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第4話

「合併…?」






そんな話ししていたような…していないような。思い出せないけどこうなってるって事はしてたのかもしれないと彼女記憶は朧げだった。




普段では想像がつかないほど静かな校舎と固く閉ざされた門。そこにベタリと貼り付けられた紙をマジマジと1人の少女が見ている。





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〇〇年〇月〇日

生徒各位


合併のご案内



拝啓、花冷えの時節でございますが、当校生徒のの皆様にはますますご健勝のことと存じます。


さて、この度は4月1日付で牙龍学園がりゅうがくえんとの合併が決まりましたことをお知らせいたします。


新学期からは牙龍学園の校舎での生活となりますのでよろしくお願いいたします。


つきましては下記の通り、一部生徒の方はクラスのご指定がございますのでご確認いただけますと幸いでございます。


まずは略儀ながら書面を持ちましてお願い申し上げます。


敬具




牙龍学園2-D 高瀬壬黎たかせみれい(月神高校1-2)



以上


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紙を見て自分だけが名指しされているのを確認した少女、壬黎は何かしたか思い返してみたものの、特にこれといって学校で騒動を起こした記憶もあるようなないようなとこれまた記憶は朧げである。



わざわざ名指しなんて変なことするなァと肩をすくめながら彼女は踵を返していた。





「行くしかない、か」





壬黎が目指すのは紙切れに書かれた牙龍学園。この辺一帯では有名な大規模な教育機関である。




普通科は勿論、特進科もあり有名大学への合格率はとても高い。それだけでも人気を集める要因ではあるが更に人気を高めている理由の1つが芸能科の存在だった。



読んで字のごとく、芸能活動をしている人が通う特別コースであり…有名人とお近づきになれるチャンスでもあるわけである。



そしてもう1つ。商業科と呼ばれる学科もあるのだが…主に世間では〝不良〟〝ヤンキー〟そう呼ばれる学生達の最後の砦とも言われている。




そんな何でもありな牙龍学園は多くの生徒を受け入れているだけあって敷地も広い。それはもう…バカみたいに広すぎるのだ。





「…どこ、ここ」





案の定壬黎は広すぎる敷地内で迷子になっていた。辿り着いて近くにあった門から入ったはいいものの人っ子ひとり見当たらない。




誰かに会わない限り教室にも行けないし、ましてや今日の始業式の流れなども合併の事すら忘れ去っていた彼女には分かりもしない。時間的にとっくのとうに始まっていてもおかしくない時間なのだが。





「…どうしよう」





(適当に歩いていれば辿り着くかな…?)

そんな事を考えている壬黎だったがトントンと軽く叩かれる肩に振り返り…背後にいた人物に綺麗な2度見をしていた。




何の冗談だといわんばかりに彼女の顔はヒクリと引き攣り、そしてげんなりとした顔に切り替わっている。





「あ、やっぱり」




「…何でここにいるの?」




「ん?今年から赴任したから」




「教育学部だったけ…じゃなくてさァ」





壬黎の記憶にあったはずの甘そうなキャラメル色をした髪の毛はいずこ。しっかりと黒い髪にスーツを着た知人である飛鳥あすかがそこには佇んでいたのである。小脇には学生なら誰でも1度は見たことがある名簿を抱えて。




冗談じゃないんだけどな。ガシガシと頭をかきながら彼は壬黎の頭のてっぺんからつま先までジロジロと見ている。

(その見方は…なんかじゃない?)

一瞬だけ引いた顔をする壬黎の表情は見事に飛鳥には見られていた。





「今余計な事思っただろ」




「いやァ、まさか」




「顔が笑ってんだよ。それよりお前は1回理事長室」




「早々に呼び出される事したっけ…」





そう壬黎は呟いたものの次の瞬間飛鳥とは切っても切れない関係の持ち主が脳裏を過り、そして何とも言い難い顔をしながら飛鳥を見上げるのだった。





「あの…違うなら違う方がいいんだけど、その理事長って…」




「残念ながらその通りだ」





諦めろと言わんばかりの飛鳥の返答に彼女の口からはそれは深いため息が吐き出され、来る前に見た紙切れで自分だけ名指しされていたのもこの瞬間納得したのである。





「晴れて兄貴の監視下かァ…」




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