クラスのギャルが声優志望なので俺がプロディースする事になった
@usuisio
ソシャゲの音は学校では消そう
初登校の日にスマホゲーの起動音を切り忘れ、『お兄ちゃんおかえり!今日もたくさん遊ぼうね!』というロリボイスを教室中に響かせた俺は、今日も開き直って休み時間をエンジョイ中だ。
まあ、俺――佐藤 匠海――がオタクなのは事実だし。
「よお、またソシャゲか?」
「ちげーよ吉田、これはバーチャルアイドルだ」
素人め、そうやってすぐに知らんキャラをソシャゲ扱いするな。
「えぇ~、普通そんな見分けつかないっしょ」
「まあ、流石に最近は多すぎるからなぁ」
そう、最近は本当に多すぎるんだよ、企業Vだけで五百人は超えてるだろ。
「オタクでも分かんないかぁ」
「つか、自然に会話に紛れ込んで来んなよ、ギャル」
吉田君、どっか行っちゃったじゃないか。
そう、堂々と俺をオタク呼ばわりする女…
いや、オタなのは認めるが、こうもあけすけに言われるのは何か腹立つな。
「えー、良いじゃん暇なのよ」
「駄目だ、
「因習村みたいな事言わないでよ」
「最近はギャルでもそんな単語知ってんのな…」
今の時代、片手でスマホをいじれば世界に繋がるからな。
こうやって、にわかオタ知識が拡散されていく。
情報化社会、SNS発展の弊害だ。
「で、何見てるのよ」
「まだ居たのか…いい加減に森へ帰れ」
「何かあたしに対して、当たり強くない?!」
お前はバスケ部とかサッカー部が居る、あっちに行けよな。
それに、お前だって名前呼びせずにオタク呼ばわりだろ、優しくする理由無し。
大体、俺はリアル女は信用してないんだよな。
それはそれとして、そうやって椅子に逆向きに股がるとパンツ見えそうです、あっ。
「ねえ、いいじゃん匠海君」
「…『ライバーライブ』って言う動画アプリだよ、円谷さん」
名前覚えてるなら、最初から言えよな。
あと、下は何か体育の短パンみたいなの履いてるのか、そっかー。
まあ、それはそれで…。
「ふーん」
「ほら、その興味無さそうな反応な。だから言いたくなかったんだよ」
「…別に興味の無い訳じゃ無くて、知ってるアプリだなって思っただけよ」
「…まじ?意外だ」
『ライバーライブ』は、基本的にアバターの配信者しか登録出来ない。
必然的にアニメ色が強くて、かなりオタ向けの動画配信サイトだと思うんだが。
「あ、ほら!この『うみかぜ ねここ』って言う子、コンビニでコラボしてたの!可愛いわよね!」
「ああ、そういえばやってたな」
恒例の、お菓子3つ買うとクリアファイル1枚のやつだな。
バーチャルアイドルも、今やオタクだけのモノでは無いんだなあ。
「企業勢は強いよな、資本による強力なバックアップ、巨大なスタジオを使った3Dライブ、もちろん本人の愛されキャラや実力も有るけど、リスナーへの細かい配慮や神対応、上手いコメントを拾うアドリブ力、何より聴いてるだけで癒される声と、それらを完璧に際立たせる、神絵師のデザインした素晴らしいキャラが合わさり――」
「ち、ちょっとストーップ!!話が長いわよ!!」
「なんだよ、良いところなのに」
まあ、少し熱くなり過ぎたな。
「登録者数上位の子は、みんなカワイイわよね!」
女子はカワイイを見るとテンション上がるよな。
「そりゃ上の連中は、みんな金掛けてるからな」
「何でそういう夢の無いこと言うわけ?」
「事実だ、可愛いには金が掛かるんだよ」
「ゔっ、思い当たるわね…コスメとかネイルとか」
「だよなあ?」
女子の方が、そのへん分かるだろうなぁ。
「で、でもさ!新人の子だって、こう…光る子が居ない?」
「まあ居るんじゃないかな」
「でしょ!登録者イコール人気じゃ無いんだから!」
「おお、お前良いこと言うな!ギャルなのにな」
「ギャルは関係ないでしょ!つかあたしギャルだと思われてたの?」
「見た目がなんか派手で、一人称あたしの女子高生は大体ギャルだろ」
「そうかも」
「ほれ見たことか」
証明終了です。
こいつもしかして、結構おもしれー女だな?
