『料理人』の能力を授かって人知れず召喚された僕は、冒険者の試験を余裕で突破する

温故知新

『料理人』の能力を授かって人知れず召喚された僕は、試験を余裕で突破する

「いよいよだな」



 剣と魔法の世界に『勇者』と呼ばれる同郷達が召喚されて人々が歓喜していた中、人知れず召喚された僕は、この1年、女神様から授かった能力を磨き、この世界に関する知識を頭に叩き込んだ。


 全てはこの日のため、そして、この世界に来て抱いた夢を実現させるため。




「おっ、リッキーじゃないか! 今日も冒険者ギルドで勉強か? それか、酒場で暇を持て余している奴と鍛錬か?」

「こんにちは、グレオさん。いえ、今日は試験を受けに来ました」

「試験? もしかしてお前、まだ冒険者じゃなかったのか!?」

「えぇ、実は」



 毎月行われている冒険者になるための試験。本当は、この世界に来て半年後に受けようと考えていた。


 けれど、女神様からスキル『料理人』を戦闘スキルとして使いこなすのに時間がかった結果、この世界に来て1年後の今日、試験を受けることになったのだ。


 まぁ、元の世界で料理好きだった僕は、この世界に召喚された最初の頃は、この世界で料理人として生きようと思っていた。


 けれど、冒険者ギルドに足を踏み入れ、幾多の死線をくぐり抜けた冒険者たちを見た時、僕はある夢を抱いてしまった。


『せっかくの異世界! どうせなら、自分が仕留めたモンスターを自分の手で調理して食べてみたい!』という無謀な夢を。


 とはいえ、僕が授かった能力『料理人』はお世辞にも戦闘向きの能力ではない。


 というのも、女神様から授かった能力『料理人』は、食材を触っただけでそれがどんな食材かすぐに分かるだけでなく、その食材に相応しい処理方法や調理方法かも分かってしまう。


 また、初めて見る調理器具も触っただけで使い方が理解出来るなど、とにかくこの世界で料理人として生きるには十分すぎるチート能力なのだ。


 けれど、それを武器に戦おうとすれば間違いなく僕がモンスターの食材になるので、で、それを戦闘用として使うには並大抵の努力が必要だった。


 それでも僕は、異世界主人公が抱きそうで抱かなそうな夢を実現させようと、ギルドに隣接している酒場でバイトをしながら、そこで仲良くなった冒険者から色んなことを学んだり、鍛錬に付き合ってもらったりした。



「そ、そうか。まぁ、落ちて何度でもチャンスはあるから肩の力を抜いて頑張れよ!」

「はい!」



 太陽のような眩しい笑顔のグレオさんに励まされ、僕は念願だった冒険者になるための試験に望んだ。


 1次試験である筆記は、冒険者の皆さんに教えてもらったり、近くの図書館で勉強していたお陰で難なくクリアした。


 そして、最終試験であるギルド長との一対一の対戦実技では......



「スキル『三枚おろし』!」

「うぐっ!」



 ギルド長の剛腕から繰り出される攻撃を難なく交わした僕は、鍛錬で培ったスキルを試験用の木剣を使って叩き込んだ。


 すると、顔を顰めたギルド長が片膝をついた。



「えっ、ちょっ!」

「おい、リッキーのやつ、かつて『最強』と謳われたギルド長に膝をつかせたぞ」

「あぁ、俺も何度か鍛錬に付き合ったが、あんなに強いとは思わなかった」

「もしかしてあいつ、実は勇者パーティーの一員じゃなかったのか?」

「まさか、勇者パーティーの一員だったら、とっくの昔に魔王討伐に行ってるだろう?」

「それもそうだな! 一先ず、リッキー! ナイスファイトだった!」



 まさか、『伝説の冒険者』と呼ばれていたギルド長に膝をつかせるとは思わなかった僕は、仲良くなった冒険者たちからの祝福に戸惑っていた。


 すると、立ち上がったギルド長が晴れやかな笑顔で僕に手を差し出した。



「おめでとう、リッキー。まさか、一撃でこの俺の膝を地面につかせるとはな!」

「あ、ありがとうございます。ギルド長」



 戦々恐々としながらもギルド長と握手を交わした僕は、思っていた以上に余裕で試験に合格し、晴れて冒険者を名乗ることが許された。


 そして、この出来事が勇者パーティーの耳に届いて、僕が彼らの一員になるのはもう少し後の話である。

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