『ドキドキ試験勉強』研究レポート

村田鉄則

『ドキドキ試験勉強』

 私の両親が今日、長い話し合いを経て、離婚した。理由は私の母の不倫。私の父は日常的に暴力を振るうひどい奴で、いわゆるトーヘンボクでもあった。不倫する母の気持ちは子供であり同じく暴力を受けていた私からしたら、ひどく分かった。

 今日から私たちは自由の身だ。この開放感をさらに高めるために、クソ父親サラバ打ち上げ会を家の近所にある喫茶店で開くことになった。どでかいスイーツを食べながら母と色々と話す。その中で、母が(元)不倫相手を紹介すると言った。その相手はシングルファザー。とても優しく、大人しめの人で、近々結婚も考えているらしい。ここまでの話を聞きながら私はスイーツを頬張りながら、満面の笑みを浮かべながら、肯定的に受け取っていたのだが、次の母の台詞を聞いて、含んでたそれを盛大に目の前にある机に吹き出してしまった。

「ああ、後、実は花村類はなむらるい君のお父さんなんや」

 花村類!!?それは、私の高校に通う女子で知らない人は居ない人物だった。花村類は私の同級生であり、人気俳優。雑誌でモデルもしている。くっきりとした二重まぶたと、見ているだけでうっとりする大きな瞳、柔らかそうな唇、鼻筋の通った鼻、雪のように真っ白な肌、光を反射して煌びやかに輝く栗色のウルフカットの髪、そのスラッとした長身も合わさって、まるで漫画の中のキャラクターのようなその容姿は見る人の目を惹いた。

 いや、類君と一つ屋根に暮らすってこと!!?現実とは思えない!しかも、明日から相手の家に私たちは引っ越すことになっているらしい。展開が早すぎるだろ!

 私は、その日の夜、頭がフットーするくらい興奮しすぎて眠りにつけなかった。

 次の日の朝、隈を化粧で消して、相手の家に向かう。契約期間の関係上、しばらく私たちの住んでいた自宅マンションは借りたままにするので、最低限の荷物だけスーツケースに詰めて行った。電車で北に三駅行った先にある高級マンションの一室が相手の自宅だった。合鍵を母は持っていたため、そのままラウンジに入り、エレベーターで上がる。エレベーターの位置が高くなるにつれて私の心臓の高まりも高くなる。私の部屋のチャイムを押すと、男の人が出てきた。一瞬、類君に見えたが、眼鏡をかけており、目元と口元に皺があり、違った。類君のお父さんだった。類君はかなりお父さん似なんだなと思った。挨拶を交わし、リビングに入った。

「今日は日曜日だから、類のやつは生放送の情報番組に出るから・・・帰ってきても夜かな・・・」

 類君のお父さんはそう呟いてから、キッチンに向かって料理を私たちに作ってくれた。昔ながらのナポリタンでとってもオシャレな見た目で味もおいしかった。その後、世間話や類君の話をして、いつの間にか夜になっていた。どでかいテレビ付きのお風呂に入りながら、今日の出来事を思い返す。類君のお父さんはとても優しい人で私の(元)お父さんとは全然違う。月とすっぽんくらい違う。というかお父さんとの話で知ったが、類君が蛇が怖いなんて意外だった。子供らしいところもあるんだ。そう思い、微笑む。これから楽しい日々が始まる予感がした。

 お風呂を終えて、脱衣所に出る。その次の瞬間私の思考は停止した。そこには・・・脱衣所のドアを開けてあんぐりと口を開けた類君が居た。類君は私と目線が合うやいなや、爆速でドアを閉めた。

 私の頭はまたフットーしそうになった。

 類君に恥ずかしい姿をさらしちゃった・・・


「類、お前なんで脱衣所に入ったんだよ」

「いや、手を洗おうとしただけだし・・・そうしたら、こいつがいて・・・」

「こいつってなんだよ!女の子に失礼だろ!」

「はいはい。芽衣子めいこさんが居たんだよ」

 類君の行動に対して家族会議が始まった。類君に対して類君のお父さんは少し怒っていたが、しかしながら、怒りの表情からも少し優しさがにじみ出ているのでおもしろい。

 類君は私が思ってた以上にドSな性格なことがその態度から見て取れた。爽やかな好青年のイメージがあったが・・・いやギャップが良いかも・・・ってか私の名前覚えてくれていたんだ。

 部屋に入って胸のドキドキを抑える。

 が、それも束の間、あることに気づいた。

 隣の部屋から声がする!

