かわいいあなたはユキちゃん

@ion7259

第1話 プロローグ

わたしの刃に刺されてこの刃をその身で止めてちょうだい。ああ。できることならその身が丈夫でありますように。この刃で死なない誰かが、この世にいるだろうか。そうでなければ、わたしは永久に一人ぼっち。


あなたは、そうしてそのようなことを知っているのにわたしに冷たいの?あなたに与えられているすべてを、今度はあなたがわたしに与えてちょうだい。それが、あなたの務め。


許さない。絶対に許さない。あなたは、この世のルールを破った。誰が知り得なくとも、どう証明のしようがなくとも、わたしがこの目でしっかりと見た。あなたが、わたしにしたことは、わたしのこの心にしっかりと刻まれた。逃がさない。逃げられないよ。だって、許さないから。絶対に。誰があなたを肯定しようとも。わたしが許さなければ、あなたには自由がない。この心があなたに壊された以上、あなたにその未来を受け取る資格がない。どうして、わたしの為にすべてを失う覚悟が持てなかったのか。どんな綺麗ごとを述べようとも、優しい顔で誰かに微笑もうとも、あなたは、結局人一人のいのちさえ大事にできないじゃない。限界まで、守ってほしかった。いいえ、限界など見せずにそこを黙ってわたしのために突破してほしかった。わたしの踏み台になってほしかった。「あの人」がわたしにしたように、わたしの踏み台になってほしかった。その身で血しぶきをあげてほしかった。そうして、わたしのいのちはこんなにも大切で必要不可欠なものだと、そう感じさせてほしかった。あなたはその務めを知っている顔をしていから、わかっているの。あなたも、「あの人」と同じ罪があるでしょう。だから逃がさないの。あなたじゃなきゃだめなの。どうして、もう少しだけでもわたしの事を信じてほしかったのに。「その可能性」まで、一緒に歩みを進めてほしかった。本当はそこまで知っていたでしょう。できたでしょう。理解ができる人でしょう。小さな約束。言葉を交わさない、目と目だけでわたしたちがした約束を、果たしてくれなかったから。わたしは、もう、ここで今も立ち尽くすのみ。



かなは、クリスマスがくるのがこわかった。おかあさまも、おとうさまも、「子供には、人形が必要だ」とおもいこんでいて、イブには人形を見に行きましょう、とつよく言われているからだった。

しんせきのひとたちにでもすすめられたのだろうか。「わたしは、人形はいらない」といってもそのおもいはしんけんにはきいてもらえなかった。人形は、ずっと表情がかわらないから。きっと、なにかおそろしいことがあってかおがそのときのままかたまっちゃったんだ。このせかいには、そんなおそろしいことがある。そんなことをしょうめいするかのように、わからないことをゆるさないかのように、こおってしまったようなかおで人形たちは、このせかいにそんざいする。かなの、まだおとなになっていないよわい、つたえるほうほうを、もたないこころでは、その子たちに、ただしいことができない。やめて。むりなの。しっぱいするからやめて。その子たちは、もうげんかいの、さいごにいる子たちだから。


ああ。この手にその刃をもたせてぐるぐるまきにしないで。このさきもずっと、わたしのちからでは、それをほどくことができない。

どうか、わたしのほんとうが、それだけなんて思わないでほしいの。たくさんあった出来事も、語れないくらいによわいの。むしろ、りかいしてくれたじてんで、すべてがきえてなくなりそうなの。とけずにのこったものだけで、わかったなんてどうかいわないで。それを、かってにもって行かないで。わたしのしょうめいを、めちゃくちゃにしないで。


あなたの証明が、その刃物だけなんてことは、絶対にないから。今までどれだけかの年数を生きてきたでしょう。その間にきっと多くの証明がある。貴方の努力も苦労も記録されている。(あなたがたとえどんなに孤独に陥ろうとも。誰にも気づかれないと苦悩しようとも。悪い人間たちが、事実を書き換え、消し、盗もうとしたとしても)

それらが、なくなるなんて、許せないと思うの。


手作りのワンピースを着て。

わたし、わかっているからね。これが、どれほどのことなのか。大丈夫?わたしのために作ってくれて、ありがとう。大事にするからね。わすれないからね。

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