王妃とセオドア

「また一緒に勉強したり、遊んだりできるようになるのですか?」

「……たぶん、まだ少し難しいかもしれないが、そのうち父様と医師が許せば、できるようになるかと思う」

「早く兄様と一緒に勉強したいです! その時はヒロも一緒ですよ?」


 ルカはにこにこと話し、セオドアが優しくて良い子だと言ったのも頷けるとヒロは思った。ただ久しぶりの兄に、はしゃいでいると言えばそれまでだが、ルカなりに、この場を繋ごうとしているのかもしれない。


「立ちっぱなしでは疲れるでしょう。こちらに来て座りなさい。ヒロもこちらへ」

「いえ! 私は立っております!」


 王妃からすれば、異世界から来た客人だと理解しての同席の許しだが、周りから見たら一般の世話役が王家と共にお茶を飲むのは疑問でしかないだろう。そのせいで爪弾きものにされるのは勘弁だと、ヒロは断った。


「このように、セオドア様の後ろに控えております」


 セオドアを連れて席へと座らせ、そのすぐ後ろに控える。エナもそれに続いた。


「もしもセオドア様が倒れることがあったらすぐ動けますから」


 王妃はそれで納得したようだった。

 久しぶりの家族団欒になるのかと思いきや、話の中心はヒロだった。そういえば、王妃に呼ばれたのはセオドアではなく自分だったと思い出す。


「ヒロはどのようにセオドアを治しているの?」

「大それたことはしておりません。清潔感と、温度と湿度を大事にして、あとはしっかりご飯を食べれるように努めているだけで。ほとんどはセオドア様自身の頑張りでございます」

「医学の心得は?」

「ありません。基本的な処置、というのでしょうか。熱にかかった時の対処法を、セオドア様にはさせていただきました」

「それで治るものなのね……」


 王妃はほう、と息をついた。普通ならいろいろと思うところがあるだろうが、おそらく異世界から召喚されたという部分が効いているのだと思う。でないと、こんな簡単に納得するはずがない。

 大っぴらにしてはいないようだが、ヒロが異世界から来たことはどこまで知れ渡っているのだろうかと、ふと思った。ローガンはもちろん、アルフィ、ジェンソン国王、それから王妃くらいまでだろうか。何も言われていないし、他言しないようにとも言われていないのでよく分からない。ヒロ自身は、周りに言いふらすつもりはなかったため、このまま黙っていようと思ってはいるが。


「ヒロを呼んだのは、セオドアの様子を聞きたかったからだったけれど、セオドア自身が来てくれたから、しっかり様子を確認できて良かったわ」


 声音柔らかに王妃が言うので、ヒロはセオドアと何か確執があるように思えたのは気のせいだったかと考える。

 と、こほこほとセオドアが咳をした。


「兄様、大丈夫ですか?」

「大丈夫だ、気にするな」

「セオドア様、帰りましょうか。いつもより長い時間、外を出歩いておいでですから」


 ヒロが王妃を見ると、オリビアは頷いた。


「そうしなさい、セオドア」

「分かりました……」

「また元気な時にゆっくり話しましょう」


 エナが王妃と王子たちに深く頭を下げたのにならって、ヒロもお辞儀をする。そうして、エナの案内のもと、セオドアを部屋に連れ帰った。

 ベッドに横たわらせたセオドアは、浮かない顔をしていた。


「……セオドア様、少し眠りましょうか」

「……うん」

 

 何か思うところがあるのが分かった。でも、セオドアに話す気がないなら、無理に聞くまでもない。話したくなったら話すだろう。

 ヒロは、掛け布団の上から、セオドアの胸を優しく叩く。疲れていたらしく、彼はすとんと眠りに落ち、ヒロは邪魔にならないように、エナとそっと部屋を出た。

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