ダンジョン攻略は職業が大事

「星羽ミハル(母さん)」と「イモータル・リュウ(俺)」とのコラボ配信については、事務所の方で話が進んでるようだった。


「……アキ、ここだけの話だぞ。絶対に口外するなよ」


「大丈夫、大丈夫。あたしを信じてよ♪」


「信用できないんだよなぁ。アキは口が軽そうだから」


「心外~~~!

 あたしがお兄ちゃんを困らせるようなこと、したことある?」


「無いな。お前は手のかからない妹だよ」


そういう意味では、一応はしっかりしてるか。


「にひひ。っていうか、もう言ってるようなもんじゃん。お兄ちゃん、ミハルちゃんとコラボ配信するんでしょ?」


「……ああ」


「やっば! ミハルちゃんとコラボとか楽しみーっ! これでお兄ちゃんも人気配信者の仲間入りかもだよ。で、で、コラボしたら何するの?」


そうだな――その辺については母さんとも話をしたところだ。


「今の俺が困ってるのはステータスが低くて満足にレベルが上げられない点だろ? そこで、ミハルさんが俺のレベル上げに付き合ってくれることになった。冒険者同士でパーティを組めば、倒したモンスターから得られる経験値は折半になるからな」


「パーティまで組むんだ!? あのミハルちゃんが!」


アキは大げさに驚いてみせた。

その様子を見て、俺は「星羽ミハル」のWikipedia記事を思い出す。


「そういや、ミハルさんってこれまでソロ攻略専門だったんだっけ」


「うんうん。そう考えると、お兄ちゃんみたいな小理屈と悪知恵がきくタイプがミハルちゃんと組んでくれるのは、エンゼル(リスナー)としては嬉しいかも」


「それは、どうしてだ?」


「まぁ……実際に組んでみたらわかるよ」


「ほう……?」


「ミハルちゃんのソロ攻略手法――ミハミハスタイルはホントにすごいんだけど、リスクの方もデッカいっていうか……あのミハルちゃんだから、ギリギリ成立してるって感じで。あたし達も、いつか危ないことになるんじゃないかと思ってたんだ」


「昨日のグリーンドラゴン戦が良い例だな。あいつは物理攻撃がほとんど効かないモンスターだから――いくらミハルさんが優秀な冒険者でも、戦士職だけでは詰みかねない相手だった」



本来のダンジョン攻略は、いわゆる三大職業――

戦士職、

回復職、

魔法職、

これらを配分した三人一組スリーマンセルが最小単位とされる。


俺の盗賊シーフと母さんの狂戦士バーサーカーはどちらも戦士職だ。

戦士職は物理攻撃に長ける分、魔法攻撃は不得手とする。


一方の魔法職は戦士職の逆で、魔法攻撃が得意だ。


ちなみに回復職はHPの回復に優れている。

パーティの要となる存在だ。


実際には戦士職の中にも魔法攻撃を得意とする魔法剣士ネオといった上位の職業(クラス)があったりして、より細分化されていくのだけど――



俺がグリーンドラゴンの話題を出すと、アキは眉をしかめた。


「うーん……その辺はちょっと、違和感があんだけどね」


「違和感?」


「あのモンスターって、物理攻撃に対する防御力がとんでもない奴なんだよね。でも、そういうヤツだって何度も殴ればちょっとはダメージは通るはずだし……いつものミハルちゃんだったら、そういう相手でもゴリ押しで倒してきたんだよ」


「そ、そうなのか……」


流石はA級冒険者。

Wikipediaの記事にも「パワープレイ」がどうとか書いてあったな。


「お兄ちゃんが配信してるときに、あたしも調べてたんだけどさー。そもそも、本来はあんな浅い階層にA級モンスターが出るなんて、ありえないじゃん?」


「まったくだ。適正レベルからしたら無理ゲーもいいところだな。せいぜいはD級が限度のはず――」


そう考えると、だ。


「あれはかもしれない、ということか」


「ネットにも考察動画が上がってるから、あたしもチェックしてみるね!」


ここで俺はふと思い出した。


「そういえば、経験値の確認をしてなかったな」


昨日は雑魚モンスターを狩ってレベル上げをしていた。

グリーンドラゴンの討伐も――あの時は母さんとパーティを組んでなかったから、ダメージ率からしても俺の単独討伐扱いになっているはずだし。


「経験値もだいぶ貯まってるんじゃないか?」


俺はスマホを開いて『メイズポータル』を起動した。



『メイズポータル』はダンジョン公社が配信しているスマートフォン用アプリだ。

ログインできるのは冒険者資格を持つ者だけ。


地図アプリと連動したダンジョン出現予報や、現役冒険者ランキング、データ登録済みのモンスターならいつでも呼び出せるモンスター図鑑、冒険者が情報交換やパーティ募集に使うアプリ内SNSなど、様々な機能が搭載されている。


現代においては冒険者の必需品だ。


『メイズポータル』には自身のステータスを表示する機能もあり、獲得した経験値はここから確認できる。


「(どれどれ――)」



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Dネーム:イモータル・リュウ

本名:以東 涼

性別:男性

年齢:18歳

ランク:E級

レベル:3

HP:52

MP:49

クラス:「盗賊シーフ

ユニークスキル:【影下分身シャドウメーカー

獲得経験値一覧:

【ポップスライム】

【ポップスライム】

【コボルドウォリアー】

□□

【ポップスライム】

【グリーンドラゴン(U)】

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※C級への昇格が可能です!

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「……な、なんだこれ」


思わずスマホを取り落としてしまい、隣にいたアキが「あっぶなっ!」と身を乗り出してキャッチする。


「どーしたの、お兄ちゃん!?」


「グリーンドラゴンを倒したことで、すげぇ経験値が貯まってる」


アキは手にしたスマホを覗き込む。


「うわ、マジだっ! C級冒険者に昇格可能だって!」


「A級モンスターを1体狩るだけで、こんなにレベルが上げられるようになるんだな」


「…………?」


アキはスマホのボタンを同時押しして画面をスクリーンショットした。


「おにーちゃん。後でこのスクショ、あたしのスマホに送っといて」


「? あ、ああ……」


ともかく、これで一つの懸念点が無くなった。


いくら母さんとのコラボとはいえ、人気配信者である「星羽ミハル」をE級冒険者のレベル上げに付き合わせる、というのは恰好がつかないものだが……C級なら、まだ見栄を張れるというものだぜ!



「となると。

 明日はダンジョン公社に行かないとだな……」

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