家族会議

ダンジョンにて、人気配信者の「星羽ミハル」を助けた翌朝のこと。


「仕事」を終えた母さんが朝帰りをしたので、俺は簡単な朝食を作って出迎えた。


「母さん、お帰り。飲み物は牛乳でいい?」


「ありがとう、リョウちゃん。

 そうね……コーヒーをもらえる?」


俺はパックのコーヒーを取り出して、コップに注いだ。

今日は家族会議をすることにしている。

カフェインを摂って眠気を覚ましたいのだろう。


「いただきまーす」


母さんは手を合わせて、朝食を食べ始めた。

以東家では家事は俺の担当となっている。


俺たち以東家は、

この俺、以東 涼(リョウ)と――

中学生である妹の亜希(アキ)――

そして母親の春子(ハルコ)の三人家族。


アキが小学生の頃に父さんは亡くなった。

それから母さんは女手一つで俺たちを育ててくれた。


「(母さん……本当に頑張ってくれたんだよな)」


母さんは「仕事」の内容を明かしたがらなかった。

毎日、夕方になると出かけていって、朝になると疲れた様子で帰宅する。子供心に、息子に言いづらい「仕事」なのだろう――と察することは出来た。


母さんは、とてもきれいな人だったから。

息子という贔屓目抜きにしても、とても、若々しくて美しい女性ひとだったから。


「(俺も、深く詮索するのは止めた)」


稼ぎは良かったらしい。

俺たち一家は東京都内、中央線沿線の栄えた地方都市のマンションに居を構えて、何不自由のない生活を送らせてもらった。


俺は高校を卒業してからは、すぐにでも就職するつもりだった。

少しでも早く、家計を支える力になりたかったから。


ところが――


母さんは大学に通った方がいいと薦めてきた。

学費は心配しなくていいから――いまどき、大学くらい出てないと大変でしょ――と、まるで年寄りのようなことを言うのだから笑ってしまったけど。


とてもありがたい話だった。

なのに……俺は……失敗してしまったのだ。


「(本命校はおろか、滑り止めすら落ちるなんてなぁ……!)」


大学受験に落ちた俺は浪人生となり――

仕方なく、来年の受験に向けて備えることになったのだった。


「(俺が家事を担当してるのは、その辺もある。まぁ、ガキの頃からずっとやってたのもあるんだが……)」


「ごちそうさま。美味しかったわ、リョウちゃん。

 いつも、ありがとうね」


「母さんも、……お疲れさま」


俺が意味深に言うと、母さんの笑顔が固まった。

母さんはそろそろとアキの部屋の方を見る。


「アキちゃんは……?」


「アキなら学校行ったよ。

 じゃ、ご飯も済んだならやっちゃうか」


食洗器に食器を手早くセットすると、俺はスイッチを入れる。

ガコン……ガコン……と音を立てて、食洗器が動き出した。



「――家族会議を、始めよう」



議題は、母さんの「仕事」についてだ。

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