 それまで黙っていたパタが腰を上げるなり、鎧と武器を装備していく。

「いくのだろ?」

 調査するためにさ、と言わんばかりに立ち上がった。

「ついでに、野生の香草(ハーブ)なんかもとれるといいなー」

 手持ちが少なくってー、とはピットである。彼は味付けに使う調味料を調合して作っている。オイタンの人々の口にあうようで、客の中には「調味料だけでも売ってほしい」と大好評である。

「遊びに行くんじゃねぇぞ」

「しょうがねぇな。よし、……行くか!」

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