ダンジョンで助けた美少女配信者が、母親!!!
秋野てくと
底辺配信者、美少女ヒロインを助ける……?
俺の平凡なホームドラマは、
ある日、めちゃくちゃなことになった。
運命のドアはこうして扉を叩く。
プロローグの話をしよう。
「誰か、助けてーっ!」
いつものようにダンジョンの浅いところで雑魚モンスターを狩っていた俺は、ダンジョンの奥の方から響く、女の子が助けを求める悲鳴を耳にした。
配信中のスマホのコメント欄に通知が来る。
:お兄ちゃん!!1!
:はやく
:たすけにいかないと
「お兄ちゃん、は止めろって。
ネットは誰が見てるかわからないんだぞ」
俺の方にカメラのレンズを向ける飛行ドローンに目線を送り、そんな風に言いながらも、俺の足は悲鳴がしたダンジョンの奥へと駆け出していた。
:剣の音だ
:モンスターとバトルしてる?
:ちょっとまってて
ダンジョン内の洞窟じみた通路を走る俺。
とても、スマホを見ている余裕は無い。
だが、配信中のコメント欄に書き込まれたテキストは読み上げアプリの音声に変換されて耳元のイヤホンから聴こえてくる。
人工的で無機質なその声は、本来のテキストの主――
妹の「アキ」とは似ても似つかないものなのだが。
:やっぱり!
「何が、やっぱりだって?」
:グリーンドラゴン
:ネットで調べたら、出るみたい
……馬鹿な。
成体のドラゴンといったらA級モンスターの代名詞だ。
「こんな浅い
半信半疑のまま、俺は悲鳴のあった場所へ到着する。
そこには――予想だにしない光景が広がっていた!
「はぁっ……! はぁっ……!」
「グオオオオオ!」
ガキィン、ガキィン――と、大剣が緑色の鱗を叩く。
一人の剣士が俊敏に飛び回りながら、地を這う成体ドラゴンと対峙していた。
剣を振るう戦士は、背丈の小さい可憐な少女である。
遠目でもわかる華奢な身体付き――ちょうど母さんと同じくらいか――その容姿に似合わず、手にしているのは2メートル近い長さの大剣だった。
:星羽ミハルちゃん!!!
「有名な人なのか?」
:うん
:私の推しだよ
「(配信者、ということか……)」
桃色の髪を可愛らしくツインテールにした少女――
おそらく人気の配信者なのだろう。
装備品も目玉が飛び出るほどの高級品揃いだ。
中でも武器は、見ただけで高ランクとわかる強力なグレート・ソードだが……何度打ちつけてもまともなダメージが入っている様子がない。
それもそのはずだ。
「(グリーンドラゴン……あいつには物理属性の攻撃は通用しない!)」
成体のドラゴンにはそれぞれ特性が存在する。
グリーン・ドラゴンの場合、特性は大きく分けて二つ。
一つは、ブレス攻撃。
あいつが吐いた息には毒が付与されている。
もう一つは堅牢な防御力を誇る鱗。
物理的な攻撃に対しては無敵とも言える
それに――!
「魔法といっても、バッドステータスは通用しない。一定レベル以下の呪文や武器の効果ではバッドステータスを受けないのはA級モンスターの共通仕様だ……くそっ、なんでこんなところにA級がいるんだよ!」
だが、そんなことを言っていても始まらない。
目の前の少女――星羽ミハルは、追いつめられている。
この子は優秀な戦士職なんだろうけども、物理攻撃をメインとする彼女ではグリーンドラゴンとは相性が悪い。
「はぁ、はぁ……!」
よく見ると、顔色が青ざめている。
毒のブレスでバッドステータスになっているのだろう。
どうする?
相手はA級モンスターだ。
俺みたいな底辺配信者が刃向かえる相手じゃない。
「当然だ。勝てるわけがない……!」
なら、どうすればいい?
誰か、助けを呼びに行くか?
そうだ、そうしよう。
近くに他の冒険者がいるかもしれない。
ひょっとしたら、たまたまA級モンスターにも勝てるような有名冒険者や、名のあるパーティがいるかもしれないじゃないか。
たまたま、近くに、都合良く……
現実には、それが薄氷のような可能性であっても。
「(どうせ、俺が行ったって瞬殺されるだけだろ?)」
それが合理的な判断――
「た……」
俺が、そう考えて背中を向けようとした時――
「たす……」
俺と、彼女の、目が合った。
「たす、けて……!」
――――ッ!
