××小学校に関連する『黒いポスト』事件の顛末

ジャック(JTW)

第1話 都市伝説は本当にあったんだ!

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 辺鄙な郊外にある、有り触れた小学校のひとつ。 

 ××小学校では、まことしやかに囁かれている噂がある。

 トイレの花子さん、口裂け女、座敷わらし、学校の怪談とも七不思議とも呼ばれるような曖昧な噂話。その中に、××小学校の地域だけで囁かれる、『』というものがあった。

 真っ黒いポストの噂。

 そのポストは、学校のテスト用紙を買い取ってくれるらしい。


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「うわ……本当にあった……まじじゃん……!」


 小学二年生のユウタは、駄菓子屋の前に鎮座する不気味な黒いポストを前にしてツバを飲み込んだ。

 新聞の切り抜きと思しきフォントもばらばらの文字で、その黒いポストにはこんな文字が刻まれていた。


 ――『テ【ス】(ト)〈買い〉〚取り〛〼』


「ほ……本当に買い取ってくれるんだろうな……?」


 不気味な雰囲気を感じながらも、ユウタは、恐る恐る社会のテストを投函する。学校で急に出された小テストで、百点満点中七点しか取れなかった。成績に即座に影響するものではないとは言え、こんな内容を親に見られたら叱られることは必然だった。始末に困っていたユウタは、渡りに船とばかりに『黒いポスト』を利用してみることにした。


 カタンという音とともに、テストが黒いポストに飲み込まれていく。それは、まるで怪物が餌を捕食しているように感じられて、ゾワゾワする雰囲気があった。ユウタがポストに投函してすぐ、黒いポストから、ガサガサした電子音声が流れ出す。


『情報確認中、シバラク……オ待チ……クダサイ……解析中……』


 テスト買取ポストの前面に配置されたインターフォンのような形をした小型モニターに、Loading画面のようなパーセンテージが表示される。5%、10%、15%と、少しずつ読み込みが進んでいく。ユウタは、思わずツッコんだ。

 

「……ええ……。意外と、ハイテクなの笑うんだけど……」


 数分後に、『買イ取リ処理ガ完了シマシタ』という電子音声とともに1000円札が出てきた。驚くくらいピカピカの新札だった。たった、小テスト一枚を投函しただけで、大金が手に入ってしまった。ユウタは、背徳感を感じながらにやりと笑った。


(……もしかして、これって、何入れてもお金もらえたり……?)


 ユウタは、試しに学校のいらないプリントも投函してみた。学校が発行している行事予定が書かれたプリントは、黒いポストに飲み込まれていった。Loading画面が表示された後に、『情報確認中、シバラク……オ待チ……クダサイ……解析中……』と音声が流れる。そして、しばらく後に、千円札がまた出てきた。


(え……これ……。テストじゃなくても買い取ってもらえるなら、これ、ものすげえやつじゃん! 明日、みんなに教えてやんなきゃ!)


 ユウタは、ランドセルをひっくり返して、ありとあらゆるプリントをポストに投函していった。いろいろ検証してみた結果、白紙ではだめで、何か情報が記載されているものならお金がもらえた。ユウタは、あっという間に大金持ちになってしまった。


(へへ……これだけあれば、カード買って。ゲームに課金だってできるし。なんなら、もうちょっと貯めたらゲーム機本体だって!)


 ユウタは集めたお札をニヤニヤしながら眺め、浮かれた足取りで帰り道を歩いた。ランドセルの中に入っていたプリントは、ほとんど空になっていた。すっかり軽くなったランドセルを背負って、ユウタはウキウキで歩いて帰った。


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「――だぁから、本当にあったんだって! 黒いポスト! ほら、見ろよ、証拠のお金!」

  

 ユウタは『黒いポスト』が本当にあったことをクラスメイトに知らせた。千円札を扇のように見せびらかせば、あっという間にクラスメイトの注目を集められた。ノリノリで黒いポストの話に乗っかってくるお調子者もいれば、あきれた顔をする者もいた。学級委員長のヨシノリは、眼鏡を持ち上げてため息をついた。


