掃除
「ひとまずは部屋の空気を入れ替えて、新鮮なものにしましょう。セオドア様、寒いようでしたらすぐに仰ってくださいね。息が苦しい場合もすぐに教えてください」
ヒロはそう言って、エナと共に箒で床を掃いていく。途中、蜘蛛の巣を見つけて、これも箒で落とした時、数少ない家具のでっぱりにわずかだがほこりが被っているのを見て、思わずため息をはきそうになった。上の方にもほこりが溜まっているのか。
箒で床の掃除をするのを変更して、上から下への掃除法に切り替える。まずは王子のベッドから。雑巾で隅々まで拭き上げ、窓の桟や扉の縁、食事台などの家具を次々と綺麗にしていく。
ミニマリストみたいな部屋で良かった。おそらく、この部屋は療養用で、別の場所にきちんとした正式の部屋があるのだろう。
ごほごほ、と咳の音がして、手を止める。
「セオドア様、バタバタしてしまってすみません。今日はここまでにしておきますね」
「いや、良い。必要なことなのだろう?」
「でもセオドア様が体調を崩しては意味がありませんから。少しずつやっていきます。窓はしばらく開けさせてください」
頷いたセオドアの目は、咳き込んで疲れたのか、とろんと半開きになっている。
「エナ。火元とやかんと水が欲しいのですが、ありますか?」
「火鉢と水の入ったやかんで良いでしょうか?」
「はい」
エナが頼まれた物を取ってくるために出て行った部屋で、セオドアが呼吸する音だけが響く。
「……ヒロは僕のことを弱いと思うか?」
「なぜでしょうか?」
「獣人だから王にはなれなくても、騎士団でやっていこうと思ってたんだ。それなのに病にかかってしまって……先祖帰りなのに体が弱いなんて、皆のお荷物にしかならない……今だってそうだ」
セオドアは悔しそうに唇を噛んだ。
「僕は君が羨ましい。獣人じゃなくて、丈夫な体を持った君が」
「……私は入ってきたばかりなので、よく分かりませんが、セオドア様の体が弱いのはセオドア様のせいではありませんし、これから必ず良くなります。弱くなんてありません。それにお荷物なんて言う者がいたら、私がぶっ飛ばします」
こんなに美しい少年がお荷物だなんて、あってたまるか。元の世界ならアイドルかモデルで引っ張りだこ。ついでに言えば、ヒロは動物が好きだった。もふもふは正義である。
そんな思いで拳を握ってみせると、セオドアはきょとんとして、笑った。幼子のような笑顔だった。
「あはは、そう言われたのは初めてだ」
エナが火鉢とやかんを持って帰ってくる。ヒロはお礼を言って受け取り、火鉢をベッドの近くに置いた。この部屋にはどうやら浴室もあるようで、やかんを持ったエナがそこに入っていき、水を入れて戻ってくる。そちらは、火鉢の網の上に置くようお願いした。
これで少しは咳き込むことが減るだろう。ほどよい温度と湿気は大事だ。
セオドアを見ると、今の一瞬のうちに寝入ってしまったようだった。会話をするのも疲れるのだろうか。
エナが廊下に出るように合図をしたので、静かに窓を閉めたあと、部屋の外に出た。
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