-War 1- 戦争を終わらせる戦争屋 Ⅲ

【Phase3:新たなる奇人】


買い出しに出掛けてから任務に出ていた隊員は仮眠を取った


私も例外ではない


目が覚めると既に陽が落ちていた


こんな生活してると昼でも夜でも寝れる


とは言え健康には悪そうだが仕事は待ってはくれない


いつ如何なる時にすぐにでも戦場に行く為のコンディションは整えておくのが鉄則だ


自室から出て本部の方へと歩いてく途中いい匂いが私の食欲を刺激した


まだ少し早いけど様子を見に行ってみようか


「おはよう」


「起きたか,まだ少しかかるぞ」


厨房で調理を担当しているのはコノエ,エミリー,ホーキンス,そしてルイスだ


「相変わらずエプロンが似合わないな」


「スーツが汚れるよりはマシだ」


「スーツ脱げよ」


数々のご馳走が既に完成している


あぁ…空腹には目の毒だ


今すぐにでも齧り付きたい


「ちょっと一ノ瀬さんー!腹ペコだからってつまみ食いしないでください!」


「え?私食べてないけど?」


「あれー?一皿足りない様な…」


「どうせあのバカでしょ,何か手伝える事は?」


「それじゃ食器と料理をテーブルに運んで貰えると助かりますー!」


あぁ本当に空腹には目の毒だ


でももう少しでご馳走にありつけるんだ


食器を並べ,料理を並べて…


次第に美味しい匂いに釣られてゾクゾクと隊員達も食堂へと集まってくる


「おー!美味そうっすねぇ!」


「お前つまみ食いしたのバレてるぞ?」


「まだしてないが!?」


「はっはー!いいねぇ!酒はしっかりあるかい?」


「もちろん和食もあるよね?」


「おい誰だ!スターゲイジーパイ買ってきた奴ぁ!?」


「最近はレーションしか食べてなかったから美味しそうやね〜」


「さて…全員席についたな?改めて今回は新規隊員としてシルヴィア・ガブリエラがTrue Eyes Mercenary Companyへ所属する事になった,挨拶をして貰う」