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「リョウちゃん、アキちゃん。
安心して。パパがいなくなっても……」
そう言って、母さんは俺たちを抱きしめる。
「お母さんが、二人を守るからね」
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その、声が……よく似ていたから。
俺の中から、逃げ出すという選択肢は消え失せていた。
「スキル、発動……」
俺は人差し指と中指を揃えると、足元にしゃがみ指を影に当てる。
「【
そう唱えてユニーク・スキルを発動した。
影は、ゆらりと立ち上がった。
俺と同じ背丈の黒い影――
真っ黒な影人形はグリーン・ドラゴンに突進する!
「グオオオオオーッッ!」
突然の乱入者に対して、グリーンドラゴンは恐るべき爪を振るう。
回避しようにもスピードは段違い――
哀れ、影人形は一撃で切り裂かれる。
「ぐっ……!」
影人形に与えられたダメージがフィードバックして、俺のHPは半減した。
【
MPを消費することで触れた影を実体化させて、影人形として操るスキル。
影の戦闘力は本来の影の持ち主に依存する。
つまり――
弱小冒険者である俺をコピーしても、その戦闘力は弱小のまま。
だがッ――!
「隙は、作ったぜ……!」
「……っ!」
グリーンドラゴンが影人形に気を取られている隙に、俺は星羽ミハルの手を引いて、素早く岩陰に隠れた。
俺の職業は
低レベル職ではあるものの、敏捷力に多くステータスを割り振っている。
あいつの攻撃を回避するほどのスピードは無くても――
「(隙を突いて、逃げ出すくらいは出来るってこと!)」
俺たちを見失ったグリーンドラゴンは怒りの咆哮を挙げた。
「へっ、ざまあみやがれ。
とはいっても、これからどうするかだが……」
「あ、あの。手……」
「ん?」
あっ、と気づいて俺は慌てて手を離した。
成り行きとはいえ、いきなり知らない女の子の手を握ってしまった。
「ごめん! そんなつもりは無かったんだ」
星羽ミハルの顔は赤くなっていた。
恥ずかしい思いをさせちまったな……っていうか。
「(この子も配信者なんだよな)」
近くには俺同様に、配信用のカメラを搭載したドローンが浮遊している。
俺の使ってる格安のレンタル品ではなく、プロが使っている防水機能とか耐久性能に優れた高級品のやつだ、たぶん。
いきなり現れたぽっと出の男が、人気配信者の女の子の手を握ったところがカメラで配信されている……そう考えると、これって炎上案件なのかもしれない。
いや、そんなことはどうでもいいだろ。
今はどうやって生き延びるか……それを考えなきゃだ。
そこで、黙っていた少女が「えっ」と目を見開いた。
「リョウ、ちゃん?」
リョウ――それは俺の本名だ。
なぜ、この子が俺の名前を知っているんだろう?
配信だって登録用のダンジョンネームを使っているのに……
「星羽ミハルさん、だよね? 俺とどこかで……」
そう言いかけた俺の言葉は、衝撃で打ち消された。
星羽ミハル。
桃色の髪色を可愛らしくツインテールにまとめて、魔法的な防御が施されたミニスカートの学生服のような軽装鎧をまとい、ブルーの瞳の中には☆の模様、目元にハートのタトゥーシールをワンポイントにした、背丈よりも長い大剣を手にした戦士職の高レベル冒険者。
その「少女」は、よくよく近くで見ると、まぎれもなく――
「か……」
――母さん?
以東 春子。
俺が最も尊敬している人。
親父が死んでから、俺と妹のアキを女手一つで育ててくれた――
実の、母親。
「最悪の最悪だ……!」
嘘だろ、神様。
冗談じゃあない。何のペテンだ。
こんなことが俺の人生にあるのだろうか。
喉がカラカラになり、言葉を失う。
目まいを感じながらも、俺は現実を直視した。
これは紛れもなく、マジの事実だ。
ダンジョンで助けた美少女配信者が、母親!!!
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