第2話



 三人はショッピングモールの中にあるケーキバイキングの店に入った。

 湖都は希和子と隣に座り、目の前に雄大が座ったが、なぜか目も合わせてくれない。むしろ、怒っているのかも? と思った。


「湖都、早く取りに行こうよ」


 希和子が意気揚々と立ち上がり我先にケーキを取りに行く。湖都は、雄大をちらりと見た。


「……行く?」

「ああ……」


 雄大はむすっとした顏で席を立った。

 湖都はまだ座ったままテーブルの下で手を握りしめた。


 ああそうですか! わたしが邪魔なんでしょ!


 ネガティブな気持ちでムカムカしたが、せっかくケーキバイキングに来たのだからと顔を上げた。

 席を立って、足を踏み鳴らすように歩いた。でも、陳列棚に並んだケーキを見ると、思わず目が輝いた。


 色とりどりのケーキ。旬のフルーツをたくさん使ったケーキやチョコレート、モンブランやショートケーキもある。


 ショートケーキをひとつ取った。赤いイチゴが嫌な事を忘れさせてくれる気がした。もうひとつ、ブルーベリーチーズケーキを取る。


 遅れて席に着くと、二人はすでに食べて楽しそうだった。


「湖都、遅い! 先に食べてるよ」


 希和子は満面の笑みで、チョコレートケーキを口に運んでいる。そのスピードの速いこと。たちまち、ケーキを四つぺろりと食べた。

 雄大はにやにやしながら、


「見かけによらず、よく食べるね」


 と笑うと、希和子は嫌な顔もせず、おいしいんだもん! と言ってから、再びケーキを取りに行くために立ち上がった。


 湖都は座ってから、ショートケーキをじっくりと味わって食べた。

 甘酸っぱいイチゴと生地はふんわりしていた。


「おいし……」


 呟いて、ふっと目を上げると、雄大がじっと見ていた。

 ドキリとする。


「お前さ……」

「え?」


 思わず顔がこわばった。


「それだけで足りるの?」

「へ?」

「せっかく金払ってんだからさ、もっと食えば?」

「あ、あんただって、男ならもっとガツガツ食べなさいよ」

「俺はいいんだよ。男だから甘いもんなんかおかしいだろ」

「なら、何でここにいるのよ」

「誘われたから……」


 ぼそりと言って、チーズケーキを食べ始めた。三つ平らげると、サッと立ち上がる。

 入れ違いに希和子が戻ってきた。

 お皿には四つのケーキ。


「希和子、いくつ食べるの?」


 唖然とすると、希和子はにっこり笑った。


「わたし、ケーキ大好きなんだ」


 本当にうれしそうだ。その屈託のない顔を見ているとこちらも楽しい気持ちになる。


「太ってもいいの?」

「これがね、不思議と太らないのよ、わたし」


 希和子は平然と言った。確かに希和子は痩せていて、色白のかわいい少女だ。

 湖都はぷっと吹き出すと、希和子の食べっぷりと見ていると、うじうじしている自分がバカみたいに思えてきた。


「あたしも食べよっと」


 ショートケーキを食べると、ブルーベリーのチーズケーキに取りかかる。二つ目が終わる頃にはだいぶ満腹になっていた。

 雄大が戻って来て、希和子の食べ方を見て、少しびっくりしていたが笑顔に変わる。


 ケーキバイキングに来たのは正解だった。

 もし、湖都が暗い顔でばかりいたら、二人に嫌な思いをさせていたのかもしれない。


 気分が変わると、少し明るい気持ちになった。


「もう一個、取りに行って来るね」


 二人に言って、湖都は立ち上がった。



 その日、希和子はケーキを九個も食べて、雄大は五つ、湖都は三つだった。

 三つ目を食べている時、胸が一杯だった。それ以上、何も入らず、やっぱり、つらいって気持ちには勝てなかった。


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