魔女の血族の初恋とその顛末

旅籠はな

間地夜まじやとう、16歳、高2、魔女、平凡。そんな僕の1番大事で輝いていた物語を話そうと思う。


血族、というものがある。それらはかつて存在した、魔女や人狼、吸血鬼などの末裔のことを指す。血族の人間は全盛期程の力を持たないが、そこらの人間よか余程強い。祖先が人外だもの。

かく言う僕、間地夜透輝も魔女の血族の1人だ。間地夜家は『宝石の魔女』の血をひいている。祖先である宝石の魔女は体液が全て様々な宝石でできていたらしい。今ではその体質も衰えてしまい、1人1種ずつの宝石しか持てないけど。例えば僕の場合はダイオプサイド。間地夜家の大半と同じように、念じれば涙を宝石にすることができる。そして付いた異名がダイオプサイドの魔女。いや、お前男じゃん、などと思ってはいけない。魔女の血族に生まれた、魔術と魔法を行使する者は例外なく魔女なのだ。

魔術と魔法、同じだろ、と思ったそこの君。この2つは全くの別物だ。魔術は理論がきちんとあり、研究対象にもなっているけれど、魔法は純然たる奇跡の代物だ。よく覚えておくように。…そこの君って誰だ?

まあとりあえず。大抵の魔女は1人2つ魔法を持っている。家の魔法と自分の魔法。間地夜家の魔法は言わずもがな。体液を宝石に変える魔法。僕自身の魔法は内緒。自分の魔法なんて他人に教えちゃいけない。魔女の常識だ。


『起きろ!とーき!今日から学校だろ!』

僕の一日は猫の声で始まる。…いやガチで。僕を起こしているのは僕の使い魔である黒猫のセレン。セレンの声は普通の人にはただのにゃーにゃーに聞こえるが、魔女の血族にはきちんと声として認識できる。

『とーき!起きろ!母君に怒られるぞ!』

それはまずい。母は怒ると怖いのだ。僕はのそのそ起き上がる。

「おはよう、セレン。起こしてくれてありがと」

『ふん。礼には及ばん』

セレンはそう言うと、撫でろと言わんばかりに僕の手に頭を押し付けてくる。可愛い。その後セレンを構っていたら怒った母が部屋まで来た。解せぬ。


「透輝おはよう」

「おはよう姉さんたち」

「一括りにするんじゃありません」

「ちゃんと挨拶なさい」

「姉さん怒るわよ」

朝食を食べにダイニングへ入ると姦しいのが3人。僕の姉たちだ。長女の瑪瑙めのう姉さんは行動力抜群で僕たち姉弟のリーダー格。次女の柘榴柘榴姉さんと三女の葡萄ぶどう姉さんは双子。柘榴姉さんは明るくて元気。葡萄姉さんは賢くて冷静沈着。そして3人とも魔女だ。

「はいはい。瑪瑙姉さん、柘榴姉さん、葡萄姉さんおはよう」

「はいは1回でしょ」

「もっと心込めなさい」

「せめて面倒くさそうに言うのやめなさい」

面倒くさいなこの人たち。

ボケっとしながらトーストを咥える。姉さんたちがうるさいけどまあいいや。

「ちょっと透輝!」

「返事は?」

「トースト食べてないで!」

外野がうるさいが気にせずにトーストをかじる。もうすぐ最終兵器が来ると思うし。

「あんたたち!早く食べなさい!」

ほら来た。最終兵器こと、母さん。

僕が10歳の頃に父さんが亡くなり、そこから母さんが女手一つで僕ら姉弟を育ててくれた。まあつまり肝っ玉母さん。そして例に漏れず母さんも魔女。

間地夜家には現在5人の魔女が暮らしている。


高校へ行く足取りは重い。しかしながら今は7月。あとひと月もしないうちに夏休みだと思えばそうつらくはない。いや、つらい。そういうものだろう。学生なんて。

『とーき、元気だせ。デザートにプリンを作るよう母君に言ってあるから』

そう言うのはセレン。今セレンは魔術で姿を変え、小さなマスコットキーホルダーとして僕のリュックにぶら下がっている。

「僕、未だにプリンで機嫌直ると思われてるんだ…」

『違うのか?』

「いや、ちがくはないけど、」

そこまで言って僕は口を噤む。怪訝な顔をした男子高校生が僕を追い抜かして行った。

つい癖で学校でも僕はセレンと話してしまう。そのせいで僕は不思議くんというポジションが与えられ、友だちが少ない。というか、ほぼいない。唯一の友人は僕が魔女の血族の魔女だと知っている幼馴染の矢野という男くらいだ。しかし運が悪いことに2年のクラス替えで矢野とクラスが離れ、矢野に彼女ができた。ここにぼっちが誕生した。つらい。


