-War 1- 戦争を終わらせる戦争屋 Ⅱ

【Phase2:角と翼の生えた奴】


「ほらお前ら起きろ,さっさと降りた降りた」


「やっと地面に足が付けた〜」


「ったく遅えよ…」


時刻は午前4:00


まだ日が昇るにはもう少しかかる


「ここが…」


「ここがうちらTE部隊の拠点だよ」


TE拠点のある島は元々は無人島だ


地図にも記されていない


いや…地図なんか一々書き換えてたらキリがない


だから最後に作られた地図の後に生まれた島だ


幸いな事にこの近海は鮫がうようよと生息している為民間人はまず近付かない


とは言えこの鮫が生息する様になったのもうちの隊員の所為なのだが…まぁ置いておこう


「おかえりなさい!皆さん!」


「ほいほい,ただいま〜」


「よぉアル,私が出した宿題やったんだろうな?」


「…あれ大学の入試試験レベルの問題だったよ…?」


「ばぁーか,やる気になれば何でも出来んだよ」


「僕にはVさんみたいに医療関係の知識無いんですから……」


「やっといて損はないだろ,私が死んだ後の後任は必要だろ?」


「縁起でもない事言わないでください…」


まだ朝早いというのにアルは律儀に帰りを待っていたらしい


アル・エリオット


TE隊員の中で1番若い


それもその筈だ


彼は13歳,所謂少年兵だ


こんな子供までもが銃を握らねばならない


それが現実だ


「それじゃとりあえずルイスのところに……シルヴィア?」


少し目を離した隙にシルヴィアの姿がない


あれ?どこに行った?


