うつ病転生〜えっメンタルこのままですか?〜

@chidimiyaiteta

第1話 【とある屋上】気分:最悪

夜風を気持ちいいと思えたのはいつぶりだろうか。学生時代に1人深夜にコンビニに行った時だろうか。確か今と変わらないくらいの時間帯だったかな。行きは怯え帰りは達成感で満たされていた。あの頃はまだなにも考えていなかったな。いや、入社したての頃の帰宅時間の風は気持ちよかったかもしれない。あの頃はまだ希望に満ちていた。今日この時間だけは僕も希望がある。この一歩を踏み出す勇気が僕の希望だ。・・・はぁ。

夜景も綺麗だな。こんな街を一望できるスポットがあったなんて知らなかった。空も今までこんなまじまじと見たこともなかったな。

なんて綺麗な世界だ。さぁ・・・。

「さぁ!一歩!そうだ俺!行け!行くんだ!」

いつも夢見てたじゃないかこの景色を、この時を。さぁ!飛べ!

「よし、いくぞ。・・・父さん母さん会社の人その他あと掃除する人ごめんなさい!」

人生で初めての風を浴びている。

今まさに僕は成し遂げた。

あぁ今まで辛かった。

これでもう終わり。

いや痛!即死なんじゃないの!?痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛・・・くない。

そうかようやく死んだんだ。これで全て解放され・・・あれ?痛みは無くなったがこんな意識はまだ残るの?まさかこれから地獄行きか?死後の世界は存在したのか?

いや,もういい。僕は死んだ。自殺成功。これから先が地獄だろうが関係ない、もう何もしない。

・・・何か聞こえてくる。お迎えか?それとも目撃者の声か?わからない,僕は死んだんだ。目も開けられないよ。

「・・・め・・・い」

なんだ?誰が喋ってる?

「目覚め・・・よ」

「もういい放っておいてくれ」

「だから目覚めなさいって言ってんのよ!」

「うぶぁ!」

腹部に鈍痛、目が開く。あれ?今俺声出てたよな?視界は暗いぞ?死後の世界───

「とっとと起きろアホ!」

「うべぇ!」

再び鈍痛。起き上がる。

視界にようやく映る・・・女性?いやそんな言葉で収めていい話じゃない。まるで女神のような・・・

「はい、見えてるし聞こえてるね。質問はあとでまとめてね。今世はお疲れ様でした。私は女神です。あなたの死後対応で参りました。まずは書類が間違ってないか名前生年月日経歴等の確認をしていきます」

あぁ、俺は本当に死んだんだ。よかった。これでもう辛い人生とは。

「聞いてる?名前とかこれであってる?」

「あ、あぁはいあってます」

「じゃあ次ね、これからの転生先なんだけど」

「蚊がいいです。すぐ死ねる奴」

「何言ってんの?このまま転生よ」

「え?」

「転生先の世界の説明をするわね」

・・・あーこれ見たことある。異世界転生ってやつか。

「いや普通に嫌なんですけど」

「あなたに拒否権はありません。あなたみたいな惨めで青春コンプレックスのある独身アラサーさんは可哀想なので別世界で新たな人生を捧げてあげる決まりなんです」

「流石に言い過ぎでは?」

「実際そうじゃない。まともに好きな人も作らずにぼっちでト」

「あぁもういいです私は青春コンプレックスです殺してください」

「・・・惨め」

「そうですだから自殺を試みたんです話を続けてください」

「試みた、じゃなくて実際にしてるじゃない。いいわ、続けます。転生先の世界ではあなたに一つ能力を捧げる決まりとなっています。今後の人生に関わる大事なものなのでこの中から吟味して選んでください」

女神様は僕に能力の詳細が書かれているであろうカードの束を渡してきた。本当に僕に拒否権は無いらしい。

「あ、じゃあもうこの一番上のやつでいいです」

「いや、ちゃんと見てください」

「正直なんでもいいんで」

「ダメです」

「じゃあ3枚めのカードのやつで」

「あのね!私は善意で言ってるの!」

「じゃあおすすめで」

「それで後からクレーム入れられたらたまったもんじゃないわよ!」

「えぇ・・・。じゃあクレーム言わないんで適当にこれで」

俺はカードを適当に引いて女神様に渡した。別に新しい人生に俺は関係ないし。

「えぇほんと!?ほんとに何も言わないわね!?」

「はい。何も言わないですどうせ知らない人生ですし」

「何言ってるのよ。このまま転生するわよ?」

「は?」

「あーでも可哀想だから年齢は15くらいにしておくわね」

「待て待て待てそれは聞いてない!」

「はーいもうクレーム言わないもんねじゃあ飛ばしまーす!さぁ、勇者よ!新たな世界で活躍して見せなさい!」

「勇者!?」

「ああとついでに新しい青春もね、ぷぷ」

「待て待て待て待て聞いてない情報が多すぎr」



こうして俺は新たな世界に降り立った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る