「おい、こいつ昨日三組の池谷さんに告られたんだぜ!!」

「え、まじ?付き合ったん?」

「いやいや。俺は心に決めた人がいるから」

「絶対嘘だろ!」

「あはは、ほんとだって」

教室に入った瞬間に聞こえてきた会話に早くもげんなりする。クラスの一軍陽キャたちの会話だ。昨日三組の池谷さんに告られたらしいのが、このクラスのトップ、黒鷺くろさぎいち。イケメンで明るくて友だちが多くて運動神経抜群。天よ。2物も3物も与えるでない。不公平が過ぎる。周りでわーわー囃し立ててる奴の名前はぶっちゃけあまり覚えてない。黒鷺が色々とキラキラしすぎているせいだ。確か山本と川瀬とかいう奴だった気がする。

僕の周囲のうるさい人間は姉たちだけで十分なので、極力彼らに関わりたくない。というか僕は根っから陰キャなので関わったら光属性のオーラによって死んでしまう自信がある。

しかし何の因果か僕の隣の席は黒鷺壱途なのである。ふざけるな。神は死んだ。そうとしか思えない。

ギャーギャーうるさい奴らを尻目に僕はネットの世界へ旅立つことにした。

そう思ってスマホを開くと一番にネットニュースが目に飛び込んでくる。見出しは『吸血事件多発。吸血鬼の血族から身を守るには』『都内で食人事件。犯人は人狼の血族』『魔女の血族、魔法による交通混乱。その時現場では』といったものたちだ。

僕は魔女の血族であることを周りに隠している。幼馴染の矢野は例外だ。理由はこのような血族による犯罪や騒動が多いから。特に血や肉が主食の吸血鬼や人狼の血族は意識が本能に引っ張られがちで傷害事件を多々おこす。そのせいで現代社会において血族への偏見や差別は酷い。

もちろん全ての血族がそうという訳では無い。というより、ほとんどの血族が無害だ。魔女は魔法の行使をできるだけ少なくしているし、吸血鬼は代替ドリンクで我慢するし、人狼は鶏肉や豚肉を食べている。犯罪をおこす血族が少数派なのだが、それでも人の血族に対する嫌悪感は拭いきれない。人はきっと何かを敵にしないと生きにくくなってしまうのだろう。

「間地夜、おはよ」

「あ、お、おはよう…」

気がつくと隣に黒鷺が座ってにこにことこちらを見ていた。やめろ、微笑むな。眩しくて目が潰れる。

「何見てんの?」

「あ、えっとニュースを」

「えー、めっちゃ真面目じゃん。どんなニュース?見せてー」

そう言って黒鷺が僕のスマホの画面を覗き込んだ。近い。頼む。離れてくれ。女子から視線を感じる。やめてくれ。

「あー、吸血事件かー。え!現場ここから近いじゃん!なあ、吸血鬼の血族にニンニクって効くん?間地夜はどう思う?」

ニュースサイトを見たらしい黒鷺が僕に会話を振ってきた。

「え、えーっと、どうなんだろうねー」

いいえ。あまり効きません。少し匂いが苦手なだけらしいです。そう思いながら僕は思いっ切り棒読みで返す。

「あ、てかさ、」

その後も会話を続ける黒鷺。先生早く来い。ホームルームを始めてくれ。

僕はそこからホームルームが始まるまでの10分間、黒鷺と話し続ける羽目になったのだった。ガチで神は死んでいる。そうでなければ神は僕のことがかなり嫌いなのだろう。


今日も今日とて変わらない日常。朝からセレンを撫でて、母さんに怒られて、姉さんたちに絡まれる。学校でうだうだして、廊下ですれ違った矢野と世間話して、黒鷺に絡まれる。

平和だ。相変わらず姉さんたちも黒鷺もうるさいけど。

その日の放課後、僕が暇そうに見えたらしい先生に押し付けられた雑用を済まして廊下を歩きながらぼんやりしていた、その時。

『とーき!なんか厄介そうな話を聞いた!』

ふわふわのマスコットのまま、セレンが走ってきた。何も知らなければただのホラーだ。

「セレン?どうしたの?」

『とーきの教室でな、あのうるさい男どもがコクハクゲーム?がうんたらかんたらって』

僕は眉を顰める。あのうるさい男、というのはおそらく黒鷺と愉快な仲間たちのことだろう。それにしてもコクハクゲームって。

「どういうこと?」

『なんかそれぞれ告白するらしい』

僕は考え込む。でもそれって

「僕関係なくない?」

被害を受けるのは1部女子なんじゃないかな?