「可愛い!!ねぇ貴方も隊員なの!?よぉーしよしよしよし…」


「う…うわぁぁぁぁ!?///一ノ瀬さん!?この人誰ですか!?」


シルヴィアがアルを抱き上げてわしゃわしゃと髪を撫でている


何やってるんだこの女


「すぅぅぅぅぅ…やっぱり可愛い男の子の匂いはいいわ…」


「おい変態,頭ぶち抜かれたくなかったら離れろ」


「はぁー……とんだ奴を連れてきちゃったな…」


「やっぱりまともなのh」


「それはない」


まさかこいつショタコンだったのか


こりゃとんでもない変態を連れてきてしまった様だ


「よぉ咲夜,任務ご苦労,で…彼女が例の?」


「あー,そこでアルを吸ってVに銃口向けられてる金髪がシルヴィアだよ」


「ははっ,随分とまた癖のある奴を連れてきたな」


「連れてこいって言ったのルイスだろ…」


とりあえずアルとシルヴィアを引っ剥がし本来の目的に戻ろう


「俺はTrue Eyes Mercenary Company社長のルイス,君がシルヴィアだな?」


「はじめまして,シルヴィア・ガブリエラよ」


言動は普通だ


うん普通


だが視線がルイスに向いてない


Vの背後に隠れるアルをしっかりと捉えている


「ここじゃなんだ,一先ず中へ入ろう,その方が話しやすいだろう」


「Vー,とりあえず行くぞ,あとそうだ,ソフィー達に倉庫付近の草刈り頼むよ,最近あそこら辺の草が伸びてるから邪魔くさくてね」


「芝刈り機使ってもいい?」


「使える物は全部使ってくれ,ただし火炎放射器は無しだ」


「了解」


場所を移してルイスの…というより私達の執務室


「お疲れ様です一ノ瀬隊長」


「ありがと凛,こっちでは変なやついなかった?」


「モニターには何も映りませんでした,それにこんな辺境に好き好んでくるのは海賊くらいでは?」


「違いない,ちょっと話があるから外に行ってあいつらの手伝いしてくれないか?」


「了解です!」


これでこの場に残されたのは4人…いや


「Zzz……」


「……おいエミリー,またデスクの下で居眠りか?」


「Zzz……はっ!寝てません寝てません!防災訓練です!」


「はいはい…書類はー…まぁ出来てるからいっか,寝るなら外のハンモックか自室で寝てくれ,これから話し合いしなきゃいけないからさ」


「わかりました!寝てきます!」


「……なんていうかやっぱり癖が強いわね…」


「それでも優秀だよあの2人は,まぁあの2人に限った話じゃないんだけどね」


「まともなのは俺くらいだ」


「ルイスさぁ…荒川の真似やめなよ」


「てかさっさと本題入ったらどうだ?」


「それもそうだな」


今回シルヴィアを拠点へと連れてきた理由


それは私達も知らない


「シルヴィア,君が付けているそのネックレス…何かの破片だな?」


「これ…?えぇ…そうね,何かの破片の様なものよ」


「咲夜,V,見覚えあるだろ?」


「あぁ…確かに…」


「てめぇ…それをどこで見つけた!?」


「おいよせV,まずは話を聞いてからだ」


シルヴィアの表情が曇る


それもそうだろう


奴らに関わった奴は皆そういう顔をする


私達TE部隊が戦争を終わらせる為,そしてその目的から避けられない存在がいるのだから


「…私がまだパートナーと一緒に傭兵をしていた頃,とある晩に私は眠りに落ちていた,けど突然目が覚めたの,聞こえてきたのは銃声と何かが潰れる音,急いで部屋を出たらそこにあったのは私のパートナーだった肉片と血溜まり…」


「…………」


「その血溜まりの中に見つけたの,この破片…恐らく犯人のものだと思って今までこれを頼りに探しては見たけど何も得られなかった…ネックレスにしたのはあの時の事を忘れない為よ」


どうやらシルヴィアも私達と同じらしい


私は奴らの所為で恋人を


Vは故郷を


ルイスは仲間達を


皆失っている


「…俺達もそうだ,奴らに大切な物を奪われている,シルヴィア,君の悔しさが俺には痛いほど伝わってくる」


「奴ら…?」


「俺達は"角と翼の生えた奴"と呼称している,俺達が把握している中で人間でも獣人でもない,亜人の類の存在だ,そしてその力は強大,この世界中の戦争の裏には奴らがいる」