 そう、類君の独り言や聴いている音楽や観ている動画の音声が壁が薄いからか突き抜けていたのだ。

 私の興奮はまた高まった・・・

 次の日、類君は学校へ来なかった。お父さんから聞いたところ仕事らしい。売れっ子は忙しいなやっぱり。しかし・・・もうすぐ期末試験なのに大丈夫なのだろうか?

 その日の夜、類君の「期末試験メンドクセー!」って声が壁から聞こえた。私は勇気を振り絞って彼の部屋のドアをノックした。

「なんだよ!芽衣子か?」

 もう呼び捨てかいな・・・と思いながらも、そろーっとドアを開ける。

「も・・・もうすぐ・・・k・・・き・・・期末試験じゃないですか・・・rる・・・類君は仕事で忙しいみたいだけど、勉強大丈夫なんですか?」

 どもりながらも何とか伝えた。類君は睨みながらも、少し笑みを浮かべた。

「助かるぜ!」

 私は人より勉強が少しできる。友達が少ない私の少ない取り柄の一つである。

 顔が近過ぎ!

 類君の隣で、私は興奮から体温を上げつつも、どうにか期末試験の勉強を教える。類君は、どの教科も壊滅的に理解に乏しかった。忙しいから出席率が低いから仕方が無いとはいえ、ここまで悪いとは思ってなかった。私は言葉を詰まらせながらも、試験範囲の内容における覚え方のコツを教える。そのたびにセンキューと類君には感謝された。

 類君との勉強が終わったその日の夜は、興奮に対する疲れがドッと出て、すぐ寝られた。ああ・・・私のこれからの日常、最高かもしれない!

 

 ※※※


「はあ・・・何度見ても理解に苦しむ・・・」

「21世紀ではこういった物語が流行ってたんですかね?」

「22世紀の今では考えられない話だな」

 全身、真っ白な保護スーツに包まれて顔が見えない我々は話し合っている。100年前に起こったウイルス、通称”夢侵し《ヴァイオレイト ドリームス》”パンデミックにより不治の病にかかり、未来に希望を託し、試験的に第一号被験者としてコールドスリープされたその少女は夢を見続けていた。夢を延々と見続けて目が覚めないというのがこの病の特徴だ。夢見鏡むげんきょうで、夢の中の映像を読み取ったが、それは22世紀の我々には理解しがたいものだった。ユメクイ、バク、など様々な”夢侵し”に対する治療薬を空気投与で試したが、彼女の夢は強く、意味をなさない。電気ショックや神経パルスを行いもしたが、依然彼女は夢の中。何をやっても起きない彼女に対して我々は頭を抱えていた。

 彼女の夢の中の映像は十五分を期にループを続けている。十五分はちょうど、花山類という青年に試験勉強を教える場面である。彼女の脳の思考回路を読み取って文章に起こしたのが前述の文だ。『ドキドキ試験勉強』というタイトルは文書AIにこの文章にタイトルを付けるとき何が良いか?そう聞いたときに出てきたものだ。この夢がもしも現実の出来事だとしたら、花山類と夢を見る少女芽衣子に、記憶を忘却させる、もしくは、夢に反映させたくないような出来事がその後あったのだろう。

 幸せな夢を永遠と見続けることは幸福ではあるが、同時に現実を捨てることでもある。”夢侵し”は現実まで侵す、一種の死後の世界なのかもしれない。

 (『ドキドキ試験勉強』研究レポート:3020字)

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