『いや、あの一番キラキラしいのが相手は間地夜って言っていた!』

僕はつぅっと背中に嫌な汗が伝うのを感じた。キラキラしいの、とはおそらく黒鷺だ。そして、このコクハクゲーム、というのは多分振られる、というのが条件なのではないだろうか。黒鷺が男の僕を選ぶとはそういうことだ。黒鷺が下手に告白すると女子は全員頷いてしまうのだから。

「よし、セレン。とっととずらかるぞ」

『ラジャ!』

そうしてマスコット状態のセレンを持ったまま走ろうとしたその瞬間。

「間地夜!」

僕は固まった。そのまま油をさし忘れたロボットのごとく、ぎこちなく振り返る。

そこにはキラキラしい男、こと黒鷺壱途が立っていた。

「間地夜、少し時間いい?」

『とーき、離れたところに他の男たちもいるぞ!』

セレンのその声に僕をぴくりと肩を揺らした。なんとしてでもこの状況を切り抜けなくては…。

「あー、えっとこの後ちょっと用があって、」

目を泳がせながら言う。おそらく説得力はゼロ。

「ほんとにちょっとだけでいいから。ね?」

イケメンが、ね?って言ってる。可愛い…じゃなくて。

「あー、えっと、」

「お願い!」

神よ。僕は弱い。


そうして僕は旧校舎近くの桜の木の下まで拉致られた。いや、連れてこられた。この桜にはジンクスがあり、この木の下で告白したら絶対成就するとかしないとか。

いややめろよ、黒鷺。ガチっぽくなっちゃうじゃん。

「あの、間地夜。えっと、前から間地夜のことが好きでした。俺と付き合ってください!」

予想出来ていた展開だが僕はフリーズする。イケメンの破壊力やばい。

さて。ここで僕には2つの選択肢がある。断るか断らないか。そしてこのコクハクゲームは推察だが振られることが前提。つまり。ここで僕がはい喜んでぇー!したら黒鷺はちょっと困るんじゃないか?僕の中の悪魔が囁く。天使は出てこない。だって僕魔女だもの。

「えっと、僕で良ければ…」

そうやって絞り出すように言ったけど。待ってめっちゃ恥ずいやばい死にたい。顔が赤くなる。やめろ。働くな毛細血管。

「っ!マジで!いいの!?」

何故か喜ぶ黒鷺。そして俺の手を握る。

「大事にするね」

えっと、待って。これもしかしてガチ告白?いやでも黒鷺みたいな完璧ヒューマンが僕みたいな陰キャに惚れるか?しかも男同士だし。うん。嘘告だ。そうに決まってる。

「あ、間地夜、LINE交換しよ?俺ら付き合ってるんだし」

「え、あ、うん」

僕はポケットからスマホを出し、黒鷺と友だち登録をした。

「ねえ、俺さ、付き合ってる相手にめちゃくちゃLINEとか電話とかしたいんだけど…間地夜は?」

「あー、家ではあんまりスマホ見ないから返信遅いかも。あと僕姉が3人いて、冷やかされそうだから電話もあんまり…」

「そっかぁ」

彼の頭に悲しげな犬耳の幻覚が見えたのはきっとぼくだけではない。

「あ、えっと、なるべくLINE返せるように頑張るね」

わたわたとそう言った僕に黒鷺はクスッと笑う。

「別に頑張らなくてもいいよ。でも返信あった方が嬉しいかも」

そう照れくさそうに黒鷺は言った。きゅん。いやなんだよきゅんって。


黒鷺と解散し、帰り道。

「なあ、セレン」

『なんだ?とーき』

「黒鷺のあれ、なんだと思う?」

『コクハクゲームなるものじゃないのか?』

「うーん」

それにしては態度がガチっぽい気がする。気のせいかな。もしかして付き合うことになったら長続きさせようって話だったとか?嗚呼。陰キャに恋はむずかしい。黒鷺、頼むから早く振ってくれ。