奴らは一国を滅ぼすくらい訳もない


全面的な戦争となれば私達に勝ち目はない


しかし何かの理由があるのか,奴らが直接国を滅ぼす事は稀だ


だが奴らの力はそれだけじゃない


奴らの言葉には一種の洗脳の様な能力があるらしい


それを各国の首脳,傭兵組織のトップに自分の言葉を信じ込ませて戦争を起こさせている


目的は不明


だが確実に私達…いや,この世界に生きる全ての敵である事に違いない


「そんな事が………」


「シルヴィア,君だけじゃない,俺達1人でなんとか出来る相手ではない,その為のTrue Eyes Mercenary Companyだ」


「…………」


「シルヴィア,君も奴らに運命を狂わされた被害者だ,俺達True Eyes Mercenary Companyへ力を貸してくれないか?」


「………少し考えさせて…」


「あぁ,暫くは拠点へ滞在してもいい,もし帰りたいなら言ってくれればヘリで送る」


「……えぇ…」


私自身も見逃していた


シルヴィアの付けていたネックレスの破片


あれは間違いなく角と翼の生えた奴の角の破片だ


人間がどうこう出来る相手じゃない


けれどシルヴィアのパートナー,恐らくその恋人は必死だったのだろう


恋人を守る為


愛の力が奴らへ一矢を報いたのだろう


今までは写真くらいしか有益な情報がなかった


だが奴らの一部となれば更なる情報が期待出来るとは思うがそれはシルヴィア次第だ


「咲夜,シルヴィアに拠点の案内と寮の一部屋を貸してやってくれ」


「あいよ」


シルヴィア自身も悩んでいるだろう


両親を殺した相手の事を知ったのだから


1人では決して立ち向かえない相手


それはつまり今まで以上の地獄へ進むという事だ


今ならまだ仮初の平和な世界へ戻る事が出来る


仮初でも平和な日常に戻る事が出来るんだ


無論それは隊員達がTEへ入る際に悩んだ事でもある


戦いをやめて平和で自由に暮らす中で過去の恐怖に食い殺されるか


その恐怖を飼い慣らすか


まるで呪いだ


奴らに関わった時点で既に平和からは遠い場所にいるのだから


「まっ,それじゃ大体の設備を紹介するから…」


「危ないです!一ノ瀬隊長!!!」


「ゑ?」


「アハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」


「あっぶねぇ!?誰だ荒川を芝刈り機に乗せたのは!?」


「ソフィーよ!今あっちで笑い転げてるわ!?」


「余計な事ばっかして…」


まずい


荒川を車輌に乗せるとすぐあれだ


荒川自身の過去のトラウマが原因だ


強烈なトラウマが蘇り途端に暴走し始める


よりにもよってその時の記憶は本人には残らない


だというのに車に乗ろうとするからタチが悪い


「…な?まともな奴じゃないだろ?」


「そうね……で…あれどうするの?」


「アタシに任せなぁ!」


爆走する芝刈り機の前にルーシーが立ち塞がる


「おぉぉぉぉぉりゃぁぁぁ!!!!」


爆走する芝刈り機を受け止め,勢いを利用してそのまま投げ飛ばす


頑丈な肉体と力が無ければ出来ない芸当だ


「ふぅ…一丁あがり」


「お疲れ様ですルーシー先輩」


「とりあえずソフィーは減給,はぁ…朝っぱらから何やってんだか…」


ヘリ内でもやかましかった奴らは拠点でもやかましい


寧ろ更に酷い


「…いつもこうなの?」


「あー…いや,今日は更に酷い」


ちょっとしたトラブルはあったがまぁ紹介くらいはしておこう


「まずここが武器庫,私らの装備やら…って特に説明はいらないか」


「ふーん…全てTire6社の製品ね」


「安いし何より品質がいい,今や流通してる武器の80%がTire6社ってのも信頼が置ける,それに元そこの社員も隊員にいるからね,おーいニーア」


「んー?はいはいお探しのものはー?」


「いや,ちょいと客人に見せて回っててな」


「…………」


「はじめまして,シルヴィア・ガブリエラよ」


「…………」


「ニーア?」


「好きです!!付き合ってください!!!」


「「!?」」


うちの隊員の中でも比較的にまともな筈のニーアがいきなりおかしくなってしまった


「あ,私ニーア・ベアードです!初めて見た時から好きです!」


「えっと………ごめんなさい?」


あーあ…ニーアがこの世の全てに絶望した顔をしている


まぁ当然と言えば当然か


若さ故だろうか,一目惚れってやつだろう


「ま…まぁ次に行こうか,この上がモニタールームとブリーフィングルーム,あとは私らのデスクが置いてあったりとか…んー……というか何か気になる場所ある?」


「そうね…ここら辺は普通の建物と特に変わらないだろうし…向こうの倉庫とか?」


「あいよ,案内するよ」


拠点から少し離れたところには大きな倉庫が2つ建設されている


片方は車輌ドッグ,もう片方は文字通り倉庫だ


「あー…また随分と散らかってるなぁ…」


「まるで獣に荒らされた後みたいね…」


「まぁ普段いらない物とかを投げ込んでる奴がいるからなー」


私物だってり普段使わない物だったり


そんな物が乱雑と置かれている


時たまここに置いた物が無くなったと大騒ぎしている奴もいるがそもそも大切な物なら自室に保管しておけと思う


ただ時折物が無くなるのは不思議だ


「こっちは……随分と凄いわね…」


「こっちはうちらが使う車輌の整備区画,ここら辺はルーシーが担当してるよ…ってまたあいつ車買ったな…」


戦車,装甲車,芝刈り機


