いきもの検定

海空

ナニソレ

「クズ男の馬鹿! 最低! あんたなんて人間じゃない!」


 ちょっと遊んだアサちゃんが走り去った。最後に置き土産のグーパンを置いて。アサちゃんの拳は鼻骨にクリーンヒット、俺はその場に崩れ落ちた。かわいい顔してこの力、詐欺じゃねぇ?


「クズ男くん、クズ男くん」


 うずくまる俺の頭上からじいさんが声がした。また一部始終を見ていた見物人が、妙な正義感から説教しにきたか?


「見せ物じゃねぇよ」


「君ね、『クズ男』100万回クリアしたよ。だから人間失格ね。何かいきものでなりたいものある? もちろん人間は駄目だけど」


 鼻血を垂らしながら顔をあげると、長い白髭と白髪、ゆるゆるの浴衣を着たじいさんが後光を浴びて立っていた。


 誰?


「あ、わし神様ね」


 状況はわからないが、とりあえず近くを歩いていた黒猫を見て、


「あー、じゃあ猫で」


 と言ってみた。すると俺に気付いた黒猫が寄ってきて俺の鼻先に猫パンチを食らわした。


「『じゃあ』だと!? 猫を馬鹿にしてるのか? なら試験だ、ネズミでも鳥でもなんでもいい、10分以内に捕まえてこい。それが出来たら猫として認めてやる」


 猫の言葉がわかると思ったら、俺は猫の姿になっていた。

 10分後、元人間だった俺にそんな高等スキルは無く、試験は不合格。黒猫から「お前はノミにでもなるがいい!」と言われ、俺はノミになった。


「適当に何かについて一生楽して生きるかな~」


 すると、鼻先に痛みが走った。


「おい、『楽して』だと? お前ノミをなめてるのか? なら試験だ、あの黒猫にくっついて血を吸ってこい」


 俺の鼻先を針で刺したのはノミ先輩だった。


 黒猫にくっつくのは簡単だった。昼寝中に忍び込めばいいだけだから。ところが、その先は人間の意識が邪魔をする。


 う、獣臭い。ここ刺すの? え、血を吸うの? え、グロ~い。

 そうこうしてるうちに10分が過ぎた。


「ノミっちゅうもんはな、体についてから8分以内に吸血するもんじゃ。お前はノミ試験失格じゃーーー!」


 そして俺はまたクズ男に戻った。


「クズ男くん、君、他のいきものから先にお断りが来てるから特別に人間に戻してあげる。これからは真っ当に生きるんだよ」


「……だな」


 俺は心底そう思った。

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いきもの検定 海空 @aoiumiaoisora

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