妹にそっくりな美少女を助けたら、毎日家に来るようになった

田中又雄

第1話 他人の空似

 俺の名前は後藤淳也。

どこにでもいる普通の高校2年生である。


 幼少期からずっと人見知りで、未だに治ることがなく、現在も友達はたったの1人である。


 まぁ、それでも友達がいるだけましか、なんてことを考えながら、電車に揺られながら考えていた。


 あー、今日は体育か。

しかも、柔道だよなー、だるいなー、めんどいなーと考えていると、何となく目線が1人の女の子に向かう。


 ぎゅうぎゅうの人混みの中、顔と吊り革を握る手だけが見えていた。


 それはどう見ても俺の妹とだった。


 あれ?今日は部活の日だからいつもより早く家を出ていたはずなのに...。


 ちなみに俺の妹はめちゃくちゃ可愛い。

学校で一番可愛いと言われているし、兄の俺から見ても


 そう思っていると、その横顔が少し険しいことに気づく。


 ん?と思っていると、妹の後ろに立っているおっさんの片手が妹のお尻を握っているように見えた。


 その瞬間、頭が一気に沸騰する。


 俺は妹とはかなり仲が良かった。

その妹が痴漢にあっていると気づき、我を忘れてしまいそうになるのを抑えて、狭い空間でスマホを取り出して、何とか証拠写真を撮る。


 そして、無理やり人混みを掻き分けて、そのおっさんの手を掴み、「痴漢なんてして恥ずかしくないんですか?」と、静かな声でそう呟いた。


 すると、周りの人たちはその一言でおっさんに目を移すと、おっさんは俺の手を振り払い、逃げるように電車を降りて行った。


「ちょっ!逃げんな!そいつ痴」と、言いかけたところで制服の裾をギュッと握られる。


 握ったのは妹だった。

ここで妙に騒ぐと妹が嫌な思いをするかもしれない。


 一呼吸を置いて、「大丈夫だったか?」と妹に声をかけると「あっ、はい...//ありがとうございます//」と、少し俯きながら他人行儀にそう言った。


 ありがとうございます?なんで敬語と思いながら、「ったく、だからいつも言ってるだろ?お前は可愛いんだからもう少し周りを見て...」


 そう言いかけた瞬間にようやく気づく。


 妹の頬にあるはずの特徴的な黒子がない。

そもそも、よく見たら制服もうちの高校のやつじゃない。


 これはうちの学校の近くにある有名なお嬢様学校の制服だった。


 つまり、これは他人の空似というやつだ。


 そのことに気づいた瞬間に、冷や汗が溢れ始める。


「...あっ...えっと...」


 すると、その女の子は俺の服の袖を掴んで、「...お礼させてください...//」とつぶやいた。


「...はい」


 自分の勘違いに顔を真っ赤にさせながらそう呟いた。


 そうして、次の駅で降りると彼女も後ろをついてくる。


 改めて、妹だと思って助けたことを伝えようと、振り返る。


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093090501626309


 しかし、やっぱり妹にそっくりだ。

双子と言われても驚かないレベルで全部が同じ。

髪型も、体型も、声も何もかも同じだ...。

頬に黒子がないこと以外は。


 強いて言うなら雰囲気は結構違うかな...。


「...あぁ...えっと...じ、実はあなたが妹に本当にそっくりで、妹だと思って助けてしまって...勘違いしてすみませんでした!」と、頭を下げる。


 まぁ、よく考えれば痴漢から助けたのだからごめんではない気がしたが、馴れ馴れしい感じで対応してしまったことに頭を下げる。


「いっ、いえ!...誰かと勘違いされているなということはすぐに分かりましたので...全然大丈夫です...。た、助けていただきありがとうございます...//」と、顔を赤くしながら頭を下げる。


「あ、いえいえ...。こちらこそ...」と、ぎこちなく挨拶をした後に、そのまま立ち去ろうとすると、制服の裾を掴まれる。


「ちょっ、ちょっと...//待ってください...//その、ちゃ、ちゃんと!お礼したいので...連絡先交換してくれませんか...?//」と、恥ずかしさと照れで体をプルプルさせながらそう言った。


 流石にこれを断るのは人としていかんなと思い、連絡先を交換して、その場を後にした。


 それからはいつも通り学校が始まり、やりたくない柔道をし、お腹をすかしながら数学をし、政経の話で眠気と戦いつつ、現代文の問題を解くのだった。


 そうして、ようやく迎えた昼休み。

唯一の友達と話しながら、携帯を見ると、あの子から連絡が入っていた。


『今日は本当に助けていただきありがとうございました。お礼だったのですが、知り合いに映画の試写会のチケットを2枚もらいまして、興味がありましたら、是非2人で観に行きたいのですが、いかがでしょうか...?』という硬めの文が届いていた。


 そのことで今日の出来事を思い出し、友人である坂本龍弥にその話をする。


「あぁ、そういえば今日さ、いつも通り電車乗ってたら、女の子が痴漢にあっててさ」

「マジ?居るもんだなー」

「俺も初めて見たんだけどさ、しかもその女の子が妹だったんだよ」

「あー、雪ちゃん?まぁ、可愛いもんな。流石に助けたの?」

「そりゃ可愛い妹がそんな目にあってたら助けるだろ?そんで助けたらさ...それ、妹にそっくりの全くの別人でさ...」

「...まじ?wちょーうけるじゃんw」

「ちょーうけねーよ。マジで焦ったんだから。しかも宮野女子の制服着ててさー。まじでびっくりしたんだよ。そんで、連絡先交換することになって、なんかお礼に映画の試写会誘われた」


 そういいながら、携帯の画面を見せる。


「...まじじゃん。おいおい、お前だけ抜け駆けさんのなしだぞ」

「抜け駆けって...相手は妹にそっくりなんだぞ?そんな気持ち抱けねーっての」

「じゃあ断るのか?」

「それは...ちょっと興味あった映画だし、せっかくのご厚意だし行くけどさ...」

「行くのかよ!エッチスケッチワンタッチでバーコード決済!ん〜文明の力〜」

「...何言ったんだ」


 友達を冷めた目で見つつ、『ぜひ行きましょう。その日は特に予定がないので自分は大丈夫です』と送ると、すぐに返信が来る。


『ありがとうございます!よろしくお願いします!』


 可愛いスタンプとともにそんな文章が送られてきた。


 思わず、少しだけ緩んだ口元を龍弥にイジられつつ、その日は何事もなく学校が終わった。


 ◇家


「...私にそっくりの女の子?へぇー、そんな女の子いるんだ〜」と、ソファに寝転びながらアイスを食べつつそんなことを言う妹。


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093090512051286


「うん。めっちゃ似てた」

「ふーん?ちょっと興味あるから今度連れてきてよー」

「いや...家に連れてくるのはあれだけど...」

「いいじゃん。私を家に連れてくる感じで連れてくれば」

「...見た目は似てるけど雰囲気はだいぶ違うからな。まぁ、本人がいいって言えばな」


 そんな雑談を妹としながら、今日も1日が終わったわ。

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2024年12月19日 07:15 毎日 07:15

妹にそっくりな美少女を助けたら、毎日家に来るようになった 田中又雄 @tanakamatao01

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