第2話【祈りの泉】気分:最悪
光を浴び次に目を開けた時には目の前は泉だった。森の中で、澄んだ泉の中央にはさっき会った女神様をモチーフにした像が立っていた。
「なんというか・・・セーブポイントみたいだなぁ・・・」
違和感。思わず声に出てしまった。
「あ。あぁ〜・・・」
違和感どころじゃなかった。声が違う。
「15歳になるって言ったってそもそも・・・!!!」
無い。無い!急いで泉に駆け寄る。水面を見る。
「・・・!!!」
変わってる。性別が。
「いやその話はしてなかったじゃん!!」
その時ガサガサっと茂みの方から音をたてた。急いで音の方向を見るもすでに青い球体が姿を表していた。
「スライム?」
そうかここは異世界なのか。あの女神、ファンタジーな世界観ならそう言っておくれよ。
さて、このスライムはどっちだろうか。ゲームでいう雑魚敵ポジションなのか、たまにある実はとても強い生物なのか。
「いや、できれば後者がいいのか・・・」
スライムはこちらを警戒しているようだ。そんなこと知るか無防備で近づいてやる。こっちは一回死んでるんだ、もう一回くらい死んであの女神に転生の意味がないことを見せつけてやる。
俺は恐れずスライムに近いた。それはもう目の前に立ちはだかってやった。
こいつが弱いスライムならすぐ逃げているだろう。ここまで近いて動かないのなら人間なんてイチコロなんだろう。いや、にしても動かないぞこいつ。
もしかしてこの世界のスライムは友好的なんだろうか。
はぁ。すぐ死ねると思ったのに期待しただけ損だ。そうだ、泉の前で餓死しよう。一歩も動かない姿勢を見せて女神に後悔させよう。
そう思い泉の前に戻ろうとした瞬間、時が止まった。
『なんだこれ、俺がいるぞ』
視界に映るは女の子になった自分の全身、その後ろに形の変わったスライム。
『はいはーい!女神様でーす!今回あなたに授けた能力の説明をしまーす!』
『女神、様!?どこから喋ってるんですか』
『ちーなーみーに、この音声は録音されたものになってまーす。質問等は一切受け付けませーん。』
『あぁまただ、勝手に話を進められるやつだ』
『現在この空間はあなたの能力によって見た通り時間が停止しています。今はあなたの身に危険が及んだ場合に発動します』
確かにスライムが先ほどのような丸い姿ではなく大きな口を開けて俺を食べようとしているように見える。
『この危機的状況であなたの行動による死亡率を見ることができます。例えば、今あなたが何もしないを選択すると視界は赤くなり死亡率の高さを表します』
確かに何もしないと心の中で思うと視界が赤くなるそれもかなり真っ赤。
『視界は緑から鮮やかな赤になるにつれ死亡率の高さを表しています。さぁ勇者よ!この能力を駆使し!魔王を倒すのです!』
『まって!魔王?また聞いてない情報が出たんだけど!』
『本日の営業は終了しました。またのご利用をお待ちしております。ぷつん。つーつーつー』
『電話を切る演出何!?』
しまった。また知らない情報が出てきやがった。あの女神本当に説明が雑だな。
とはいえ、今この状況はすごくいいのでは?死亡率がわかる能力なんて本当についている。これで動かなければ死ねるってことだろ?いいじゃないか転生を無駄にできるすばらしい能力じゃないか。
『ものは試しだ。動こうとするとどうなる?』
視界が一気に赤から緑へ。なんだそこまで危険なモンスターってわけじゃないのか
試しに様々な移動方法を試してみるものの全て視界は緑、あまり動きが速いわけでもないらしい。
『なるほど・・・さっき動かなかったのは隙を見せるまで攻撃する余裕がなかったからか。じゃあお望み通り飲まれるとしますか』
行動を決めた途端に時が動き出した。なるほど便利だ。だがもう理解する必要はないか。このまま食べられてこの世界を終わるとしよう。
「さようなら異世界。短い時間だったけスライムに出会えるのは悪くなかったよ」
振り返れば大きな口をひらいたスライムの姿。なるほど丸呑みする感じか。
以外にも恐怖は感じなかった。いや前世は飛び降りしてるから妥当か。飲み込まれれば冷たい感覚に全身が覆われた。外の景色が透けて見える。これは消化待ちだろうか。ひんやりとしたベッドで優雅に寛げばゲームオーバーといった所だろうか。
「いやー悪くない死に方かもしれない。消化が実はとても痛いとかでなければ助かるのだけど」
そう思っていたらなんだか眠気がやってきた。麻酔のような機能があるかな。それなら痛みはないだろう。さぁゆっくり眠るとするか。
「だめーーーーーーーー!!!!!!!」
その叫び声と共に視界が綺麗に晴れた。
「大丈夫ー!?」
駆け寄ってくる美少女が1人、手にナイフを持っている。あぁこの子が助けてくれたんだな。
「だ、大丈夫です・・・残念ながら」
「残念ながら!?どういこと!?」
「いや、スライムに消化されてそのまま居なくなってしまおうかと・・・」
「なんでそんなことするの!?」
転生のことはさすが言っちゃダメだよなこういう場合。
「えっと、世界に絶望して」
「あ、あーそういうことね!」
なんでこれで話が繋がるんだ・・・?