ちょっと興味湧いてきたな。
「あ、ほら!この子とかどうよ?」
「ん、どれ…駄目だな」
「なんで視聴もせずに決めるのよ!?」
「いや、サムネがな?」
サムネイルのセンスが致命的だ、アバターも何かフリー素材みたいな見た目だし。
内容云々以前の問題なんだよ、これじゃ土俵にも立てない。
という事を懇切丁寧に説明してやると、このギャルも納得してくれた。
「まあ、駄目なのは分かったわよ…じゃあ、どうすればいいのよ」
「やけに食いつくな…まあ、サムネが地味とかもそうだけど、自分でキャラデザ描き直すか、それなりの絵師に依頼するとか?」
「やっぱりそうなるわけね」
「さっきも言ったがな、まず金だよ金」
「世知辛いわ…」
少なくとも今の時代はな。
「ま、色々聴けてあたしも面白かったわ、ありが―『おはよう!ログインボーナスの時間だよっ!』きゃあああああ!!!」
「おわぁぁぁ?!」
あれ?今俺のスマホからか?!
「んー?いや違うか…?」
おかしいな、バックグラウンドで動いてるのかな?
「おい佐藤またかよ」
「ああ、悪い悪い…」
うーん、ちゃんと設定したんだがなぁ。
念の為、音全部消しておくか。
「そ、そろそろ休憩終わりだし、あたし行くわね!」
「どこにだよ、お前は俺の前の席だろ」
「あ、あー、ととトイレよ言わせんな恥ずかしい!」
「あ、そっかごめんゴメン」
女子は色々大変だからな、知らんけど。
…さっきのソシャゲ、円谷じゃ無いよな?
◇◆◇
その日の帰り、俺は初めてラブレターを貰った。
ごめんちがう、嘘ついたゆるして。
《放課後 第三備品室 1人で来い》
破ったノートの切れ端には、そんな文字が書かれてた。
…カツアゲ?
何だろうな…呼び出される覚えないし。
「いいや、帰ろ」
めんどくさい、何かヤバそうだし、あとめんどくさい。
帰ってゲームやって、推しの配信でも見るか。
◇◆◇
次の日の放課後、事件は起きた。
俺が、昨日の手紙の事などすっかり忘れ、鼻歌しながらスキップで帰宅する所だ。
「ビビデ♪バビデ♪ふんふーん――」
「――動かないで」
「…なっ?!」
この俺が、こうもあっさりと後ろを取られただと…?!
まあそれは冗談として…。
「だ、誰だ…?」
「いいから来なさい、暴れんじゃないわよ…暴れんなよ…」
…もしかして、昨日の手紙の奴かな?
そうやって、気が付いたら俺は第三備品室まで連れて来られた。
入った途端、ガチャリと鍵を掛けられる。
振り返ると、そこには黒いマスクをした、学校のジャージ姿の女子が。
「つか円谷かよ」
女子だとは思ってたけど。
「な、なんでばれたのよ!」
「いやお前の個性がマスクとジャージだけで消せるわけ無いだろ」
ギャルの匂いがぷんぷんしやがるし。
「本気で隠す気なら着ぐるみでも着ろ」
「く、あたしが可愛い過ぎたばっかりに…」
「自己肯定感マックスなの?」
まあ、可愛いのは認めよう。
「で、何だよこんな手の込んだ事して」
「そ、そうよ!あんた昨日はなんで帰ったのよ!」
「推しの配信があったもんで」
「じゃあ仕方ないわね」
「やけにオタクに理解のあるギャルだな」
「そ、それは…あーもう!と・に・か・く!話があるのよ!!」
「何だよ話って」
「何って、わかってるでしょ…?」
…何が?