「あのね、ユウタ。注目を集めたいからって、そんなしょうもない嘘をついて……。友達なくすよ?」

「う、嘘じゃねーって! ほんとだよ! 証拠見せてやるから、放課後ついてこいよ!」

「はあ……。いいけど、嘘だったらどうするの?」

「裸でグラウンド10週してやる!」

「そんなバカなことしなくていいから……。教壇の前で一発芸でいいよ」

「おうよ、やったらぁ! ほんとだったらお前がやれよな、ヨシノリ!」

「いいよ。本当にそんなものがあるならね」


 ユウタとヨシノリはバチバチと視線を交わす。男と男の負けられない勝負の幕が上がったのだ。


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「……ないじゃないか、黒いポストなんて」


 先日、ユウタが黒いポストを見かけた駄菓子屋の前に、意気揚々とヨシノリを連れてきたのだが、その場所には影も形もなかった。ユウタは、周辺を捜索したり、駄菓子屋のおばあちゃんに尋ねてみたりしたが、本当にどこにもなかった。ヨシノリは、息を吐いて肩をすくめた。


「賭けは僕の勝ちだね。ユウタの一発芸、楽しみにしてるから」

「いやっ、ここにあったんだって! 絶対に! ほら、スマホで撮った写真もあるし!」


 ヨシノリは、ユウタが撮影した画像を見る。そこにはたしかに黒いポストが写っていたが、それでもヨシノリの猜疑心は解けなかった。

 

「……あのね、イマドキ、フォトショップとかで簡単に加工できるんだから、画像なんて何の証拠にもならないよ」 

「なるっての! おれ、フォトショップとかやり方知らねえし!」

「……それも何の証拠もないよ?」


 ヨシノリは、挑発的な笑みを浮かべてユウタを見る。痛くもない腹を探られてカチンと来たユウタは、むきになって大声で叫んだ。

 

「ショーコショーコってうるせーな! そんなん言うなら、探し出してやるよ!」

「えっ、どこを……? 街中全部捜索するなんて言わないよね?」

「探す! ぜってーに嘘じゃないってショーメーしてやる! おまえもこい、ヨシノリ!」

「う、うわっ、ひっぱるな! 袖が伸びるだろ! ああもう!」


 ユウタとヨシノリは、こう見えて幼稚園からの仲だった。運動が好きで活発なユウタと、頭がいいヨシノリ、不思議とどこかウマが合って、仲良く過ごせていた。小学生になって、成績が重要視されるようになってから、少し距離が空いてしまっていたが……。それでも、ユウタは、ヨシノリに嘘つきだと思われたくなかった。泣きそうな顔でヨシノリを見ると、彼はため息をつきながら告げた。


「ああもう……わかったよ。いいよ」

「いいって、何が?」

「だから、君が、嘘下手なこと知ってるし。君が『ある』って言うなら、本当にそういうのはあるんだろ?」

「……ヨシノリ、お前……」

「……どうせ、今日は塾がなくて暇だから。ほら、一緒に探そう。本当に見つけられたら、一発芸でもなんでもやるよ。それでいい?」


 ヨシノリの言葉は、つっけんどんなのにどこか温かい。ヨシノリは、自分にも他人にも厳しいから、周りから誤解されがちなところがあるが、でも、本当は、思いやりがあっていいやつなのだ。

 

「――なら、ポストがあってもなくってもさ、おれたちで一緒に芸やろうぜ、クラスのみんな笑わせてさ。そうしたら……楽しそうじゃね?」

「趣旨が変わってるよ? ……でもまあ、悪くないね」


 ヨシノリは、眼鏡の奥で隠れがちな眼差しを細めて楽しそうに笑った。なんだかんだ、ついてきてくれるヨシノリのことが、ユウタはやっぱり嫌いではなかった。


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《第2話 都市伝説は本当にあったけど に続く》


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