聖なる夜~サンタはお母さん?~

月白

第1話 聖なる夜~サンタはお母さん?~

 子どもの頃はクリスマスが待ち遠しくて、「サンタさんは今年はどんなプレゼントをくれるんだろう?」なんて、ワクワクしていた。

 年を重ねるごとに現実を知り、サンタはいないんだってことに気が付いて、ガッカリした。

 大人になった私は、毎日毎日仕事に追われクリスマスの雰囲気を味わうことは、皆無な上に当然仕事だ。

 ショーウィンドウに飾られている、可愛い洋服やアクセサリーの数々を横目に、会社帰り周りを見渡せば、幸せそうな恋人たち。

 街は綺麗なイルミネーションで彩られている。道行くすれ違うカップルに、羨望の眼差しを無意識に向けてしまっていることに、気が付いてため息をつく。

 フッと目に留まったのは、ショーウィンドウに飾られているペアリング。思わず足を止めて、ペアリングに見入ってしまう。

「恋人たちのクリスマスかぁ~……」

 あまりにも今の自分とは無縁過ぎて自嘲する。

「帰るか……」

 誰に言うでもなくつぶやく声は雑踏にかき消された。

 駅に向かって歩く。足早に……。

 できるだけ早く、ここから立ち去りたかった。

 朝、規則正しく起きて満員電車に揺られ、会社に行く。帰りはまた満員電車に揺られて家に帰る。私の日常はその繰り返しだ。

 以前は私にだって彼氏はいた。こんな私でも一応はいたのだ。

 その恋も1年前に終わった。

 私が素直になることができずに、気が付けば相手の気持ちは私から離れていた。気づいた時には時すでに遅く、どうにもやり直すこともできなかった。

 家に帰っても、誰かが待っているわけでもない、一人暮らし。

「そうだ、コンビニ寄ってこ」

 今日はもう作るのも面倒だ。誰も待っていないから気を使うこともない。けど、今日はやっぱり少し疲れているのかなぁ。

「いらっしゃいませ」

 コンビニに入ると、お決まりのクリスマスソングが店内に流れている。

 お弁当を一つ片手にレジに持って行き、会計を済ませる。温めてもらったお弁当を受け取り、コンビニを出ようとした時、棚に並べてあったサンタの靴が目に入った。色々なお菓子がたくさん入っているサンタの靴。

 そういえば、昔お母さんにねだって買ってもらったっけ。

「懐かしいなぁ……」

 昔を思い出して少し懐かしい気持ちになり、フッと笑みがこぼれる。

 自宅に帰り、久しぶりに実家に電話をした。

「もしもし?お母さん?」

「何?どうしたの、珍しいわね。あなたから電話してくるなんて」

「うん、なんかね。お母さんの声が少し聞きたくなったから……」

「何かあったの?」

「別に何もないよ。そっちは変わりない?」

「ないわよ。変な子ね」

 そういうと母は、少し嬉しそうに笑った。

「クリスマスだっていうのに、一緒に過ごす相手はいないの?」

 グサッと、私のついてほしくないところを、容赦なくつく。

「それは、言わないでよ。お母さん……」

「お正月は、こっちに帰ってきなさいね?」

「うん。それじゃぁ、体に気を付けてね」

「あなたもね」

 久しぶりに聞く母の声。

 しばらく実家に帰ってなかったけど、今度のお正月は帰ろうかな。

 手帳に帰省の予定を組もうとした、その時。電話が鳴った。誰だろう……。

 スマホの画面を見ると、懐かしい人の名前が表示されていた。

「はい、もしもし……」

「よぉ、久しぶり」

「いっちゃん?」

「うん」

 いっちゃんは、私の実家の隣に住んでいて、5つ年上の幼馴染のお兄ちゃん。

「どうしたの?」

「お前、クリスマスだっていうのに、一人寂しくしてるんだって?」

 お母さん……。

「別に……そんなの、いっちゃんだって……」

「俺?俺はいいの」

「何、それ……」

「お前さぁ、そろそろこっちに戻ってくれば?」

「何、突然……」

「いやぁー……」

「何?……」

「俺のとこに帰ってこいよ。そろそろ」

「それ、どういう……」

「どうって、そのまんま」

 いっちゃんからの思いもよらない告白だった。昔、私が告白した時は振ったくせに……。

「昔、私が告白した時は振ったくせに……」

「だって、お前あの時まだ高校生だったろ」

 そうあの時私は高校生で、いっちゃんはもうとっくに社会に出た大人だった。

 数年前の冬のこと……。

「何、その理由……」

「大人の俺としては、お前が成長するのを待っていたわけよ」

「女……とかえひっかえだったくせに」

「正月、帰ってくるんだろう?」

「多分……」

「じゃぁ、その時話しようぜ。待ってるから。じゃぁな」

 そういうと電話は切れてしまった。

 いつも勝手だ。いっちゃんは。

 久しぶりの電話に声に嬉しくも、モヤっとした気持ちを抱えて、電話を切った。

 モヤモヤが晴れないまま、少し冷えてしまったお弁当を頬張った。

 そしてお正月に実家に帰京した。

 いっちゃんは、指輪まで用意してくれていた。さすがにそこまで本気だとは思わなかったから、驚きつつも涙してしまった。

 だって貰った指輪は、私があの時ショーウィンドウで見ていた、ペアリングだったのだ。

 私は年が明けて3月に会社を退職し、いっちゃんのもとへ―――。

 いっちゃんと私は近く入籍する予定。家族もみんな喜んで、私の帰りを迎えてくれた。

 もう毎日両家は、昔なじみの隣同士ということもあり、毎夜宴会みたいになっている。

 あの時のサンタさんは……。

 お母さん?なのかな……。

 今年のクリスマスは賑やかになりそうだ。

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