「もしかして15歳?」
「え、あ、はい」
中身はアラサーだけども。
「やっぱそうだよね!大丈夫!不安だと思うけど絶望するほどじゃないから!ね!頑張っていこう!」
何がどう大丈夫なんだろうか。俺は死にたいだけだから放っておいてくれて構わないのだが。
「私はナズナ!16歳!よろしくね!あなたは?」
「あ・・・」
考えてなかった・・・人と会うなんて思ってなかったから。
「アヤ・・・」
「アヤ!よろしく!」
しまった。あ、から始まる名前で適当に答えてしまった。
「まずは冒険者協会に案内するね!ここからすぐ近くだから大丈夫!」
何が大丈夫なんだろうか。なんで冒険者協会なんだろうか。これはもしかして怪しい勧誘?
「私たちみたいに15歳で家を出された子達がしっかりと生きていけるようにしてくれるのが冒険者協会なんだよ!だから歳の近い子も多いし先輩に教えて貰えばモンスターもすぐ倒せるようになるよ!」
「いや、あの。結構です」
「え!?」
「おれ、わ、私は死にたくてここに居て」
「なんで?」
「なんでって・・・」
やめてくれその言葉は俺に効きすぎる。何度も聞かれたさ、何度も励まされたさ。
「今落ち込んでるだけだって!」
「やめろ!」
「あっ、ごめん。」
「あ、いや。その」
思わず大きな声が出てしまった。ここでは15歳だ。その倍近く歳を重ねて生まれた意味なんて考えに考えたさ。
「おれ・・・いや、私は」
何を話したって15歳の思春期として扱われてしまう。一緒だ、やめてくれ思い出したくない。誰だって考えるだろう。生きる意味なんて。なんのために生まれて何をして生きるのか。心に深く刺さったまま抜けないんだよそういう言葉。ずっと考えてきてたんだよ。ずっと答えが見つからないままなんだよ。悩んで悩んで悩んで悩み抜いてそれでも何も出てこない。辛い気持ちに埋め尽くされる一方な人生をこんな16の小娘に励まされる気持ちになってみろ。・・・なんてこの子に言う理由なんてただの八つ当たりだ。言う必要なんてない。言って解決するものじゃない。
「その・・・鬱なんだ・・・」
病名なんてただの盾だ。このやるせない気持ちを槍に変えないための盾に変える耐えの言葉だ。ただの総称だ。病気というよりどころだと自分は思う。人によっては言い訳だと言われてしまうような脆い名前だ。
「ウツ?って何?」
そうか、この歳の女の子に通じない場合もあるのか。
「その、病気の名前だよ」
「ビョーキ?何それ」
「あーーーーー・・・・・・」
何?そのパターン。知らない。
「あ!わかった!呪いの一種!死にたくなっちゃう呪い!」
「呪い・・・?」
「そうだよ!それなら早く言ってよ!呪いに詳しい先輩も冒険者協会にいるから!さぁ、いこ?」
なんだろう。冒険者協会って言葉が凄く便利かつ宗教的な言葉に聞こえてきた。
こうして俺は言われるがまま冒険者協会とやらに連れていかれることになった。
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