そんな僕の意に反して黒鷺との『お付き合い』は順調だった。

「間地夜、おはよう」

朝、教室に入ると一番に黒鷺が近づいてきて声をかけられる。

「おはよう、黒鷺」

僕がそう返すだけで黒鷺は嬉しそうに笑うので勘違いしそうになる。セレンが聞いた『コクハクゲーム』は本当は嘘だったんじゃないかって。

けれど使い魔であるセレンは主の僕に嘘をつけない。だからコクハクゲームという話は事実だったと考えざるを得ない。わからん解せぬ。

「間地夜、今日の授業さー、」

席につくと着いてきていた黒鷺が僕に話しかけてくる。僕は口下手なのであまり面白い話はできないが、黒鷺がとにかく沢山話す。けれど僕が何か話そうとするとちゃんと気を利かせて聞いてくれるし、いい感じの相槌を打ってくれる。そう。黒鷺とはとても話しやすい。そりゃあモテるよ。

放課後。僕と黒鷺と当たり前のように放課後デートだ。

なんでだよ。いやほんとに。黒鷺と会話して気づいたら放課後デートする流れになっているんだ。なんだあのテクニック。

「黒鷺、今日どこ行くの?」

ファミレスは行ったし、カフェも行ったし、公園ゲーセンもカラオケも映画も見た。いや盛りだくさんだな。付き合いたてかよ。

「あー、今日さ」

「ん?」

黒鷺がゴニョニョした後に覚悟を決めたように言った。

「お、俺の家、来ない?」

「へ?」

付き合いたての2人がお家デート。それはつまり?いやでもほんとに付き合ってる訳じゃないしな。

「あ、あ、でも、家に母親いるし、そんなにえっと、警戒しないで、大丈夫、だから…」

語尾がどんどん小さくなるのに僕は思わずふきだした。

「ふは、そんな慌てなくても。黒鷺の家ね。うん。行ってみたい」

「そ、そっか」

黒鷺がどこかほっとしたように見えたのは気のせいだろう。

という訳で本日は黒鷺家でお家デートとなった。


「どうぞ、入って」

「お邪魔しまーす」

黒鷺家は学校から徒歩20分ほどの場所にあった。でかい一戸建てだ。

「壱途、おかえり。あらお友達?」

家の中から綺麗な女の人が出て来た。おそらく黒鷺が家にいると言っていた母親だろう。黒鷺家の遺伝子強い。すごい。

「あ、母さん。ただいま」

「こ、こんにちは。間地夜透輝と言います。お邪魔してます」

「あらぁ。こんちには。壱途の母です」

黒鷺母がにこにこと僕に声をかける。笑った顔がますます黒鷺に似ていた。

「母さん。間地夜は俺の彼氏。友だちじゃない」

突然の爆弾発言に目をまん丸にする僕と黒鷺母。全く気にしていなそうな黒鷺。

「間地夜、行こ」

そう言った黒鷺に俺は拉致られ、(推定)黒鷺の部屋へ連れさらわれた。

「え、ちょ、黒鷺、」

「ん?」

黒鷺の部屋の中で、僕たちは向かい合って座った。黒鷺の部屋はそこそこ広くてきちんと片付いていて居心地のいい部屋だ。

「あれ、良かったの?お母さんに、彼氏って」

「あー、母さんはそういうの偏見ないし、攻略するなら母さんからかなって」

「攻略って」

ふと僕は気づく。黒鷺ほんとにガチなんじゃない?だって親に紹介って相当じゃないか?人と付き合うの初めてだから知らんけど。多分だけど。あのコクハクゲームはセレンの聞き間違いとか。そう思うと僕は急に恥ずかしくなりかあっと顔が赤くなった。

