幼馴染み試験、はじめます!【カクヨムコン10短編】

尾岡れき@猫部

幼馴染み試験、はじめます!



『それでは、これにてお友達試験は終了! お待ちかね、幼馴染み試験を開始します!』

 

 体育館ステージは、拍手喝采で盛り上がった。

 学園祭、恒例。


 お友達試験。仲が良い親友ズットモがどこまでお互いを知っているか。その点数によって【他人】【知人】【友達】【親友】【もしかして恋人?】という格付けがされ、それに見合った商品が渡されるのだ。なお【他人認定】されたコンビの商品は、タワシ。良いと思うぞ、タワシ。掃除が捗る。



『それではご紹介しましょう。まずは生徒会長にして、学園随一の可憐な一輪。梶原可憐かじわらかれん様!』


 ステージに上がれば、拍手喝采。そりゃ、こいつの人気者っぷりときたら、そうなるよね。


『そして顔面偏差値、学内最下位。モブ中のモブ。可憐様と幼馴染みというだけで、認知されている、脇草京!」


 パラパラとした拍手をありがとう。可憐と一緒となれば、そんな反応にもなるよな。そして、MCがひどすぎる。こいつ、俺の悪友だけれど。なお、名前はまだない。


「あるよ! でも、時間がないから紹介は割愛。それじゃ、幼馴染み試験いきますよ! コールお願いします」


「仲良しの」

「幼馴染み!」

「本当の姿」

「知ってるつもり?」

「試そう、その親愛度」

「「「「「「「「ザ、幼馴染み試験」」」」」」


 創立130年、うちの伝統。その一つ。うん、こんな伝統はなくしてしまったら良いと思うのだ。





■■■




『ルールは簡単。質問に対して、スケッチブックに書いてもらいます。質問前に声を出したら、その問題は不正解とみなします。解答後は、こちらもインタビューしますので、声出しOKです。会場の皆さんはスクリーンをご注目ください。カメラで、スケッチブックを映しますからね。それでは早速、いきましょう! 第一問です。お互いの好きな食べ物を言ってください』



 ――可憐が時々作ってくれる、ケーキ。

 ――京ちゃんが毎日、作ってくれるお弁当。



『……京の弁当、確かに美味いんだよなぁ。でも、女子力を磨かなくても良くない?』


 次から、お前には分けてやらん。そう誓った、俺だった。


『では続けて第2問です。私だけが知っている幼馴染みを教えてください』



 ――ズボラ。生活力なし。

 ――背中と左鼠蹊部に、ホクロがあります。


 会場の空気が一瞬で凍りついた。

 有能な諸氏に語るまでもないが、鼠蹊部とは、太腿と腹部がつながる部分を指す。


「「「「「ちょっと、待てぇぇぇぇぇっ!」」」」」


 会場と俺が一体化した瞬間だった。我が家と可憐、それぞれの両親も見ているのに、これはちょっと酷い。


『見せたの? お前、露出狂? 変態なの?』


 MC濱。お前は黙れ。


「違う、違うよ。だって幼馴染みだもん。幼いころから一緒にいるんだよ。お風呂ぐらい、一緒に入るよ。最近は京ちゃん、恥ずかしがって、なかなか入ってくれないの。でも、2週間は長すぎるよね?」


「「「「「「「短いよっ! というか、普通は入らないよ!」」」」」」


 会場から、俺に賛意の声。だから言っているじゃん、幼馴染みだからって、一緒の風呂はおかしいって! カクヨムのラブコメを教科書にしちゃダメだから。あれ、絶対にお手本にしちゃいけないヤツ!


『おほん』


 MCの咳払い。うん、話題転換のテンプレート。今はそれに救われた。


『それは、水着でってことでしょうか?』


 その話題、掘り下げなくて良いから!


