魔法学院の試験対策

RIKO

第1話 二週間前

 魔法学院。そこは魔法の国の将来を担う魔法使いの卵たちの学び舎だった。


「うわぁぁん!どうしよう。卒業試験まであと二週間もないのに、”秘められた言葉の建築術”が全然覚えられない!」


 生徒の一人、アウラは学院の食堂で頭を抱えていた。自慢の銀髪はバサバサ、サファイアのような輝きと同級生から称えられる瞳は、寝不足でショボショボだ。


 その時、


「アウラ、大丈夫?”秘められた言葉の建築術”なら、僕が教えようか?」


 声をかけてきたのは、アウラの双子の弟、アウルだった。


 アウラとアウルは共に17歳。同じ顔、同じ背丈だが、は全く違った。アウラアウルをまんじりとした目で見つめた。


 何で見た目は同じなのに、中身はこんなに違うのよ。

 アウラは鼻を鳴らして言った。


「別にいい。自分でできるから」

「でも、心配だな。今度赤点取ったら、留年だろ? 卒業だってできやしない」

「そう思うなら、試験問題を教えてよ。あんたがお得意のでさ」

「あー、それ、禁止されてるんだ。不公平だからって、ほら、これ見て。先生がはめとけって」


 そう言って、アウルは姉に手首の魔法制御用のブレスレッドを見せた。プラチナの素地の上に魔法グッズ独特の琥珀色の光が浮かび上がっている。


「これ、座学の試験が終わるまでは、先生でないと外せないんだって」

「あっそう。なら、優等生さんは、もうあっちへ行って。勉強の邪魔!」


 ふん、私みたいな微弱な魔法しか使えない生徒には、そんなご大層なブレスレッドの配給は、なかったけどねー。


 一度へそを曲げたアウラは、アウルが何を言っても聞く耳を持たなかった。


「わかった、わかった。でも、今は、試験のポイントを高確率で予想してくれるアプリもあるから、一人で悩んでないで、色々とネット検索してみたら?」


 そう言って、アウルは肩をすくめて食堂から出て行った。


* *


 食堂に残されたアウラは、"本日のおすすめB定食"を食べながら、タブレット端末を眺めていた。ちなみにB定は、『あんかけチャーハン、マンドレイクを添えて』だ。


「う~ん、なにか、らくして高得点が取れそうなアプリはないかなぁ」


 魔法使いがネットに頼るのもどうかと思うが、今はアウルが言うように、下手な魔法を使うより、この方が手っ取り早い。  


 画面を指でスクロールしながら探し続ける。 すると、


「あっ、これ、良いっ!」  


 その時、たまたま画面に表示された通販サイトのバナー広告。アウラの目はそれに釘付けになってしまった。


――― ――― ―――


【学習革命!これさえあれば大丈夫!】


『ウェアラブルメガネ』があなたの勉強を完全サポート!

 このメガネをかけて、解きたい問題にレンズを向けるだけで、即座に正確な答えがあなたの頭に浮かび上がる。


*通常価格から40%オフ!*

*数量限定!売り切れ次第終了です!


★あなたの学習の最強パートナー、「ウェアラブルメガネ」で未来を変えよう!★


――― ――― ―――


「やったっ、このウェラブルメガネをかけて試験に臨んだら、赤点回避どころか、満点だって夢じゃないわ」


 アウラは迷わず、購入のボタンをぽちっと押した。しかし、絶対にメガネの機能を先生に知られてはならない。


「そうだ、試験の日に突然、メガネっていうのも不自然だし、明日、商品が届いたら、視力が悪くなったことをアピールしとかないと」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る