「いや主語を話せよ」
「…一昨日、あたしのスマホが鳴ったの、聞いてたじゃない」
「ああ、あれお前だったのか」
原因が分からないから、アプリ入れ直しちゃったじゃん。
「…気がついてなかったの?」
「あの場にいた全員、俺だと思ってたが」
俺も含めて。
「もしかして、口止めしにきたのか?」
「そうよ!あたしはオタばれしたくないの!」
「やっぱりオタクだったんだな」
「…ハッ!」
こいつ自供しにきたのかな?
「いや話しやすいなぁと思ったよ」
「うっさいわね!あたしも話してて楽しかったわよ!」
「お前今日までよく隠せてたな?」
「ふ、普段はちゃんとしてたの!でもほら、あんたがあの時見てたアレよ」
「ああ、『ライバーライブ』?」
「あれ、あたしもやってて…どうしても、話聞きたくなっちゃったの」
「…もしかして、あの売れないVライバー、お前か?」
「…うん」
マジか、こいつどっぷりオタだな?!
「言われてみれば声が似てるな」
「だから本人よ、てか聴いてくれたの?」
「一応な、声質自体は、悪くないんじゃないか?」
オタ受けしそうな声してる。
「そう!?マジで!?」
「でも売れないなアレは」
「なんでよー!」
何でって理由は説明しただろうが。
「…まあ、あたしも分かってるわよ、あれじゃ登録者上がらないわよね」
「つか、円谷は何故にVライバー活動なんてしてるの?」
「…声優志望なのよ、あたし」
「おお、凄いな」
「…馬鹿にしないの?」
「なんでだよ、もしお前がデビューしたら推すぞ」
「え?そ、そう?まあいいけどぉ…へへへ」
未来の推しの可能性が目の前に居る。
オタにとって、こんなに嬉しい事はない。
「まあ、オタクのあんたが笑う訳無いわよね」
「まあな、でもお前変な専門学校とかに行くなよ?」
「ちゃんと大学行くわよ、最近は声優も学歴見られるもの」
「そうか?」
「ええ、あと見た目もね」
「それはそう」
写真集とか普通に出すし。
「そういう訳だから、この事はみんなに黙っててほしいわけ」
「別に話しちまって良いんじゃ?後々そういう設定だと大変だぞ?」
「設定とか言わないでよ!言えるわけないでしょ!」
まあ、中々踏ん切りがつかないか。
「ハッ!やっぱりあんた、あたしの弱みを握って、何かやらしいこと考えてるわね!!」
「エロ同人読みすぎかな?」
「わかったわ!あたしの事を『オタクに優しいギャル』にするつもりでしょ!!」
「オタクはお前だろ」
鏡見てみろ。
「大体、お前にはあの絶妙な職人芸をこなすのは無理だ」
「はぁ!?何いってんのよ!!出来らぁっ!」
打てば響くなコイツ。
「ちょっとこっちきなさいよ」
「まだ帰らせてくれないのか」
「いいから耳貸しなさい、はぁー…『オタクくんさっきからあーしの胸見すぎなんだけど』」
「ん!!んんんんん!!!!」
ゾクゾクゾク!!!!
「『ま、こないだゲーム教えてくれたしぃ、オタクくんなら見てもいいけど?』」
「お!!おほ!!!!」
「『あはは!すごいガン見するじゃん!パンツも見せたげよっか?』」
「おおおお!!おごお゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙!!!!」
「ちょっと、大丈夫?戻ってきなさいよ、おーい」
「…ハッ!これは…今まで読んでいたエロマンガは?」
「無いわよそんなの」
おいおいおい、思った以上の破壊力じゃねぇの。
「ほら出来たでしょ、オタクに優しいギャル」
「ギャルがギャルを演じる時代なのか…」
哲学だな。
「いや、お前すげーな!」
「え、そう?」
「ああ、なれるよプロ声優!」
「そ、そっかなぁ、えへへ」
こうして笑ってると、ただの可愛いギャルだな。
多分、濃いめのオタクなんだろうけど。
「まあ、黙ってて欲しいなら言わないよ」
「本当?良かった、ありがとね!!」
「まあ気持ちは理解るからな、同志よ」
「そこは友達とかじゃない?まあいいけど…」
よし、帰るか!…の前に一つ言っておかないとな。
「とりあえず、ソシャゲは他のスマホに入れたら?」
「…はい」
ホント気をつけろよな。
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