様々な物が置いてあるがその一角にド派手な色をした車が一台


恐らくルーシー自身の車なんだろう


また拠点内でレースをしない様に注意を入れておかないといけないな


「あとはあそこのが私らの寮で………!?」


途端にけたたましい音で通信が入る


この音は嫌な予感がする


『こちらモニタールーム!レーダーに反応あり!船が1隻…あのシンボル……間違いないです,最近近海で暴れてた海賊の一味です!』


海賊


まさか本当にこんな辺境まで来るとは予想もしてなかった


「…船は撃沈出来そうか?」


『中々ハイテクな物を積んでまして…戦闘機やヘリでは近づけなさそうです…』


「つまりこっちで迎え撃つしかない…か」


「…私にいい考えがあるわ,一ノ瀬さん」


「…いくらなんでも無謀過ぎないか…?」


「奴らの船にさえ行ければやれるわ」


シルヴィアの言う作戦とは船に乗り込み単身で敵を全滅させる,というものだ


あまりにも危険過ぎる


「陸まで引きつけてこっちでなんとかすれば…」


「それだとこの拠点に被害が出る可能性がある…でも私なら陸に着く前に全員片付けられるわ」


「…分かった,でも1人では行かせられない,ニーア,聞こえる?」


『なるほど…デートって訳ね…!』


ニーアは刀を2本使う二刀流の近接兵だ


船の上では銃よりも近接戦の方が多いだろう


そしてシルヴィアもナイフ使いの近接がメインだ


私が2人をサポートすればこちらに上陸される前に倒せるだろう


「よし…こっちの射程内に入ったら援護を頼むぞ,ルイス,ソフィー」


「任せておいて」


「まぁ見せてもらおうか,シルヴィアの実力を」


「他は万が一に備えて戦闘配備,作戦開始」


水上バイクに乗り込み接近する船へと接近する


こちらに気がつくやすぐさま銃弾が飛んでくる


当たりはしない


訓練された兵ではないらしい


「グレネード!」


3人で一斉に船内へとグレネードを放り投げる


破壊が目的ではない


撹乱だ


「アンカー!」


腕に装着した射出式アンカーを発射,よし上手く船体に着弾した


ワイヤーを巻き上げ一気に甲板へと飛び乗る


敵が多い


だが


「海賊が随分と無用心だな」


「全く言えてるね」


甲板に武装した敵兵は少ない


武装した敵から優先的に銃を発砲


ニーアとシルヴィアは武器を取ろうとする敵への攻撃


「……!?」


いやなんだ


一瞬何か…


いや見間違えだろう


「くそっ!なんだこいつら!?」


「うるせぇさっさと撃て!撃てぇ!!」


「遅いっ…!」


速い


屋内では銃よりもナイフの方が有効とはよく聞くがそれ以上だ


銃を持ち引き金を引くよりもシルヴィアのナイフは速い


それだけじゃない


格闘技術も相当なものだった


何より容赦がない


普通なら人を殺すのを躊躇うのが普通だ


だが戦場では殺しを躊躇えば死ぬのは自分だ


「やっぱり…好きだ……」


「それじゃあ賭けでもしてみる?私よりも多く倒せたら付き合ってあげる」


「ほんと!?やる気でてきたー!」


理由はどうであれニーアもやる気だ


それにやっぱり動き方を見ても敵は素人だ


殲滅にも然程時間はかからなかった


「よいしょっと……これで28人目…」


「私は30人,一歩及ばなかったみたいね,ニーア」


「そんなぁ……」


「さて…さっきのが最後の奴だったみたいだな,長居する理由もないし戻るか」


殲滅を終え拠点へと帰る途中,頭上をRPGの弾頭が飛んでいった


後ろから聞こえる爆音


恐らくカレンが船を破壊したのだろう


シルヴィアはそれに驚く素振りも見せなかった


既に順応しているみたいだ,TE部隊に


「おかえり,咲夜,援護は必要なかったみたいね」


「あの2人があらかた斬り捨ててたよ」


「へぇ〜…で,ニーアはなんでそんなにしょんぼりしてるの?」


「聞かないでぇ…」


何はともあれ作戦は完了


変に被害が出なくてよかった


海洋汚染に関しては…うん,目を瞑ろう


「見させてもらったよ,シルヴィア」


「えぇ,そしてさっきのが私の返答よ,私も戦争を終わらせる手助けをしたい」


「そう言ってもらえて助かる,現時刻を持ってシルヴィア・ガブリエラを我がTrue Eyes Mercenary Companyの正式に隊員として認める」


「またいっそう賑やかになるね」


シルヴィアはTE部隊へと入る事を決心したみたいだ


あれほどの戦闘技術ならTE部隊でもやっていけるだろう


寧ろ心強い味方だ


「おめでとうシルヴィア!って事は〜?」


「いつもの…か」


「いつもの?」


「うちの隊の決まり事っていうかなんていうか…まぁ新人歓迎会みたいなもんだよ」


「よしお前ら街に行って食糧の調達だ,経費で落とすから気にせず買ってきてくれ」


「ひっさびさに高級料理が食える〜」


「私酒と肉ー」


「デザートも忘れないで!」


「干し肉でも振る舞うか」


「やめろV」


「私はパスタが食べたいな〜」


普段から食事が貧しい訳ではない


寧ろ普通よりは美味い飯が食えている


だが傭兵はいつ死んでもおかしくない


だから新隊員が入った際には豪勢な料理で迎え入れるのが決まりだ


この日だけは予算を気にせず各々好きな物を好きなだけ食べれる


さて,どうせ買い出しに行くのは私だろうから今のうちに食べたい物でも決めておこう

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