「間地夜どうした?顔赤いけど」

「あー、っとなんでもない。気にしないで…」

「そう?」

その後僕と黒鷺はゲームしたり、少し宿題をしたりしてなんだかんだ楽しく過ごしたのだった。

次なる事件が起こったのは僕が帰る頃。

「あ、もうこんな時間。僕そろそろ帰るね」

「送ってくよ」

「大丈夫だよ。結構近いし」

「んー、でも送らせて?俺がそうしたいんだ」

「ならいいけど…」

そうして僕と黒鷺は黒鷺邸を出て歩き出した。

「間地夜の家、どこら辺?」

「んーと、あのクソでかいスーパーの近く」

「え、結構ご近所さんじゃん。明日から一緒に学校行こうよ」

「いいよ。どこ待ち合わせにする?」

「じゃあ、あのクソでかいスーパーの前」

「わかった」

「間地夜」

「なに?」

「夏休みさ、花火大会行かない?この辺でやるやつ」

「いいよ。行こ」

「良かった。楽しみにしてる」

黒鷺は夏休みも僕と付き合ってくれるらしい。うわ、ほんとにガチ説出てきた。帰ったらセレンと話してみようかな。

そこから僕と黒鷺はグダグダとどうでもいい話をして、気づいたら僕の家までついていた。

「黒鷺、今日はありがと。楽しかった」

「うん。俺も」

僕が「じゃあ」と家に入ろうとした瞬間。黒鷺にグッと体を引かれて、抱きしめられた。そしてポカン、としているうちに、額に何やら柔らかい感触が。

「間地夜、また明日ね。じゃあ」

僕がフリーズしているうちに黒鷺はパッと体を離し、なんともスマートに退場して行った。

しかしあれは。僕の勘違いでなければ。

「で、デコチューされた…」

自覚した瞬間、僕の顔は一気に赤くなり、脳みそはショート状態だ。やばい。イケメンガチでやばい。

と、その時。

「あんた何してんの?」

聞き覚えしかない声に振り返ると、我が親愛なる葡萄姉さんが立っていた。

「ね、姉さん」

「他の2人には話さないでいてあげるから、姉さんに洗いざらい話しなさい」

そう言った葡萄姉さんの顔はまるで悪役の魔女のようで…というか魔女なんだけどさ。

「…はひ」

いつの世も姉は強く、僕は弱い。


葡萄姉さんの部屋に連行されたが、僕が他2人の姉に聞かれる可能性を熱弁すると、葡萄姉さんは面倒くさそうに自分の魔法を行使した。

葡萄姉さんの魔法は空間を作り出す魔法だ。葡萄姉さんが魔法を行使すると今までなかった新しい空間が生まれる。その空間は葡萄姉さんの好きなように扱えるので、空間を小さな部屋位のサイズにして防音にするなんて御茶の子さいさいなのだ。

姉さんと新たな空間へ入る。中にはローテーブルと座り心地の良さそうなクッション。姉さんが魔術で2人分のお茶をキッチンから持ってきた。

「ほら、飲みな」

「ありがとう。姉さん」

「で。どういうこと?あのイケメン誰?」

「えっと…。彼氏?」

「なんで疑問形なんだよ」

そうして僕は洗いざらい全て姉さんに話す羽目になったのだった。

話を聞き終えた葡萄姉さんは口を開く。

「つまり、コクハクゲームでふざけて告白したには相手の態度がガチに見える、と。そんでもって透輝は絆されかけていて、今日はデコチューされちゃったと。なるほどねぇ」

改めて言語化すると恥ずかしいなこれ。

「葡萄姉さんはどう思う?」

「さあ?」

葡萄姉さんは肩を竦めた。

「え、ちょ、せっかく全部話したのに」

葡萄姉さんは苦笑する。

「だからって私が全部お見通しな訳ないでしょ。ただ、セレンがコクハクゲームって単語を聞いたのは確かだと思う。使い魔は主に嘘をつけない。だからあるとすればそのコクハクゲームのルールが透輝が思っているルールと違う、とか」

「え、ふざける以外のコクハクゲームってなんだよ」

「まー、例えば罰ゲームとして好きな子に告る、とか?」

「好きな子って…」

「でも辻褄は合うんじゃない?」

そう言われてみるとそんな気がする。てことは、黒鷺は本当に僕のことが好き…?

「うあー」

僕は思わず頭を抱えて唸った。葡萄姉さんは僕をニヤニヤして見ている。

そしてふと葡萄姉さんは口を開いた。

「透輝」

「何?」

「相手に自分が魔女の血族ってこと言ってある?」

僕は思わず黙り込んだ。

「透輝。話を聞く限り相手は良い人そうだし、血族に酷い偏見とかは無いかもしれないけど、長く付き合いたいなら言っておいた方がいい。中には血族だからってだけで振るような人もいるんだから」

「…わかってる」

未だに血族に対する偏見も差別も存在している。僕が本気で黒鷺と向き合うならば絶対に言わないといけない。

僕はそっと目を伏せた。葡萄姉さんは何も言わなかった。

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