壊した。

きつねのなにか

呪い、怨念

 祠を壊してしまった。

 その祠は大して祭られている様子はなくボロボロであった。

 でも、言い伝えでは「破壊するな、破壊するとこの村に災いが起きる」と伝えられていた。

 それを壊してしまった。


「なにぃ、あの祠を破壊したじゃとぉ!?」


 正直に長老に申し上げる。長老ならなにかを知っていると思ったからだ。


「故意ではないんです。よろめいて祠に衝突してしまっただけなんです。あんなにおんぼろとは思ってもみなくて」


「災いじゃ、災いが起きる。ニエを用意しなければならぬ!」


「ニエ……?」


「そうじゃ、おぬし、生娘であったな……」


「え、ええ。この村には年齢の会う男がおりませんので」


 少しためらいながらも話す。ここは正直にならねばならないと思う。


「よし、おぬしがニエじゃ。とりあえずこの柱に張り付いておれ!」


 どこからともなく出現した縄で、無駄に力が強かった長老に拘束される私。


 そして時間が経ち、ずこずこと現れた男衆に布でぐるぐる巻きにされる。口も、目も。


「もごご(動けない)」


 もがいてももがいても、蜘蛛の巣で巻かれたようになったであろう私は身体を動かすことが出来ない。


「よし、これをニエにして神様のお怒りを沈めて頂くぞ。娘よ、おぬしが祠を壊したんじゃ、悪く思うな。これも村が生き延びる為じゃ」


 私は男衆に担がれ、どこかへ移動する。滝にでも落とされるのだろうか。土に埋められるのだろうか。

 ああ、あのとき祠を壊さなければこんなことにはならなかったのに。


 男衆の声が聞こえる。


「で、どこに持っていくんだ」


「神社の神楽殿だそうだ」


「ああ、あそこならニエを扱うには十分だな……」


「本物だからな、あそこは……」



 神社の神楽殿。


 本当にあそこでは心霊現象が頻発する。髪の毛と口だけの化け物が出現して、神楽を踊る巫女を食い潰したり、目だけが浮遊している化け物が出たり。

 神主が出現を押さえ込んではいたが、代々受け継がれている血が薄くなっており、そういうのが出現するようになって久しい。

 それでもあそこで神楽を踊る。それ以上の災いが起こらないように。


 死にたくない。祠を壊してしまっただけなのに。再建すればいいじゃないか。

 そうこうするうちにドンと身体を投げ落とされる。痛い。


「もぐぅ……!」


「よし、じいさん、ここでよいか?」


「神楽殿の真ん中ならニエには適しているじゃろう」


「後はどうするんだ?」


「拝殿で祠の神様を呼び出し、ニエを献上し許して貰うのじゃ。そして祠を再建じゃ」


 ああ、私はここで死ぬのか。死ぬは嫌だ死ぬのは嫌だ死ぬのは……。


 身体を少しも動かせないまま時が流れる。


 パリン


 なにかが割れた音とともに明らかに生物の、いや、生物と化け物が合わさったような独特の気配がにじり寄ってきた。

 祠の化け物に違いない。


(いやーこんな上等な巫女を捧げ物にするなんて、気前が良いねえ)

(普通あの祠は壊せないもんねえ)


 音は発していないのに、言葉を感じる。なにこれなにこれなにこれ。


(祠の神様。壊してしまって申し訳ありません。どうかお命だけはお助けください)


 私も念話? を使って話をする。


(命だけ。四肢を潰して片目を潰し、達磨だるまにしても命だけは助かるよねえ)


(そ、そんな……どうすれば許してくださるのですか)



「食べられる」



 発せられたその声は澄んでおり、その言葉は非情であった。

 わたしはその一言で一気に生を諦めてしまった。言霊というやつかもしれない。とにかくもういいやと思ってしまった。


「んー」


「いい声だ。犯し尽くして嬲り殺してやろう」


 そういうと私にのしかかり(少し柔らかめの鱗? だった)

 器用にその手で猿ぐつわを解いていった。

 そう、手があった。


「それじゃ、いただくわ」


 そういうと、舌かなにかを私の口に滑り込ませると、一気に内蔵の方までするすると伸ばしていくのがわかった。

 これが食べるということなのか。

 苦しい。

 でもこれが終われば私は死ぬ。

 祠を壊した責任をとれる。

 ああ……。


(うん、君お強いね。僕の内蔵攻めで死なないとは)

(え、あ、はい)

(そうだ、一緒に世界を回らない?)

(は?)

(いやさあ、とある猛者にここを守ってくれと言われて4000年ほど守ったんだけど、最近じゃここの魔物も殲滅しちゃったし暇してたんだよね。祠を管理してくれる人もいなくなっちゃったし)


 するすると内臓に差し込んだ舌かなにかを引き出すと、今度は目隠しを丁寧に取った。


「ひえっ、龍神様?」


 そこには掛け軸で見るような龍が私にのしかかっていた。といっても身体の数百数分の一のところだけだが。大きい。みっちりと壁のように尻尾だか胴体だかを詰めている。それでも尻尾の先が神楽殿を出ているように見える。絵に描かれているような小さい龍とはまったく違う。


「そう、龍神です。しかも新龍クラスよ。びっくりした?」

「かなり」

「やったぜべいびー!」

「ふっる」

「しょんぼり」


 かくして私は龍神様に気に入られて世界を旅してまわることになった。

 人間の姿じゃもろすぎるということで、龍族の身体にも、して貰った。

 その際に身体が破裂し、血が吹き飛び神楽殿に付着したので、長老には食われたと思われるだろう。

 一件落着だ。



 ――――


「リュー、魔術道具を見るのはそれくらいにしなさい」

「えー、だってこれぐるぐる回すと電気が発生するんだぜ、フェス」

「エレキテルかよ。だーめ、いくよ、おちびちゃん」

「うるせー、その言葉は言うなっ。割とフェスって物事を知ってるよな」

「まあ、本だけが……お友達……だったから……」

「やめよっかこの話」


 そう、世界を旅するといっても異世界である。あの星はもう見て回るところはないらしい。私はあるけども。田舎娘だから。

 異世界でも現世でも、知らないところを見るということは同じじゃん、って言われるとそうかもしれないなと思った。

 そういうわけで異世界ジャンプし、その際に名前と種族も、龍族のリューとフェスということにした。

 リューはジャンプした際に私にほとんど力を吸われてしまったようなのである。

 身長も吸われてしまった。

 そう、ショタである。ぐへへへ。


 世界は楽しい。リューとの生活は面白い。

 恐らく私はリューとの子供を産むだろう。

 どんな子供になるだろうか。

 もちろん子育てしやすいところに異世界ジャンプするわけだけど。




 祠が壊れて、本当に良かった。

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壊した。 きつねのなにか @nekononanika

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