ショートケーキが好きかも
春野 セイ
第1話
やばい泣きそうかも……。
湖都の視線の先はクラスメートの少年だ。彼の名は
すると、雄大がこちらを見た。自分と目があったのにサッと逸らされる。
胸がズキンと痛かった。
夢ならいいのに……。
今日の映画は失敗だった。
本当は二人きりで映画に行く約束をしていたのに、自分が友達を呼んでしまった。
数日前、教室でいつものように雄大と話をしていると、映画の話題になり湖都の母親が映画の無料チケットをもらった話をすると、雄大も無料チケットを持っていると言った。
なら二人で行こうかと雄大が言い出し、話は決まったのだが、好きな人と二人で映画を見るのは絶対無理! と判断した湖都は、友達の
希和子は映画が大好きなので、行く! と承諾した。
希和子も一緒に誘ったなどと雄大には言えなくて、待ち合わせの時に希和子がいることに気づいた雄大は、最初、面食らった顔をしていたが、すぐにいつもの様子で希和子と仲良く話を始めた。
そして、映画が始まるまで時間を潰している間、彼の顔がいつもと違うのに気づいた。
顔はやけにうれしそうだし、言葉遣いも希和子にはずいぶん優しい。湖都に対しては鼻で笑ってバカにされそうな話題も、希和子には親切に答えている。
茫然としていると、眉をひそめて雄大がこちらを見た。
「さっきから何黙ってんだよ、湖都」
「べ、別に何も……」
それ以上、言えなかった。
知らなかった。
雄大って、希和子が好きなんだ――。
それまで二人が話しているところを見たことがなかったから……。
もしかして、ずっと前から好きだったのだろうか? そうだったら、自分はなんて間抜けなんだろう。
「湖都、映画始まるよ」
希和子に呼ばれて我に返る。二人はいつの間にか入口付近の列に並ぼうと歩いている。慌てて追いかけると雄大が言った。
「映画、楽しみだな」
それは湖都に言った言葉じゃなかった。
希和子が頷いている。
な、何だかいい雰囲気?
後ろをついて行きながら、みじめな気持ちになる。
帰りたい――。
その時、希和子が立ち止った。
「忘れてた。ジュースとか買う?」
雄大は首を振って、いや、いいよ、と答えた。希和子が、湖都を見る。
「湖都は?」
「いい……。ありがとう」
上の空で答えた。
指定席に着いたが、真ん中に希和子が座ったので雄大と話すこともできなかった。当然、映画の内容もぼんやりとしか覚えていない。
映画がようやく終わり気持ちだけへとへとになって出ると、希和子がケーキバイキングに行かない? と提案してきた。
「えっ?」
すぐにでも家に帰りたかったのに、二人は行く気満々でとうとう断れなかった。
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