社会人になってからのバイト

リラックス夢土

第1話 社会人になってからのバイト

「あのさあ、今度の日曜日にバイトしてみない?」


「バイトですか?」


 俺にバイトの話を持ってきたのは職場の先輩だった。

 俺は高校を卒業して就職した社会人一年生。


 日曜日は仕事が休みだから本当は自宅でゆっくり過ごしたい。

 しかし社会人一年生の俺が先輩の誘いを断ることはできない。


「そう。バイト代はきちんと払うし当日は俺がメインで担当するから君はそこにいるだけでいいからさ」


 その場にいるだけでいくらかのお金を貰えるなら給料の安い俺にもおいしい話だ。


「分かりました」


「じゃあ、当日の会場は〇×大学だからそこまで来てね」


 先輩は俺にバイトの内容が書いた紙を渡して行ってしまった。





 日曜日のバイト当日。

 俺は私服で〇×大学へと向かう。


 〇×大学の校門の前では高校生の制服を着た者や大学生らしき人々が校門が開くのを待っているようだ。


 その校門の前で大声で人々に声をかけてチラシを配っている大人たちがいる。

 そしてそのチラシを配っていた大人が俺にもチラシを渡してきた。


 チラシには「△△専門学校。公務員コース生徒募集」と書いてある。


「君。今日の公務員試験に不合格になっても諦めちゃいけないよ。その時はここの専門学校に来てね!」


 俺はその公務員の専門学校のチラシをくれた人物に静かに言った。


「大丈夫です。俺がここに来たのは受験生としてではなく「試験官」としてですから」


「は? え? し、試験官?」


 そう俺の今日のバイトは公務員試験の試験に立ち会う試験官なのだ。

 俺は一年前に行われたこの公務員試験に合格し公務員として働いている。

 たとえ私服姿が高校生に見えようとも立派な公務員だ。


 鳩が豆鉄砲を食ったような専門学校の関係者をその場に残し俺は身分証を見せて受験生より先に試験会場に入る。


 そして公務員の試験が始まる。

 試験に関する注意事項などは約束通り先輩がやってくれたので俺の仕事は受験生が不正をしないかとか物を落とした受験生の物を拾ったりする役目。


 試験が始まればみんなが問題に集中するので静かにそれを見守る。

 ほとんどが私服の者で大学生が多いと分かるが現役高校生は高校の制服を着てきたりするのでよく目立つ。


 自分が高卒で公務員に合格したのでなんとなく制服を着た高校生に対して「頑張れ」と応援したくなる。

 もしかしたら一年後には君が「試験官」になるかもだよと心の中で呟きながら制服を着た受験生の席の横を「試験官」として通り過ぎた。

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