第2話 偶然の出会い
夜が明けると岩場の空洞では鞄を開け、何かを探す少年の姿があった。少年は鞄から巻かれた羊皮紙を取り出し、留めてあった紐を外す。そこにはクタルカ帝国領内の地図が書かれており、少年の故郷から皇都ラグジスへの矢印が書き込まれていた。
旅立ってからもう七日は砂漠を歩いた。おそらく砂漠の中腹は越えただろうか。そうとなるとこのままもう少し歩けばラグジスと交易都市ノイザントを繋ぐ街道に合流できるはずだ。ラグジス魔法学院の入学試験日まであと五日。ギリギリだけど日数は十分だ、間に合う。
少年は地図を見ながらそう考え込み「よし」と小さく納得すると地図を巻く。しっかりと紐で留めるといつでも取り出せるよう鞄に挿し、重たい鞄と背丈ほどある長い杖を背中に背負う。そして口元にしっかりとスカーフを巻き、この空洞にたどり着いた時と同様に目深にフードを被った。
腰をかがめ、空洞から出ると「ありがとうございました」と岩場に向けて軽く頭を下げ、街道へ向けて少年はまた歩き出した。
岩場を出発して二時間は経った頃、少年が起伏の小さい丘陵を抜けると正面に薄っすらとだが、確かに街道を見つけることができ、少年は安心からか「ふぅ」と息を漏らし、胸をなでおろす。
ようやく街道へたどり着くと背負っていた鞄に手を回し、先程しまった地図を取り出した。進んできた方向からラグジスの方向を確認し、もう一度挿し入れるとラグジスへ向けて歩みを進める。
少年が街道を歩き始めて一時間。次第に木や草といった緑や行き交う人が見えるようになっていき、七日ぶりのその光景に少年は「もうすぐ皇都にたどり着ける!」と内心どうしようもなく心躍らせていた。まぶしい太陽の光を遮る背の高い木。砂が舞うことのない心地いい風、それに乗って香ってくる木々の香り。どこからか響いてくる動物たちの鳴き声。どこにでもあるありふれた景色。しかし、そんな光景に少年は旅の楽しさを見出していた。
そんな心地よさに浸っていると蹄と車輪の音と共に「おーい」と叫ぶ声が後ろから聞こえてくる。何かあったのだろうかと少年が振り向くとこちらに手を振りながら、
「どうした坊主!こんなところで一人でどうしたんだ!?迷子……ってわけじゃなさそう……だな……」
そういうと男は手綱を握ったまま「よかったぁ……」とうなだれた。
「どこか行くのか?場所によっちゃあ、途中まででも乗せてってやるぞ」
「えっと、ラグジスに行こうと思って……」
「おお、皇都か!それなら目的地は一緒だな!ちょっと狭いが乗ってくか?」
男は荷台のほうへ目線を送り、少年の入れるスペースがあることを確認しながらそう言う。
「え、そんな、いいの……?」
唐突な話と男の勢いに少年は困惑していた。
「おうよ!いくら街道とはいえ、子供一人じゃ危ないだろ?あ、もちろんお代はいらないぜ?どうするよ?」
「じゃ、じゃあ、お願いします……!」
男はニカッと屈託のない笑顔で
「おう!早く乗りな!」
と言った。そう言われると少年は馬車の後ろに回り、初めて乗る馬車というものに緊張しながらもワクワクしながら荷台へ乗り込んだ。
僕は今日旅に出る 青いアサリ @AoiAsari
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