「お風呂だよ? 水着なワケないでしょ。濱君、変なの」

『では湯衣……でしょうか?』

「今さら、隠すものでもないしね」


「「「「「「脇草っ!! お前ってヤツは!」」」」」」


 生徒会長可憐を論破できないからって、俺に八つ当たりはやめてくれ。


『話題を変えよう』


 そうしてくれ。是非、そうしてくれ。


『梶原さん。幼馴染みとして聞きます。昔に比べて、アイツは大きくなっていましたか?』

「うん。すごく、大きくなってる」


 やめろろろろぉぉぉっ。

 どっちの意味か分からないけれど、このタイミングでそういう質問は本当に止めて!


『では、最後の質問です』


 それ! そういうの。話題転換は、そういうのだから! 深掘りして傷をえぐるの、マジ止めて!


『幼馴染みとして、少なからず思っていることがあると思います。お互いにメッセージを伝え合ってください』





 ――もう少し、社会常識をもとうな。お前の彼氏になるヤツが本当に可哀想だから。

 ――出産を前提にお付き合いをお願いします!




「「「「「「「「ちょっと、待てぇぇぇぇぇっ!」」」」」」


 だから、両家の父母が来てるの!


 おばさん、腹を抱えて笑っている場合じゃない!

 おじさん、恥ずかしいからって逃げないで!


 俺には無理だ!

 こいつとは年齢イコールの付き合いだけれど。幼馴染み? ムリムリ、全然、馴染まない!






■■■





『これより、審査の結果を発表します。学園祭ステージ発表で、今年最大の話題をかっ攫った、梶原・脇草ペアはどうなるのか。もう、皆さん、予想がついていると思いいます。発表を前に、今のお気持ちはいかがですか、会長のお母さん?』


「もうね、可憐は京ちゃんじゃないと無理だと思うの。パパが可憐って名前をつけた時にイヤな予感がしたんだけれど。期待を裏切る方向で、名は体を表さない娘ですが、京ちゃん……よろしくね!」


 がしっと、手を握られ、有無を言わさない気迫に、俺は言葉にならない。


『脇草のお母さんはいかがですか?』

「昔から、可憐ちゃんは積極的な子だったから。子どもは五人欲しいとか。浮気をしたら切り刻むゴッコをしていた保育園時代を思い出して、懐かしくなりました」


 なに、それ?

 それ、本当に俺達? フィクションじゃなくて?





「それでは、幼馴染み試験の結果発表です。二人は……ベスト幼馴染み賞が決定しました! 校長先生からは、婚姻届が贈られます。が、その前に、ベスト幼馴染みに向けて、皆さんでコールをお願いします!」


 いや、いらねぇ。

 本当に――。

 可憐、ここで嬉しそうに笑わなくて良いから。イベントで成立するカップルが長続きするワケないじゃん。落ち着いて、可憐! 気を確か……に?



 ――京ちゃん。ずっと好きだったこの気持ち、馴染むワケないよ。イベントで浮かれるような、中途半端な感情キモチじゃないからね? 私の京ちゃんだって、みんなに見せつけたいだけだから。だから、京ちゃん。余所見をしたら、絶対にダメだからね?





「「「「「「「末永く、お幸せに!」」」」」」



 会場の声を聞きながら。

 言葉を返すより早く。

 可憐に引き寄せられ。

 それから、唇を塞がれた。








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幼馴染み試験、結果発表



●シンクロニティー項目 B判定

(一方的な梶原さんの愛情が重たいですね)


●純愛項目 A判定。

(幼少期からの一途な想いに、誰がケチをつけられるでしょうか)


●相思相愛項目 B判定

(そのうち染まります。いえ、梶原さんのお相手は脇草君以外、あり得ない。他の人じゃ無理です。無理ゲーです)


●ヤンデレ項目 A+判定

(梶原さんは遠くから見て愛でましょう。彼女を愛せるのは脇草君だけ。女生徒は間違っても、脇草君に片想いをしないように。理由はわかりますよね?)




総合評価 A判定

会場票、生徒会執行部票、教員票、PTA票を集計しての判定です。学園の平和は、これでようやく保たれました。皆さん、本当にお疲れ様でした。

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