「はじめまして,シルヴィア・ガブリエラよ,前まではフリーランスの傭兵をやっていて…」


「おいてめぇ!酒を1人で抱え込むんじゃねぇ!」


「まだそっちにたくさんあるでしょうがぁ!」


「ちょっと私のスコーンはどこ!?」


「美香ぁ!これ見てみ!新作の玩具の情報上がってるっすよぉ!」


「もしもしー?うん,今仕事中,え?週末?任務が無かったらいいわよ?」


「ほぅ,私に麻雀勝負かい?私は一晩に九蓮宝燈を2回和了っていてね」


「誰か〜?新作見ない〜?ドキドキ♡周りは女性隊員だらけ!?危ない傭兵組織vol4やよ〜」


「……………」


「まぁ……こいつらに自己紹介は不要だったな…」


「寧ろろくに自己紹介しなくても溶け込めるのがうちだからね,シルヴィアもこの晩餐を楽しんだ方がいいよ」


「えぇ…そうさせて貰うわね」


いつもこうだ


自己紹介だと言うのに誰1人聞いちゃいない


それどころかまともに自己紹介してるのは私とルイスくらいだ


他はいつの間にか隊に馴染んでる


まぁ変に馴染めないよりはよっぽどいいだろう


「お…これ意外と美味しいな」


「日本人は好きだろ?ラーメン,俺の自信作だ」


「ラーメン作れるんだ」


「セントラルシティの知り合いの爺さんに教わってな」


こんな平和に飯を食えるのもありがたいものだ


美味しい物を食べると幸福感に満たされる


仮初の平和だと分かっていながらも一時的な平和に身を置ける


私達が戦い続けなければこの仮初の平和もいずれは失われる


そう思うと勇気が湧いてくる


自分達がしっかりと戦争を確実に終わりへと導いているのだと


「イーヒッヒッヒッ!ボスぅー!呑んでるっすかぁ!?」


「ガッ!?」


「は!?」


やばい,始まった


酔い始めたカレンがいきなりワインの瓶でルイスの頭を殴りつけた


勢いよく振りかぶって殴りつけたもんだから当然瓶は粉々に砕け散る


とち狂ってるとしか言えない


「社長!?だ…大丈夫ですか……?」


「………無礼講だ,このくらい何ともないさ」


頭から血を流しておいてよく言う


とは言えたまには息抜きをしないと不満が爆発する


文字通りカレンの場合は爆発する


「唐揚げのアルビノ固体発見!レモンでもかけるっしょ!」


「……………」


絞ったレモンが頭上から降り注ぐ


あー…これは顔を見なくても分かる


血管が間違いなくビキビキと浮き出てるやつだ


「1番九条 美香!脱ぎまーす!」


「あっはっはっは!下の毛見えてんぞー!」


「うんうん…それでね,そうそう…私もさぁ!勇気出して告白したのにゲイだからって断りやがったのよ!」


「いいじゃん私なんか車デートでフラれてさー」


「おいアル,酒飲んでねぇだろうな?お前はまだ未成年だ,ジュースがお似合いだ」


「…Vさんそれ僕じゃなくてルーシーさんのケツですよ…」


「今を煌めく売れっ子同人作家やよー!その名はー?」


「カルロース!」


「カルネスだよっ!!!!」


「名前覚えにくいわぼけぇ!」


「…なんか…凄まじいわね…」


「食い物も酒も無くなってあとは宴会モードに入ってるなあいつら…後片付けどうするんだか…」


まぁほんと滅多にない機会だ


羽目を外すのはいいとして…外し過ぎは良くない


「ボースーぅ,給料上げてくれっすよぉ〜」


「おい…酔い過ぎだぞカレン…」


「あー!分かったっ!プレゼントで好感度稼ぐんすねぇ!食らえスターゲイジーパイ!」


「あ………」


パァンと勢いよくパイがルイスの顔面に叩きつけられる


それはもう凄い勢いで


「殺す」


「イーヒッヒッヒッヒッヒッ!!!パイ怪獣が襲ってくるっすー!」


「待ちやがれ!!!!」


「あーあ…キレちゃった…」


「無礼講過ぎるわね…」


「あっはっはっはっは!」


「ワカメ酒じゃ〜!ソフィー飲みなよ!」


「却下」


「アールー?お願いやよ〜!更なる画力を得る為には本物の裸を…」


「うわぁぁぁぁぁん!!助けて!!!」


「てめぇカルビ!アルに何しやがる!」


「だからそれルーシーさんのケツです!!あと名前違ってますから!!」


「ニーア!今から居合斬りしまーす!ってこれ箸やないかーい!」


「ナイフならあるわよ?」


「あー……頭痛くなってきた」


ここにこれ以上いたら頭がどうにかなりそうだ


少しばかり外の空気へ触れてこよう


「ふぅ…ここまであいつらの声が聞こえてくる…」


室内ではまだどったんばったん大騒ぎしているようだ


いくらなんでも羽目を外し過ぎだ


とは言えそれを止める術を私は持っていない


だから見ない振りをする為こうして外へとやってきた


「いい夜だなぁ…」


雲が全くない


風も吹いていない


穏やかな夜だ


室内に目を瞑れば


こうして時たま空を見上げていると色々な事が脳裏を過ぎる


悩み事


辛い事


…過去の事も


「……………」


『あはは,やっぱり咲夜はいつも通りだね』


『ねぇ…デートしない?』


『私も…嬉しいよ,咲夜』


『ねぇ咲夜……死んで…!!』


「ツッ………」


やっぱりまだ辛い


あの時の記憶が今なお私を苦しめる


私には昔恋人がいた


何年も前の事,まだ私が自衛隊にいた頃


とある事件で命を落とした


奴らの所為で…


由佳は…


「一ノ瀬さん…星を眺めにきたのかしら?」


「ん…あぁシルヴィア,咲夜でいいよ」


「そう…何か悩み事があるなら聞くけれど…」


「んーん,中にいるあのバカ共をどうやって落ち着かせるか考えてただけだよ」


「まるで動物園にいる気分だったわ…」


寧ろ動物園というよりはサファリパークだ


それも来園者に危害を加えるタイプの


「それにしても…今日1日だけで色々な事があったわ…まだ落ち着かないもの」


「まぁそれがうちらの日常になってく,あんまり難しく考えない方がいいよ」


「そうね…一々考えてたら脳がパンクしちゃうわ」


確かに今日1日色々な事があった


任務中にシルヴィアと出会い


シルヴィアを拠点に連れてきて


荒川が芝刈り機で大暴れして


海賊を倒して…


1日中気の休まる時間がなかったなぁそういえば…


「隊長ー!一ノ瀬隊長ー!!ヘルプ!ヘルプミー!!」


「んぁ…あの声ホーキンスだな…はぁー…そろそろあいつら落ち着かせに行くか…」


「私も手伝うわよ,こういうのには慣れてるもの」


室内へと戻る


さっきよりも喧しい


喧しいのもそうなのだが食器の割れる音


壁が破壊される音


嫌な予感がする


「咲夜!てめぇどこ行ってやがった!?さっさとあのバカを止めy」


「イーヒッヒッヒッヒッヒッ!闘牛を止められるもんなら止めてみろぉ!」


頭にクロワッサンがぶっ刺さったカレンが食堂を大暴れしている


あれ?


ルイスは…?


「おーい…生きてるかー?……だめそうだな」


ふと横を見ると壁に頭がめり込んだルイスが倒れている


それだけじゃない


死屍累々だ


全裸で転がってる美香


ドーナツをハンドルの様に持ちながら奇声を上げる荒川


Vやルーシーはそこら辺に転がって気絶してる


エミリーやホーキンスは追いかけてくるカレンから必死に逃げている


あぁもうめちゃくちゃだ


「おいカレン,いい加減落ち着けよ…って危なっ!?」


「アヒャヒャヒャヒャ!」


あぁもうだめだ


完全に悪酔いしてる


こうなったカレンを止めるには麻酔銃が必要だ


「…私に任せて,さぁ来なさい,ホルスタイン」


「今度は新人が相手っすかぁ?私の愛を受け止めてみるっすよぉ!!」


まさに刹那の一瞬だった


突進してくるカレンを真正面から受け止めた


いや,違う


受け流したのだ


「合気道…?」


「ふんっ!!」


そのまま腕を掴み,見事な一本背負い


窓の外まで飛んでいって暫くすると海に落ちた音が聞こえてきた


いや…問題なのはそこではない


見てしまった


やはりあの時のは見間違えではなかった


「一丁あがり…ってどうしたの?咲夜」


「いや…見事な体術だったよ…うん,ところで1つ聞きたいんだが…」


「何かしら?」


「何でパンツ履いてないんだ?」


「……?爽快だから?」


あぁ…


まともだと思ってたけどやはり違った


何でどいつもこいつもまともな隊員がいないんだTEは…


ショタコン,更にはノーパン


まるで痴女だ


「まともー…なのは………私だけぇ…Zzz」


人の事を言える立場ではないがどうして奇人しか集まらないんだ本当に…


まぁでも深く考えると無限に時間が無駄になっていく


私は考えるのをやめた


ようこそシルヴィア


ようこそTE部隊へ


ここにまともな奴はいない


-Next war

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