遥悠久のフランシア

Old Boy 老青年

プロローグ

青い光が差し込む大聖堂


マッサリアの町には、空にそびえる荘厳な大聖堂がある。その高い尖塔が雲に届くとき、この地はまるで天の端に手を伸ばしているかのように思える。この大聖堂には、昔から数多の噂が絶えなかった。


ある者は語る――この大聖堂は、かつて町を支配していた暴君の城を、市民たちが怒りの末に焼き払い、その石を積み直して建てたものだと。

またある者は言う――異教徒の王が罪を悔いて莫大な金貨を寄付し、その財宝で建てられたと。

さらに、一部の者たちは囁く――この大聖堂の地下深くには、かつて王の冠を飾った宝石や、見た者が狂気に陥る鏡が封じられているのだと。


これらの噂は真実か、それともただの空想か。それを知る者は誰もいない。ただ、この地に住む人々の間では、いつしかこう言われるようになった――「この大聖堂は、祈りと秘密を等しく宿している」と。


そんな大聖堂の中では今日も子どもたちの声が響いていた。


「ねえねえ、司教様! 今日も不思議なお話を聞かせてよ!」

小さな子どもたちが司教の周りに集まってくる。その顔は期待と好奇心に満ちている。司教は大きな古い椅子に腰を下ろし、微笑んで杖を軽く床に突いた。


「いいかい?私の話を聞くのもいいが、君たちは聖書の勉強をしにここにいるんだぞ?」

隣にいる若い牧師がそう言って、笑いながら子どもたちを軽く宥める。だが、司教は穏やかに首を振った。


「良いではないか。私の話は聖書につながるところもある。ほら、信仰の種というのは、どんなところにでも根を張るものだからな。」


子どもたちは歓声を上げた。そこへ、ツールズ村のマリーが一人の黒髪の少女を連れてきた。


「司教様、この子をお連れしました。この子、どうやら隣の国で異教徒狩りがあったみたいで、私の村で保護したんですの。」


司教はゆっくりと少女を見た。その子は年端も行かぬ華奢な身体で、震えるように立っていた。美しい黒髪は、教会の大きなステンドグラスから差し込む青い光を淡く反射し、彼女の周囲に一種の神秘的な輝きを生み出している。


「名前は?」


「……」


少女は口を開かず、ただ小さく首を振る。マリーがそっと囁くように説明した。

「名前を言うと誰かに知られるのが怖いみたいで…。」


そのとき、春の匂いがふわりと漂い、司教の胸に一つの記憶が蘇った。それはまだ若き日、遠い人生の途上で出会ったある碧髪の少女の姿だった。彼女の瞳に宿る光、その奥深くには、何か決して消えない炎のようなものがあった。司教はゆっくりと息をつき、手を差し伸べた。


「安心しなさい。この場所は、君のような迷い人を守るためにあるんだよ。」


少女はわずかに手を伸ばし、司教の手を取った。その瞬間、どこからともなく鐘の音が響き渡った。


「司教様、今日の話は最初からしてくださいませんか!」

子どもたちが口々に言う。新しく加わった黒髪の少女も、何か期待するような目で見上げている。


司教は再び杖を突いて椅子に深く腰を下ろした。

「では、もう一度最初から話そう。」


青い光がステンドグラスを通じてゆらめく中、司教の声が低く響く――それは、この大聖堂とその周囲に秘められた謎と不思議の物語。

そして、この小さな黒髪の少女が、未来にこの噂とどのように関わっていくのかは、まだ誰も知らない。


物語のプロローグはこうして始まる。

秘密と祈りが交差するマッサリアの大聖堂で。

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