結婚式は人生で一番不幸な日

 ボウリング場を辞めた後、祖父母と話し合い、女性が多い職場がいいだろうということで、和菓子メーカーに正社員で勤務しました


 昔ながらの直火炊きの甘納豆が有名な和菓子メーカです

 毎日、工場からの煮豆の匂いがプゥ~ンと漂って来ます


 この会社で、1つ上の営業マンと付き合うようになり、のちに結婚することになります

 きっかけは、別の営業マンの先輩からの一言で、『こいつ実家が関西だから、こっちに家族がいないし、女っ気ないから、弁当でも作ってやってよ』という言葉

 私は昼食代を節約しようと、毎日お弁当持参だったのです

 だから『おにぎりみたいなものでよければ』と、自分の分と同じようなお弁当を何度か作って渡しました

 実際は、そのおにぎり……祖母が作ったんですけれど(笑)

 まぁ、おかずを作ったのは私なので、間違ってはいない(笑)

 それが、彼に好かれる要因だったようで、気づいたらパートさんたちに『付き合っている』と思われていたみたいで、アットホームな会社だったので従業員全員で丸め込み作戦みたいな感じで、あれよあれよ言う間に、『結婚』の話が出るまでにw


 というのも、GWに大阪の実家に帰省するという彼から、『一緒に来るか?』と聞かれ、『何しに?』と聞いたら、『親に紹介したいから』と

 それがプチプロポーズだとは知らず、『どういうご両親なの?うち、両親いないから、上手く立ち回れないと思う』的なことを言った記憶があります

『大阪のおっちゃんとおかんやから、なんも気にせんでえぇ』と言われ、『じゃあ』と、とんとん拍子で事が進んでしまったのです


 これが地獄への入口だとはつゆ知らず……


 彼のご両親はテレビで観るような新喜劇の芸人さんみたいな会話のノリで、会話のスピードも内容も把握できずついていけず、『はい、はい』と頷くしか出来なかったのですよね

 それが、挙式はいつにするか?という話だと分かったのは、大阪から帰路につく車の中です

 脳みそがついていけない感じで、脳が考える事を拒否したんですよ

 そこからは、投げやりというか、流れに身を委ねたというか

 押しの強い関西ならではなのかは分かりません

 いつもおっとりとした口調の祖母が会話相手だったので、早口でわーわー言われても、相槌しか打てなかったのですよ


 翌年のGW、軽井沢の石の教会で挙式を挙げました

 大阪から高速で来易いというのもあったし、実家から姉と弟が来易いという距離なのもあって(祖父母は高齢なので、写真と動画だけで祝うことに)


 4月29日、祝日の20時

 ライトアップされた幻想的な雰囲気の中、姉と弟に無理やり連れて来られた父もいる中、彼のご両親と姉夫婦(子供二人)、もう一人の姉、合計10人の参列者だけの挙式

 友達も職場の人もいない、本当に身内だけの挙式でした


 というのも、『親戚を呼べへんのやったら、友達や職場の人なんて要らんやろ』という姑の一言で決まったからです


 そして、挙式後にガラス張りの庭園でシャンパントーストと写真撮影をして、教会に隣接しているリゾートホテルのレストランで食事会をしました

 フレンチのフルコースです

 ドンペリ5本開けて、2時間ほど楽しんだ後、地獄への鐘は鳴ったのですよ


 お酒が飲めない姉が運転して父と弟を連れて帰ることになっていて

 彼のご家族は1泊、リゾートホテルの別館を予約しておいたので、ホテルのエントランスでお開きにすることに

 私は実家に帰る姉に、『帰りに寄るからバケツに入れておいて』と、カラー7本が束になっているブーケを託しました

 後日、提携しているフラワー店で加工して貰い、ケースに入れて飾れるように頼んであったからです

 なのに、私がブーケをと勘違いした姑は、カツカツとヒール音を鳴らしながら小走り気味に駆け寄って来て、『アンタ、順序が違うんやないの?!』といきなりグーで顔面を殴られました

 姉と弟と父親がいる目の前で

 ホテルのフロントにいるスタッフ3人が悲鳴を上げるくらい凄かったみたいです

 私は、殴られた衝撃で脳震盪を起こし、父親の肩部分に倒れたんです

 記憶はそこで消えてしまって、あとはよく憶えていないのですが、ホテルスタッフが部屋に運んで下さったそうで


 私の姉と彼のお姉さん、2人とも未婚でしたが、私の姉の方が年下だったのです

 だから、新婦からブーケを受取るなら、自分の娘に手渡して欲しかったのでしょうね


 ですが、私は姉にあげたのではなく、保管をお願いしただけなんです

 姑の勝手な思い込みで、人生で一番輝いて幸せであろう結婚式の日が、人生で一番思い出したくない日に塗り替えられました


 これまでも不幸マスを踏み倒す勢いで生きて来ましたが、精神的に肉体的に苦痛だと感じたことは、この日が頂点です

 結婚式当日に、姑からグーパンチ、しかも目の部分を倒れるほどの衝撃を纏った一撃を喰らうだなんて、そんな新婦聞いたことないでしょ?


 これ、嘘ではなく、事実ですから

 でもね、不幸って、連鎖で襲って来るのですよ

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