ディアメ英雄記 〜カプ厨はお供の二人をくっつけたい!〜

金山 海花

 今から語るものが、一種の自伝としてあの世界に伝わっていくのかと思うと、はっきり言って吐き気がする。自分の黒歴史を誰かに曝け出すと考えると、誰だって嫌になるだろ? いや、俺は別に、嫌な思い出とは思っていないんだが、自分の活躍を自分で語るってのもなあ。けど、俺のことをつゆほども知らない人間にただただキラキラした英雄伝を語られるよりかは、こうする方がよほど俺の心の平穏が保たれる。


 それにほら、あれだ。漫画とかでも、主人公の心情が分かった方が親近感が湧くだろ? 俺のなりたい英雄像ってのはこう、像を建てられるような神聖なものではなくて、もっと身近な、「なんだ、英雄ってそんなもんか」って程度のものなんだ。どの世界で生きていても、どんな功績を残していても、結局人間は人間なんだ。とても素晴らしい存在でも、とても醜悪な存在でもない。世界を構成するすべての人間が、本当に『ただの人間』なんだ。


 なんて、思ってもない御高説を垂れるのも柄じゃないな。色々並べ立てたが、結局この、俺とあの世界の最後の繋がりが、こういう形ってのも悪くないし、多分あいつらも、俺があいつらに何かを残そうとしているのを求めてるわけじゃないと思うしなあ。さて、このまま雑談の延長って感じで語ってもいいが、やっぱりかっこいい枕詞は必要だよな。


 そう、これは後に『最初の英雄』と呼ばれるようになった俺、『ソーマ』と、その後も英雄たちの隣に居続けた、彼ら二人の物語だ。



 リア充爆発しろ、とか、カップルを見るのが嫌とか、まあ多様性の社会、思うのは自由だが、あまり口に出さないでもらいたい。お前達のせいで俺の癒しがなくなるのは勘弁してほしい。幸せなやつは幸せそうにするべきだ。何より、そのほうが俺は嬉しい。この世で幸せそうなカップルほど存在しているだけで心が洗われる存在はいない。なんて、こんなことをしょっちゅう言っているから弟から白い目で「カプ厨め」なんて言われるんだろうな。しょうがないだろ。だって二次元であれ、三次元であれ、彼らは俺の生きる糧なんだから。


 俺は多分、世間で言うところの『普通』なんだと思う。人並みに仕事ができて、人並みに稼いでいて、まあ、容姿も人並みだ。良く言えば割と色々とそつなくこなせる。悪く言えば器用貧乏。特に得意なこともなく、好きなこともあまりない。そもそも、俺からカプ厨というアイデンティティを無くしたら、何にも残らない。それでも、それなりに頑張ってきたし、いつか一軒家を買ってそこを本やら漫画やらで埋め尽くして余生を過ごすという細やかな夢もあった。


 だからこそ、余命宣告を受けた時、本当に呆然とした。

 病名は出したくない。気が滅入る。ただ、見つかった時には既にだいぶ進行しており、手を尽くすが覚悟しろと言外に言われた気がしていた。


 自分の死を、「人間はいつか死ぬんだから」というありきたりな考えで受け入れられるような器は俺にはなかった。しばらく食事が喉を通らなかったし、寝るのが怖くなった。意味もなく泣き出してしまう時もあった。二十代後半で生涯を終えることの苦しみ、後悔、理不尽な運命への怒りもあるかもしれない。余命宣告されてからの一年で、俺はそれまでの人生を足しても足りないくらい、たくさんの葛藤を経験した。

 

 もう、あらかた手は尽くした。俺はもう、本格的に死にゆく運命なのだ。これが死に向かう気持ちか、と俺は思った。病院の清潔なベッドの上、自分の体につながった管。死ぬのを覚悟するための時間は長かったからか、最終宣告は割と簡単に受け入れられた。ふと、学生時代に思いを馳せる。あいつもこんな気分だったのかと思った。


 いや、『終わらせる』事と『終わる』事は別物なんだろう。最近は、あいつの事ばっかり考える。後悔と言うには、あまりにあいつの記憶が朧げだ。本当に厳禁な人間だと思う、俺は。それでも、あの時、一言でも言葉を発していたら。もしかしたら、止められるほどでなかったとしても、あいつが孤独なまま終わることはなかったかもしれない。

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