合格発表

ソコニ

第1話  合格発表



私は今日も合格発表を見に来た。


掲示板の前に群がる受験生たちを横目に、私は少し離れた場所から自分の受験番号を探す。13072番。去年と同じ番号だ。


「あった!」


目が合格者の列に飛ぶ。そこには確かに、13072の数字があった。今年こそ合格——。


「おめでとう」


突然、背後から声をかけられ、私は振り返る。中年の男性が立っていた。見覚えのある顔だ。


「あの、もしかして藤井先生...?」


「よく覚えていましたね。去年の面接官です」


私は居心地の悪さを感じた。去年の面接は散々だった。極度の緊張で、まともに受け答えもできず、不合格。それ以来、もう一年必死で勉強して、今年こそは——。


「今年は合格、おめでとうございます」


藤井先生は穏やかな笑顔を向けてくる。その表情が、どこか不自然に見えた。


「あの、試験の内容は変わりましたか?」


「いいえ、去年と全く同じです」


「面接官も...?」


「ええ、私が担当しました」


私は首を傾げた。確かに今年も面接はあった。でも——。


「でも、面接官は女性でしたよ」


藤井先生の表情が凍る。


「いいえ、私が担当しました。はっきり覚えています」


「私も覚えています。確かに女性の面接官で...」


「あなたは、私と面接をしました」藤井先生の声が低く変わる。「そして、その面接で——」


突然、背筋が凍るような悟りが私を襲った。


去年の面接。極度の緊張で倒れそうになった私。救急車のサイレン。そして——。


掲示板に目を戻す。合格者の列に並ぶ13072番。その数字が、ゆっくりと崩れ始めていた。


「そうです」藤井先生の声が遠くなっていく。「あの面接であなたは、心臓発作で——」


私の視界が歪み始める。周りの受験生たちが、まるで私を透かすように通り過ぎていく。


「せめて、合格の喜びだけでも感じてほしいと思って」


藤井先生の姿が霞んでいく。


「毎年、合格発表の日には、ここに来ているんですよ。あなたの受験番号を、合格者の中に入れて」


掲示板の数字が完全に消えた。周りの景色が霧のように薄れていく。


「さあ、もう行きましょう。来年の受験生たちが、そろそろ来る時間です」


私は藤井先生の後に続いて歩き始めた。来年もきっと、この場所に来るのだろう。合格発表を見に。永遠に叶わない合格の夢を見に。


(終)

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合格発表 ソコニ @mi33x

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